第二十二話 神前のアザラシ
コロン。
コロン。
コロン。
アザラシは進んでいた。
もうレースの道ではない。
周りには誰もいない。
「……」
アザラシは……。
少しだけ空を見上げる。
「……」
そしてまた転がる。
コロン。
コロン。
コロン。
しばらくすると。
目の前に、一つの大きな門が現れた。
「……」
アザラシは門の前で止まった。
「……ここかな」
門はゆっくりと開いた。
その先には……神様がいた。
「……」
神様はアザラシを見る。
「来たのですね」
「うん」
「……」
神様は……少しだけ。
困ったような顔をした。
「レースは……」
「うん」
アザラシは、神様の言葉を遮るように口を開いた。
「神様」
「はい」
「僕ね」
「……?」
アザラシは少し考える。
「レースって」
「……」
「結構、面白かったよ」
神様は黙っている。
「最初は」
「ズリズリしかできなかったけど」
「……」
「途中で転がったら」
「結構、速かった」
「……そうですか」
「うん」
アザラシは……。
少しだけ遠くを見る。
「いろんな動物がいたよ」
「……」
「みんなすごく速かった」
「……」
「でも」
「僕を見て驚いてた」
アザラシは少しだけ笑った。
「僕はただ進んでただけなんだけどね」
神様は何も言わない。
「それでね」
「……はい」
アザラシは神様を見る。
「僕……結構、先まで行けたよ」
「……」
「最初は無理だと思われてたんでしょ?」
神様の表情が……少しだけ変わる。
「……」
アザラシは続ける。
「陸じゃ這うことしかできないから」
「レースには向かないって」
「……」
「そう思ったんだよね?」
神様は答えない。
アザラシは少しだけ首を傾げる。
「……」
そして静かに言った。
「神様」
「はい」
「僕」
「……」
「速かったでしょ……?」
神様は何も言わなかった。
アザラシも何も言わない。
ただそこに……静かな時間が流れていた。




