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第九話

 そこは見渡す限りの氷の平原。

 前後左右どっちを見ても、氷でできた平原だった。

 空を見上げるとどんよりとした灰色の空が広がり、今のジンとライラの気持ちを反映しているかのようだった。



「で? 今度はどこだ?」

「どこって、言われても……どこよ?」

「「はぁ~~~~~~~」」


 二人は、長く深い溜息を吐く。

 山の崩落から助かったようだが、それでもまだ続くこの摩訶不思議な状況に喜びよりも途方に暮れる気持ちの方が強かった。

 あの大きな門から入った時から、迷宮に入り込んだかのようだった。いや、実際迷宮なのかここは。入った者を永遠と惑わす所、迷宮。



「そう言や、中は迷宮になってるって言ってたな」

「そうね。まさか本物の迷宮だなんて……。

 単に内部が入り組んでいるだけかと思ってたわ」

「俺もだ……。こんな滅茶苦茶に、世界が入り組んでるとはな。」

「言い得て妙ね。確かに世界が入り組んでるかもしれないわ。ほんと滅茶苦茶ね」

「この分だとここも、さっきまでと同じかもな」

「だとすると、ここもどうにかなるのかしら」

「多分な。氷が割れるとかするんじゃねぇ~か」

「それまで待つ?」

「いや、それもな~」


「あははははははは~~~~~~~」「ピコ~~~~~~~」


 殺風景な氷原で悩む二人を余所に、しかしリオたちは関係なしに遊んでいた。

 氷原でも滑りやすく平べったい所があったのだろう。その上をうまい具合に滑っていた。



「ピコ~~~~~~~ピコ!」

「すごいすごい!」


 一本足にも関わらずアオは器用にそして優雅に滑っていた。時々ジャンプし高回転もしている。飛んでいる高さも高いので技術点も高いだろう。何の点数かはともかく。


「こうしてても、始まらないのも一緒だな」

「そうね」


 そんな二人を眺めてジンとライラはため息をつきつつ、適当な方向に歩き出した。




――― ◇ ――― ◇ ――― ◇ ――― ◇ ――― ◇ ―――




 一方、先に入ったマリーたちはと言うと沼地を歩いていた。そこは、ジメジメとし枯れた様な木々が所々生い茂る、そんな場所だった。深くないにしても足元はぬかるんでて歩きにくく、足取りは重かった。


「こっちで合っているのかしら?」

「……一応真っ直ぐですが……」


 マリーの問いに手元の方位磁針を見てラルクは答える。先を歩く老人も時折方角を確かめるかのように手元を見ている。


「真っ直ぐで合っているのかしら?」

「……」


 そのマリーの問いにはラルクは残念ながら答えられなかった。




 あの大きな門を入ると彼らの目の前に現れたのは、荒れた荒野だった。遠くに茶色い山が見え近くは枯れた草花所々生えてるだけであとはカサカサの大地が見えるだけだった。

 そんな光景にマリーたち三人は呆然と立ち尽くしていたが、老人だけは手元から方位磁針を取りだして方角を確認していた。そして、三人に今向いている方角を覚えるようにと言い、またその方向へ真っ直ぐに歩くように言った。

 半信半疑だったが、老人の方がここの事を知っているのではないかと思い、老人に続くように歩き出した。


 それが、一つ前の場所。

 変かも乏しい風景に嫌気がさしてきたころ、突如後ろに視界を埋め尽くすような巨大な竜巻が巻き起こった。天まで届く灰色の風の壁と遠くからでも届く風の音にマリーたちは駆け出したが、健闘むなしく巻き込まれて宙に舞った。はずだった。

 気づくとジメジメと地面に全員横たわっていたのだった。

 そして混乱するマリーたちを余所に、老人は徐に手元から方位磁針を取り出して方角を確認するとまた歩き始めたのだった。



「本当にここはどこなのかしら?

 王国のどこかとは思いますけど……」

「しかし、先ほどのような荒れた場所など王国にはございませんが……。

 この場所はありそうと言えばありそうですが、それでも王国とは……」

「では、帝国でしょうか?」

「それは何とも……。

 ドナテルロ様はご存知でしょうか?」


 一人黙々と前を歩く老人にラルクは問いかける。老人は振り向きもせず答えた。


「ここが、どこかじゃと? 儂も知らん」

「そんな……。わずかでも、何かご存知ではないかしら?」

「儂が知っているのは、ここがもうすでに無くなった場所、と言う事くらいじゃ」

「すでに無くなった場所?

