親友【神酒視点】
「キララ・・?ナミ・・?・・リコ?」
これは夢?最初はそう思った。でも、夢じゃなかったんだ。
三人の笑顔と呼吸が間近に伝わってくる。肌の温かさがあたしに届く。
「みんな!!」
あたしは走り出した!
幻なんかじゃない!だってみんなは、しっかりとあたしを受け止めてくれたんだから!!
「ミキ、随分頑張ったね。」
「辛かったでしょ?ミキさん。」
「ごめんねー、ミキ。リコのせいで随分苦労かけちゃったね。」
昔のままだ。みんな昔のままだ!変わっていない!
あたしは嬉しかった。心の底から嬉しかった!
あたしの心の中に入り込んだ悪魔・レギオンは、あたしの記憶の中からキララたちの記憶を消そうとしてたんだ。
ステキな思い出は希望につながっちゃうからね。
でも、恥ずかしい話だけど、あたしもその企みに乗っちゃったんだよね。
だって、忘れてしまわなければ、あたし自身が耐えられなかったから。
でも、心の底の何かがそれを拒否していたんだ。
本当ならば忘れてはいけないもの。いつまでも心に留めておかなければならない大事なもの。
キララ達は、それをあたしに気付かせてくれたんだよ。
「キララ、ナミ、リコ、無事だったの?」
3人は返事をしなかった。何かすごく答え難そうにしていたんだけど、心配をかけたくないと思っていたのかな。
笑顔は絶やさなかった。
あたしは急に心配になって、こう叫んだんだ。
「お願い!あたしも連れていって。」
でもね、みんなは「うん」っては言ってくれなかったの。少し困った顔してさ。
それでね、キララが静かにあたしの手を取ると、優しくこう言ったの。
「ミキさん。残念ながら、あなたを連れて行くことはできません。」
キララはあたしの願いを聞いてはくれなかったけど、そんなキララをあたしは不思議と冷たいとは思わなかったよ。
だって、理由は分からないけど、間違いなくキララ達はあたしのことを大切に想ってくれている。
くやしいけれど、絶対にそうしてはいけない理由があるっていうのが、なんとなく伝わってきていたから・・・。
「ミキ。まだミキには仕事が残っているんだよ。」
ナミがあたしの額をつんと付いた。
「そうよ、ミキ。リコ達のためにやらなきゃならない事が残っているんだから。」
キララがリコの顔を見てうなずいた。
「ミキさん。私達は残念だけどあなたを連れて行くことはできません。でも・・。」
「でも?」
「あなたは・・。ミキさんは、私達を連れて行ってくれることが出来るのよ。」
「あたしが・・?連れて行く?」
「そう。」
ナミがキララから握っていたあたしの手を奪った。
「ミキにしかできないことなんだよ。」
ナミはもう一度あたしの手を強く握ると、再びその手を離し、くるりとあたしに背を向けた。
ナミの黒い綺麗な髪が、風に揺れる水面の陽の光のようにさらりと流れた。そして少し遠ざかったナミがもう一度あたしの方を振り返った時、あたし、気付いたことがあったんだ。
ナミの姿が少し薄くなり始めていることに・・・。
「ナミ・・?」
「ミキ。生きて帰って。」
「ナミ!?」
あたしは消えていくナミに気が付き、驚いて声を上げたんだけど、ナミの笑顔は最後まで途切れなかったよ・・・。
「生きて帰って。必ずあたしのこと、パパとママと妹に伝えてね。大好きだったって・・。」
はにかんだみたいなナミの笑顔。
あたしにははっきりその時判ったんだ。
ナミには大事な人に伝えられなかった言葉がある。
それをあたしに伝えてって・・・。
ナミはあたしにそう言いたかったんだ。
★
ギリリ・・・。
何かが強くきしむ音がした。
★
「ミキ!」
リコはあたしに飛び付くと、あたしの頭を強くグリグリした。
「イタタタ・・・。」
いつも学校であたしにしてきた迷惑なリコのクセ。でも、そんなリコの肌の温かさが、言い様のない感情と一緒にあたしに伝わってきた。
「ほんとにミキは泣き虫だよね。」
リコの少し毒のある憎まれ口は相変わらずだったけど、彼女の目が少しだけ潤んでいることにあたしは気が付いた。そしてリコはあたしの頭から手を解くと、ナミと同じようにあたしから離れていったんだんだ。
「ミキはさ・・。」
リコは最後に精一杯の笑顔を作って、そしてあたしに小さくVサインをしてくれた・・・。
「笑っている時が一番かわいいよ・・。」
★
先程から聞こえるきしみの音。
それはやがて、砕ける音へと変わる。
★
最後に一人残ったキララ。
彼女の姿ももう薄くになってきていて、あたしにはキララとのお別れの時間が近づいていることが判った。
「キララ・・。」
本当はね、あたし・・・。
本当はもっと伝えたいことがいっぱいあったの!
キララにもナミにもリコにも、言いたいことがいっぱいあったんだ。
でも、あんまりありすぎて・・・。
言いたいことがたくさんありすぎて・・・。
結局、なんにもキララたちに伝えることができなかった。
「ミキさん。」
キララは優しく囁いた。
「ミキさんはまだ気付いていなかったのね。私達、ずっとミキさんと一緒に居たんだよ・・。」
遠ざかるように消えていくキララの影。
あたしはキララの肩に手を伸ばしたけど、もうあたしの手はキララには届かなかった。
「忘れないでね。これからもずっと一緒にいるよ。みんなと一緒に・・・・。」
キララが消え去る最後の瞬間、彼女はあたしのの頬に軽くくちづけを贈ってくれていた・・・。
★
繰り返し響く破壊音。
それは、崩れていくレギオンの音だった。
今、絶望の底から一人の少女が這い上がろうとしているのを、怨念の悪魔は食い止めることが出来ないでいたのだ。
レギオンは本来、神酒を絶望のうちに取り込もうとしていた。彼女の心の闇を欲していた。
だが目測は外れた。闇を取り込むはずが、悪魔は光を取り込んでしまったのである。
本当ならば越えることが出来ないはずの壁を越え、深く紡ぎ合わされた四人の想い。それは強い輝きとなり、雛の森に巣食う真の邪悪な闇を眩い光で照らし出したのだ。
★
「ありがとう・・。」
消えていく親友を見送りながら、やっと最後にあたしの口から出た一つの言葉。
それは本当にたった一言だけだったけど、これが今のあたしの精一杯。
みんなはあたしを信じてくれていた。
だったら、あたしがみんなの事を信じないでどうするの?
あたしは生きて帰らなければいけない。
帰って伝えなければいけない。
キララのこと。ナミのこと。リコのこと。
そして、雛の森のこと。
もうこんな悲しみを繰り返さないために、
あたしに出来ることは、なんだってやってやる。
だって・・・・・。
だって、みんなが一緒だ!だからもう恐くない!!




