第六話 神様とアザラシ
ズリ。
ズリ。
ズリ。
アザラシは進んでいた。
神様を探して、ただひたすらに……。
空から、その様子を神様は見ていた。
「……」
まだ来る。
ズリ。
ズリ。
ズリ。
「……本当に来るとは」
神様は少し困っていた。
なんとなく……アザラシが怒っている。
それは分かる。
「……どう声を掛けたものだろう」
神様は考えた。
普通なら、こちらから声を掛ければいい。
だが、今回ばかりは少し気まずい……。
なぜなら。
アザラシの怒りが神様にも伝わっていたから……。
「……」
神様が考えていると。
アザラシが突然、立ち止まった。
そして……空を見上げる。
「……」
神様も動きを止める。
「……そこにいるよね?」
神様は黙った。
「いるよね?」
しばらく沈黙が続く。
やがて。
「……いるよ」
空から声がした。
アザラシは少し目を細めた。
「やっぱり」
「……分かったのかい?」
「うん」
「どうして?」
「君が神様だから……かな」
「……」
神様は少し困った。
理由になっているような、なっていないような。
「……それで、何か用かな?」
アザラシは神様を見上げた。
「聞きたいことがある」
「何かな?」
「僕」
「呼ばれてないよね?」
神様は黙った。
「……」
アザラシも黙っている。
ただ、答えを待っていた。
「……そうだね」
神様は静かに答えた。
「君には、声を掛けなかった」
「やっぱり」
アザラシは俯いた。
「なんで?」
「……」
神様は答えを選んだ。
「君のためだった」
「僕のため?」
「そう」
神様は続けた。
「君は水中では速い」
「うん」
「泳ぐのも得意だ」
「うん」
「でも、あのレースは陸上を走るものだった」
「うん」
「君は陸上では……」
神様は少し言葉を止めた。
「……這うことしかできない」
アザラシは黙っていた。
「だから、無理に呼ぶ必要はないと思った」
「もちろん、他にも陸が得意ではない子達にも声は掛けてはいない」
「……」
「君達が恥をかく必要はない」
「……」
「それが、君のためだと思ったんだ」
しばらく……波の音だけが聞こえていた。
アザラシは顔を上げる。
「……そうなんだ」
「神様が言ったみたいに呼ばれてないのが僕だけじゃないのはわかったよ」
「でも、僕は腑に落ちないんだ」
怒っているようには見えなかった。
むしろ……少し悲しそうであった。
「神様」
「何かな?」
「僕が参加したかったかどうかは、聞いた?」
「……」
神様は答えられなかった。
「聞いてないよね?」
「……聞いていないよ」
アザラシは頷いた。
「そっか」
それだけ言って、海を見た。
「……じゃあ、やっぱり不服だ」
神様は何も言えなかった。




