絶望より【神酒視点】
闇は人の心を語る。
昔日の賢人はその中に何を見たのだろう?
人は闇の中で迷う。進むべき道を隠し、誤りを覆う。
その先に見えるものは無。
それ故、闇の中で人は己の心に帰る。
自分を見つめ、しばし立ち止まる。
闇の中に見えるは自分の心。
心が安らかにあれば、
闇もまた人に安らぎを与える。
されど心に曇りがあれば・・・。
あたしは一人、真っ暗な闇の中に座っていた・・。
ここが何処かは分からない。どうやってここに来たのかも分からない。
でも、それを知りたいという気持ちにはなれない。
あたしの心は深く沈んでいた。
後悔・・・。
今のあたしの心の中にあったものは、多分それだけだったと思う。
繰り返し波のように迫ってくるあの時の光景。
あたしがキララやナミを雛の森に誘って、森の中でナミが消え、地下墓地でキララがいなくなって、それから。
それから・・・。
あたしが・・・誘った・・・?
誘ったのはあたし?
どうして、あたしは生きているんだろう?
リコ。ナミ。キララ。
どうしてあなた達はいなくなってしまったの?
あたしのせい?
あたしが誘ったせい?
【そうだよ。お前のせいだ】
どこかから声が聞こえた。
いつもなら「うるさい!」って跳ね除けられるだろうね。
でも、今のあたしにはそれができない。
それぐらい落ち込んでいるあたしの心。
多分あのパラケルススの体の中から出てきた黒雲のせい。心のどこかでそれは判っていたよ。
でも、だからって・・・・。
それが判ったってどうなるの?
それであたしの罪は消えるの!?
みんなはあたしのせいで死んだんだよ!
あたしがみんなを誘ったから!
キララやナミをこんな所に連れてきたから!
ううん、それだけじゃない。
リコだって、あの時しっかり話を聞いていたら・・。
リコの言うことを信じていたら、リコだって助けられたかも知れない!
あたしはバカだ!バカだ!バカだ!!
みんな、なんであたしの身代わりなんかになったの!?
あたしにあなた達の代わりに生きる価値なんかあるの?
【彼女達も後悔してるさ。お前の代わりに痛い思いをしたんだからな】
そうだよ。今頃みんなそう思っている・・・。
もし生きて帰れたとして、無事に戻れたとして、その後あたしはどうすればいいの?
みんながいない所で、あたしはどうやって生きていけばいいの?
もう楽しいことなんて何も無い。
みんながいない生活なんか・・・考えられない・・・。
【ヒャハハ・・!お前にはもう希望なんか無いんだよ!!】
キララ・・。ナミ・・。リコ・・。
楽しい思い出が甦ってくるほど、あたしは苦しくなっていった。
だって、もう一緒の思い出が増えることはないんだ!
楽しいことして笑ったり、どうでもいいことで本気で悩んだり、喧嘩することだって・・・できない・・・。
あたしがいなかったら、キララもナミも死なずに済んだかも知れないんだよ!
もしかしたらリコだってきっと・・。
あたしは、声を上げて泣くこともできなかった。
自分が壊れていく・・・。そんな自分を感じ取っていた。
もう忘れたい・・・忘れたいよ・・・。
キララのことも、ナミのことも、リコのことも。
もう何もかもイヤだよ・・・。
【ヒヒヒヒ・・・!忘れさせてやるよ!】
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?
ふと目をやると、腰の部分に小さな光が輝いていることにあたしは気付いた。
光は小さかったけど、それでも「気付いてくれ」って言ってるみたいだった。
なんだろう?
あたしがポケットに手を入れると、何か手に当たる物があったんだ。
それはお守り。
ピンクの生地に銀糸で彩られたキラキラ輝くそれが、いつの間にかあたしの手の中にあって、あたしはそのお守りをボンヤリと眺めていた。
これ・・・誰のだったかな・・・。
あたしの・・・?
それでね。その時、不思議な事が起きたの。
あたしの手の中にあったお守りの中から、何か小さく輝くものがヨチヨチ這い出してきて、まるで「見て」って言ってるみたいに、あたしの目の前をフワフワと飛び回り始めたんだ。
それは、三匹の真っ白な蝶だった。
モンシロチョウじゃないよ。
頭の先から足の先まで真っ白な蝶。
ううん。もっと正確に言えば、白いんじゃなくて、優しく輝いていたの。
温かかった・・・。
それでね、温かかっただけじゃなくて、なんか懐かしいって気持ちも一緒に沸いてきたの。
昔、誰かからフワッと優しく抱きしめられたみたいな、そんな温かさ。
でもね、この時はまだ、誰から抱きしめられた記憶だったか思い出すことができなかった。
なんだろう?この感じ・・・。
あたし、何か忘れ物をしている気がする。
忘れちゃいけない大事な物・・。
もう少しで思い出せそうな気がする・・。
蝶の輝きが強くなった時、あたしは一瞬だけ目をそらした。
そして光が落ち着き、あたしが蝶に再び視線を戻した時・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!
あの時のこと、あたしは一生忘れない。
むせるようにあたしの頭の中に流れ込む感情の波。
だってそこには、いなくなったはずのキララが、ナミが、そしてリコが立っていたんだもん!。




