第七話 もしも
しばらく……波の音だけが聞こえていた。
神様は、アザラシを見ていた。
「……不服かい?」
「うん」
即答だった。
「でもね」
アザラシは顔を上げる。
「僕が干支になれたかどうかは、今となってはどうでもいいんだ」
「……どうでもいい?」
「うん」
神様は少し驚いた。
「じゃあ、何が不服なんだい?」
「僕に聞かなかったこと」
「……」
「僕が参加したかったかどうかも聞かずに」
アザラシは海を見る。
「勝手に決めたよね」
神様は黙った。
「……そうだね」
「僕が陸で遅いから」
「うん」
「恥をかくかもしれないから」
「そう」
「だから、呼ばなかった」
「……うん」
アザラシは少し考えた。
「じゃあ、聞くけど」
「何かな?」
「もし僕が参加してたら」
「どうなってた?」
神様は答えなかった。
「……分からない」
「だよね」
アザラシは頷いた。
「神様にも分からないんだ」
「……結果は、やってみなければ分からない」
「そうだよね」
アザラシは静かに笑った。
「じゃあ、なんで決めたの?」
神様は言葉を失った。
「僕が勝つかもしれない」
「……」
「負けるかもしれない」
「……」
「途中で疲れて寝るかもしれない」
「それは……ありそうだね」
「でも」
アザラシは神様を見上げた。
「それを決めるのは、僕じゃない?」
神様は何も言えなかった。
「僕が参加して」
「うん」
「僕が這って」
「うん」
「僕が負ける」
「……」
「それなら、僕も納得するよ」
アザラシは海を見る。
「だって、やりきったって言えるから」
波が静かに寄せてくる。
「でも」
アザラシは再び空を見る。
「最初からやらせてもらえなかったら」
「僕は、ずっと分からないままだよ」
神様は黙っていた。
その言葉を否定することができなかった。
「……君は」
「何?」
「本当に、それだけのためにここまで来たのかい?」
「うん」
「私を探して?」
「うん」
「ずっと地面を這って?」
「うん」
「……」
神様は少しだけ笑った。
「それが君らしさなんだね」
「どういう意味?」
「いや」
神様は空を見上げた。
「なんでもないよ」
そして。
アザラシは静かに言った。
「僕は、まだ納得してない」
神様は答えた。
「……そう」
海は静かだった。
けれど、二人の話はまだ終わっていなかった。




