第二十一話 アザラシの分岐点
コロンコロンコロン。
アザラシは。
亥(猪)の後ろを転がっていた。
「……」
亥(猪)は何度も後ろを確認する。
「……来ている」
コロンコロンコロンコロン。
距離が少しずつ縮まっていく。
「……!」
亥(猪)はさらに速度を上げる。
「まだだ……!」
それでも、アザラシは近づいてくる。
「……くっ!」
亥(猪)は必死に前を見る。
だが、アザラシは追いついていた。
もうすぐ後ろ。
「……!」
亥(猪)は覚悟する。
次の瞬間。
抜かれる……そう思った。
しかし。
「……?」
何も起こらない。
亥(猪)が、恐る恐る後ろを見る。
アザラシが……そこにいた。
すぐ後ろなのに、抜いてこない……。
「……なぜだ?」
コロンコロンコロン。
アザラシは、亥(猪)の後ろをただ転がっている。
「お前……」
亥(猪)が少し速度を落とす。
アザラシも速度を落とす。
「……」
亥(猪)は振り返る。
「私を抜かないのか?」
「……?」
……アザラシは少し考えた。
「……」
「うん」
「なぜだ?」
「……」
アザラシは前を見る。
「もういいかなって」
「……何がだ?」
「レース」
「……!」
亥(猪)は……言葉を失った。
「お前……」
アザラシは少しだけ身体を起こす。
「僕、行くところがあるんだ」
「どこへ……?」
「……」
アザラシは少し考える。
「神様のところ」
「……神?」
「うん」
亥(猪)は何も言えなかった。
アザラシは、亥(猪)の横を通り過ぎる。
だが追い抜いたわけではない。
レースの道から少しずつ外れていく。
「……」
亥(猪)はその背中を見つめる。
「お前は……」
アザラシは振り返らない。
コロンコロンコロン。
ただ別の道へ進んでいく。
そして。
亥(猪)は、その背中を見ながら小さく呟いた。
「……お前は、何をしようというのだ……」
アザラシは答えない。
コロンコロンコロン。
このレースの先には。
もう……。
アザラシはいない。
そして、アザラシの前には別の道が続いていた。




