第六話
「これが……そうですの?」
「そうじゃ!! これじゃ! これに違いない!」
マリーたちは老人と会った後、老人を引き連れて昨日ジンたちから盗み聞いた情報を元に森の奥地に来ていた。リオが倒れていた広場までは比較的簡単に来れたが、そこから先は少し時間がかかってしまった。
そして、見つけた物。それは何かしらの金属でできた大きなアーチ状の物だった。色はくすんだ黒色とでも言おうか、文字も何も無い表面に入口を囲むように一つの素材でできていた。そんな物が森の中ぽっかり穴が開いたような広場の真ん中に、ただそれだけが建っていた。
「門と言うには、扉がありませんね」
「確かにそうですわね。
これだと、アーチ? でしょうか?」
確かに門と言うには扉は見えず、ただ向こう側だけが見えていた。
「で、その門?以外何もありませんが?」
そう、ラルクが言う様にその門以外原っぱには何も無かった。
「いや、その中にあるのじゃ」
「中、ですか?」
「ほれ、見てみるのじゃ」
そう言って老人は傍に会った小石を手に取るとおもむろに門の中に投げ入れた。すると、投げ入れた石は視界から消えて無くなった。
「これは!」
「……これは、どういう事ですの?」
「ある種の魔法じゃ」
「魔法?」
「そうじゃ。魔術とは世の理の中にある物。魔法とはその理の外にある物。
要は人には理解できぬ物じゃ。いや、一部理解出来る物かの」
「このような物が一体、なぜこのような場所に?」
湧いて出た疑問をマリーは老人に投げ掛ける。考える時の癖だろう、老人は白く少し長い髭を撫でながら答えた。
「たまたまじゃ」
「……大した理由が無いとおっしゃるのですか?」
「人にとってはな。
人の理解の範疇に収まらんと言う事じゃ」
「でも、扉があるという事は誰かが作ったのではないのですか?」
ラルクも疑問を投げかける。確かに門は誰かが作ったようであった。
「この門はただの目印じゃ。
こことあそことを結ぶな」
「あそことは、一体?」
「あそことはあそこじゃ」
老人はそう言うと鋭い視線を門の中の先に送った。マリーたちにはその見据える先には何も変哲もない草原しか見えなかったが。
「……森の中なのに草原が見えるなんて、よく考えたらありえませんわね」
「何とも不思議な現象ですね。
これほどの物など王国、いや全世界でもありえませんよ」
「いや、ありえるじゃろ。言ったであろう。
たまたまだと、そして理解の範疇外だ。とも」
「こんなのが世界中にあると言うのですか?」
「あっても不思議ではない、と言う事じゃ」
「では、これは一体何ですか?」
老人はラルクの質問に少し考える様にして門を見据えたまま答えた。
「今は分からん。
だからこうして、儂自らおもむいたのじゃ」
「そうですか」
老人につられる様にラルクもこの得体のしれない門を見つめる。
「で、どうしますか?
入りますか? それとも引き返しますか?」
今まで口を開かなかったヘルネが周りを警戒しながら問う。彼女は難しい話には加わらないが自分の仕事は良く分かっている。
「それは……。
中に入っても大丈夫でしょうか?」
「大丈夫のはずじゃ。
入って帰って来ておる者がおる。そうでなくては後世に語られることも無いじゃろ」
「それはそうですが……」
かなり不安そうにマリーたちは門を見る。その記述そのものが嘘かも知れないし、今回は帰れなくなっているかもしれない。
「儂は行くつもりじゃ。
ここで待っていたらいい。なんなら儂を置いて帰ってもらってもかまわん」
「しかし、そう言う訳には……」
「報酬か? それなら今渡そう。
確かに目の前に儂が言っていた物があるのじゃからな、ほれ」
そう言うと老人は懐から金をマリーたちに渡すと、今にも行こうとしていた。
「お待ちください。せめて、安全を確認してからじゃないと……」
「行くなら一緒の方がいいぞ。バラバラに入ると中でもバラバラになるやもしれん」
「……なんてやっかいな場所なんだ」
ラルクは少し途方に暮れたように言う。
しかし、そんなマリーたちの逡巡をあざ笑うかのように事態は動き出す。
「お客が来たようだ」
「客?」
ヘルネがゆっくりと後ろを向きながら告げると、原っぱのマリーたちが入ってきた方から人影が現れた。
「てめぇら! マリーじゃねぇーか!!
