第五話 神様の言う通り
遥か昔。
干支を決めるためのレースがおこなわれる少し前……。
神様は、動物たちを集めていた。
「鼠」
「はい」
「牛」
「はい」
「虎」
「はい」
次々と動物たちが集まってくる。
神様は一匹ずつ確認していった。
そして。
「……」
海を見る。
そこには、一匹のアザラシがいた。
アザラシは海の中を泳いでいる。
速い、かなり速い。
しかし。
陸に上がった。
「……」
ズリ。
ズリ。
ズリ。
ゆっくりと地面を這っている。
神様はしばらく見ていた。
「……アザラシか」
存在を知らなかったわけではない。
知ってはいた。
泳ぐことが得意なことも。
水中ではかなりの速度だということも。
しかし。
「今回のレースは、陸上を走るものだからな」
神様は考えた。
アザラシは陸上では這うことしかできない。
この子は、このレースには向いていない。
「……呼ばない方がいいだろう」
悪意ではない……むしろ、神様の善意だった。
アザラシを馬鹿にしたわけでもない。
無理に参加させて、恥をかかせる必要もない。
「本人のためだ」
そう考えた。
「他にもこのレースに不向きな子には、遠慮してもらおう」
そして、アザラシは声を掛けられなかった。
それから、幾許かの時間が過ぎた。
現在。
神様は空から地上を眺めていた。
すると。
「……ん?」
何かが動いている、海辺から陸へ。
ズリ。
ズリ。
ズリ。
ゆっくりと進んでいる。
「……あれは」
神様は目を凝らした。
「アザラシ?」
そのアザラシは、ひたすら地面を這っていた。
「何をしているんだ?」
神様はしばらく見ていた。
すると。
アザラシが空を見上げた。
「……神様、どこにいるんだろう?」
「……」
神様は固まった。
「……まさか」
アザラシはまた進む。
ズリ。
ズリ。
ズリ。
「神様に聞きたいことがある」
神様は黙って見つめていた。
「……」
嫌な予感がする。
いや、そんなはずはない。
しかし。
「……あのときのアザラシか」
神様は思い出した。
レースに呼ばなかった。
本人のためだと思った。
だから。
「……」
神様は空から地上を見下ろした。
そして、小さく呟く。
「……怒ってる?」




