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第七話

 右を向いても海と砂浜、左を向いても海と砂浜。もちろん、前を見ても海と砂浜。そして、見上げると雲一つ無い空に自己主張が激しい太陽があり、そこから痛いぐらいの日差しが降り注いでいた。

 後ろを振り向くと、あの大きな門は影も形も無く、そして見えるのは先ほどの森とは植生の違った木々が少し見えるだけだった。パッと見、南国の海に浮かぶ広い島だった。それが今いる場所だった。



「なんだここは?

 いったいどこだ、ここは?」

「浜辺よ」

「そんくらい、見りゃ分かる!

 どこの浜辺か聞いてんだよ!」

「知るわけないでしょう!!」



 あまりにも唐突すぎた。門の中に見えていた草原からこの浜辺に、紙芝居で場面が切り替わる様に変わった。自分たちは幻を見させられているのかと疑うが、それを払拭するかのように潮の香りが辺りに漂い、潮風が頬を撫でて太陽の日差しが目に突き刺さる。

 こんな幻を見せるだけでなく感じさせる魔術を二人は聞いたことがなかった。せいぜい少しの間そこに無い何かを見せるぐらいだ。もしくは聞かせるくらいか。そして、場所を転移する魔術も見た事も聞いた事もなかった。

 そんな二人は暫しの間、茫然とするしかなかった。もちろん、動じない者たちもいた……。



 海と砂浜との境界線は少し向こうにあり、静かに波がその間を行き来していた。その境界線をリオとアオが波を避けて走り回っている。


「あはははは~~~~」「ピコ~~~~」


 静かな波の音を蹴破って、辺りにリオたちの遊ぶ声が響く。アオは案山子なのに、ぴょんぴょんと飛び波を避けている。何気に高機動な案山子だ。案山子としてそれはどうかと思われるが。


 混乱するジンとライラを余所にリオたちは元気に遊んでいた。静かに波が打ち寄せると逃げ、引くと追いかける。そんな、遊びをリオたちはしていた。

 しばらくその遊びを続けているとジンたちの様子が気になったのか、リオたちは二人の所に戻った。


「どうしたの?」「ピコ?」

「どうしたのって。よくこんな状況で遊べるな」

「? 海だよ?」「ピコ?」

「ああ、海さ。たしかに海だ。

 でも、なんで海が目の前にある?」

「? 海は海だよ?」「ピコ?」

「はぁ~~~」


 ジンは潮風と共に何かが流されて行くように感じた。

 ジンとて海には来たことはあるし、泳げるので嫌いではない。しかし、それは時と場合による。自分たちは確かに先ほどまで森にいた。そして、あの門の中に入った途端ここに来た。唐突すぎて呆ける以外何も思いつけない。ましてや、海で遊ぶことなどできやしない。

 そんなジンの耳にライラの声が流れ着く。


「ねぇ、あれは何かしら?」

「……ここからじゃ分からねぇな」


 ライラが指し示す先を視線で追うと、右手のずっと遠くにポツンと何かが白い砂浜にあった。流れ着いた何かであろうか、比較対象が砂浜しかなく大きさも分かりずらい。ジンが言う様に、ここからだと遠くて確認できない。


「ここにいたってしょうがねぇ。

 あれでも見に行くか」

「そうね。何か分かるかもしれないしね」


 そう言うとジンたちは、その遠くに見える謎の物体の正体を確認する為砂浜を歩き出した。




「難破船か……」

「そうみたいね」


 しばらく歩くと、マストが無い木製の小舟が砂浜の上に半ば朽ちているのが見えた。ぼろぼろの船体は辛うじて船とわかるくらいしか残されていなかった。長い間潮風と強い太陽の日差しを受けていたのだろう、変色し触るだけで崩れそうであった。


「だいぶ、経っている様だな。あっちこっちぼろぼろだ」

「ホントね。

 ただの小舟の様だけど」


 半分ほど残った部分を見るに、この船は四人くらいで漕ぐタイプの物だろうか。何かをしまっておくような処は無く、中を覗いても何もなかった。他に何かないか手分けして周り探してみるが何も見つからない。



「朽ちた船以外何も見つからねぇ~。

 一体全体、なんだここは?」

「ただの砂浜に小舟の難破船。

 私たちがこの船と一緒に流れ着いたと言った方がまだ信じられるわね」

「だな。他のやつに話してもそっちの方が信じられる。

 さっきまで、森にいました~なんて言うよりかはな」


 自分で言っていても信じられないと言う風にジンは目を細めながら言う。酔っている訳でも呆けている訳でも無い。意識は明瞭で体調も万全だ。でも状況だけが唐突すぎてついて行けない。

(そもそもここは遺跡の中なのか? 遺跡の痕跡はあの門だけで、その門も消えた。何か悪い夢でも見ているみたいぜ、まったく!)


 ジンはそんなことを考えながら、ふと気づく。そういえば、リオが門の中から来たと言っていた事に。



「リオ!

 そういや、門の中から来たって言ってたな。

 前もこうだったか?」


 ライラもはっとしたようにリオの方を向くと、リオは何やら砂浜を手で掘っている最中だった。


「前~~?

 海じゃなかったよ~~」

「マジかよ!

 まさか、別なところに飛ばされたのか?」

「そんな!

 いえ、そうだと決めるのは早いわ!

 ねぇ! リオ、前はどんな所だった?」

「前はね~、ひっろ~い草いっぱいのところだったよ~」「ピコ」


 どこを見てもいっぱいの草なんってここには無かった。申し訳程度に少し生えているくらいだ。絶対リオが来たと言う場所ではないだろう。

 そんなリオの言葉にジンとライラは動きが止まった。リオはそんな二人に構わず穴掘りを再開する。同じ潮風なのに違う風が二組の間を吹いていた。




「ねぇ~どうするのよ一体?」

「どうって……どうする?」

「……それを聞いてるのよ!」

「んなこと言ったってよ~~」


 ジンとライラは、途方に暮れたのか難破船を背に座り込んでいた。たしかに、海と砂浜とに囲まれ少しの木々と朽ちた難破船しかない場所で、一体どうしろと言うのだろうか。

 いっそうこのまま潮風に吹かれながら寝てしまって、すべてを忘れたい気分だった。

 でも、そんな二人の横では何か掘り当てたのか、リオはアオと掘り出し物を眺めていた。そして、リオはふと何かに気づいたのか、来た方角とは逆の方角を指差してジンたちに言った。


「なんか変だよ。あれ~~」「ピコ」

「あぁあ~~ん。

 変って、何が変だって言うんだ?」

「何も変な所なんて……」


 ジンたちもリオの指さす方を見たが、何も変な物は見えなかった。ずっと左右を分ける様に続いている海岸線と波が、ただ見えただけだった。


「「波!?」」


 そう、波が見えた。高い高い波が……。


「逃げるぞ!!」


 そう言ってかばっと立ち上がると、ジンは一目散に逃げ出した。それにつられる様にライラたちも走り出す。


「逃げるって、どこに逃げるのよ!!」

「知るかよ!!」


 いきなり予期しない所へ来た思ったら今度は予想外の事が起きる。そのことに若干自暴自棄になりながら、それでも最後まで諦めてたまるかと砂浜を駆け抜ける。



 しかし、そんな思いに対してその波は思いの外速く、ジンたちに追いつく。



「「「うぁぁぁぁぁぁぁああああ~~~~」」」「ピコ~~~~~~」



 そして、その波は無情にも彼らを巻き込んでいく……。

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