なんでここに!!」
「オ~~~~ホッホッホッホッホ。
誰かと思えば、お間抜けさんではありませんか」
驚くジンたちを見るのがとても嬉しいのか、マリーの笑い声が原っぱに響いた。少し周りの森にも。
「さてはてめぇら、盗み聞きしやっがったな!」
「盗み聞きとは、人聞きの悪いことを。
貴方のどら声が悪いだけではありませんか?」
「んだと、てめぇ!」
「オ~~~~ホッホッホッホッホ。
敗者の戯言は耳に心地いいですわね」
マリーの笑い声が天高く響く響く。ここが魔物が行き交う森の中という事はすっかり忘れている様だった。
でも、そんな笑い声を止める声が上がった。
「オ~~~~ホッホッホッホッホ」
「おばさんだ~れ?」
「おばっ!?
オホッオホッ、オ~~ホッホッホッホッホ。
この妖艶なわたくしの美貌に目がくらんだ様ですわね。
わたくしはこれでもぴちぴちの十八歳ですわ!!」
そんなマリーの言葉を受け、ジンは隣に目を向けて言う。
「同じこと言ってるぞ」
「あんな年増と一緒にしないでくれないかしら」
「誰が年増ですか!! 貴方がたと歳は一つしか違わないでしょう!!」
「年上なのは変わらないじゃない」
「なんですってぇ~~!!」
そんな喧噪を余所にラルクは思考をまとめる。ここでジンたちが来たからには先に進むしかない。どうせマリーたちが行かなくてもジンたちは行くだろう。ラルクもジンたちの事は良く知っている。
ラルクはヘルネに目配せをすると、マリーと老人に言う。
「マリー様、そのような者たちは放って置きましょう。
ドナテルロ様もいいですね?」
「そうですわね、わたくしたちは忙しい身。
精々貴方がたはそこで喚いていればよろしいでしょう」
「そうじゃの。では行くか」
そうマリーたちは言うとヘルネを先頭に、続けて門の中へ入っていく。
音も立てずに消えていくマリーたちにジンたちは暫し唖然として立ち尽くした。
「何よこれ? 一体なんなの?
マリーたちは消えたわよ!」
「分かってる。俺にもそう見えた」
「あれが噂の門かしら?」
「だろうな。だから、あいつはここで笑い声をあげていた」
ジンは何かを探る様に門を見据える。
「リオ、お前が見たって言う門はこれか?」
「うん、そうだよ~」「ピコ」
「確かに大きい門だ。しかし……」
中に入った人が忽然と消える。そして、中には無いはずの草原が広がって見える。そんな門の前にジンたちはマリーたちと同じように行くかどうか躊躇する。
「入っても大丈夫かしら?」
「……大丈夫だろう、多分」
「大丈夫だよ~」「ピコ」
「なんで、わかるんだよ」
「だって、この中から来たからね~」「ピコ~」
「「はぁあ~~!?」」
リオたちの衝撃の発言に暫しジンとライラは固まる。
「いやそれなら、大丈夫なのか?」
「大丈夫かしら……。でも、それなら彼女らに追いつかないと、先を越されるわ」
「だな。お宝までは渡せない。
覚悟を決めて行くか!」
「うん、行こう行こう!」「ピコ~!」
リオたちの言葉を信じて、ジンとライラは決意を固めると門を見据える。
「じゃ、行くぞ!」
「「うん!」」「ピコ!」
そう言ってジンたちは門の中へ飛び込んだ。静寂を原っぱに残して。そして……。
「「ここはどこ!?」」
飛び込んだ先は、森の中では無くて……。
「うみ~~~~~~!!」「ピコ~~~~~~!!」
青い青い海と白~い砂浜が広がり、サンサンと太陽が照りつける場所だった……。