 現にわたくしたちの目の前にあるのは幻とでもおっしゃるのですか?」

「それに近い物じゃな。

 実際に見て触れて感じられる、そんな幻じゃ」

「それでは、わたくしたちにとって現実とたいして変わらないのではありませんか?」

「フォッフォッフォッフォ。

 そうじゃの。まったくその通りじゃ。

 現と幻。そもそもたいして違いがないのであろう」


 ふと老人は歩きながら周りを見たわす。その目には何か確認するかのような物が浮かんでいた。


「我々にとって、ここは夢幻じゃが……世界にとっては全てが夢幻なのかもしれぬがな」

「それはどう言う……」

「静かに!!」


 ラルクの質問をヘルネは鋭い声で遮った。そして、鋭く周りを見たわす。


「何かいる!」


 その声に導かれたように、周りの湿った木々の陰からのっそりと薄汚い影が多数現れた。

 その姿は汚い泥に覆われていたが人の様な形をしていた。


「マッドマンか!」


 そうラルクは言い放つと、魔杖を構え炎を解き放った。

 それは、沼地でよく見かける魔物だった。鈍重で脆い魔物だったが、現れる場所が場所だけにこちらも速く動けないので侮っていい相手ではない。

 老人も魔杖抜き放つと同じように魔術を放つ。マリーは腰から鞭を取り出すと魔物に向けて打つ。見るからにどこかの女王様だが、鞭の先端は炎がわずかに灯っておりその軌跡は美しかった。そして、それはただ美しいだけなく鞭打たれた対象をしばらく延焼させるなど結構凶悪だった。



「数はまだまだ集まっているみたいです。このままでは囲まれます。先に進みましょう」


 そう言ってヘルネは先陣を走った。そして、目の前の魔物を切り伏せる。それに、続くようにマリーたちも走る。

 しばらく走ると、沼地のままだが木々の無いすこし開けた所に出た。ぬかるんでいたとはいえ、魔物たちよりかは速く走ることができたからだろう、近くには魔物の影は無かった。

 しばらく、荒い息を整えるよう立ち止まった。



「まったく、あれも幻ですの?」

「さぁ~ての。

 元々魔物は悪夢のような物じゃろうて」

「確かに夢の産物の様ですが……」


 ラルクは今来た方向を睨みながら言う。

 魔物の生態はまだ詳しく分かっていない。いつどこから来るのか。いつの間にか現れ存在し魔核石だけを残し消える。本当に夢の様な産物だった。


「多分ここの場所から迷い出た物なのかもしれんがな……」

「まさか! 魔物はここから来たと言うのですか?」

「かもしれぬ。と言うだけじゃ。

 確証はないがの。勘じゃ」


 何とも言えぬ物が首筋を伝う。そんな感じをラルクは受けた。


「すると、ここは魔物の故郷ですか?」

「フォッフォッフォ。 面白い表現じゃの。

 何とも魔物にぴったしな故郷じゃて」

「笑いごとですか! それなら私たちは魔物の巣に迷い込んだようなものではないですか!」

「そうかもしれぬの。フォッフォッフォ」


 そんな老人の態度にラルクは憮然とした表情を示す。そんなラルクの耳にまたもやヘルネの何か警戒したような声が響いた。


「おかしくないか?」

「何がです?」

「沈んでいってないか、この場所は?」

「何を言って……」


 そんな声にラルクは足元を見るとブーツが徐々に沈んでいっているのが見えた。


「これは! 沈んで、いや、水かさが増している!!」

「どうする!!」

「どうすると言っても!!」


 それは、自分たちが沈み込んでいるのではなく、沼の水位が上がっているのだった。水が流れ込むようにではなく、ただ水位だけが上がっていた。

 そして、その水位が上がる速さも徐々に速くなり……。



「「「「うわぁぁぁぁぁああ~~~、がぼぼぼぼぼぼぼ」」」」



 目に見える全てが水面下に収まった。そこにはどこからともなく落ちた水滴の波紋と音だけが残った。

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