第十九話 加速
コロンコロンコロンコロンコロン。
アザラシは転がっていた。
さっきまでの、ズリズリズリ……という進み方とは。
明らかに違う。
速い。
そして、本人は。
「……」
特に何も考えていなかった。
コロンコロンコロンコロンコロン。
「……楽だね♪」
ただ……それだけだった。
その先に、未(羊)がいた。
「……?」
未(羊)は、遠くから近づいてくるものを見つめる。
コロンコロンコロンコロンコロン。
「……なに?」
少しずつその姿が見えてくる。
「……アザラシ?」
次の瞬間、アザラシが。
未(羊)の横を通り過ぎた。
コロンコロンコロンコロンコロン。
「…………」
未(羊)は振り返る。
「待ってっ!!」
しかし、もう遅かった。
アザラシは。
そのまま前へ進んでいく。
コロンコロンコロンコロンコロン。
さらに進む。
その先には。
酉(鶏)。
「……!」
酉(鶏)が身構える。
「お前かよ!」
アザラシは。
「……?」
そのまま転がる。
コロンコロンコロンコロンコロン。
「待て!」
酉(鶏)が追う。
だが、縮まらない。
むしろ離れていく。
「なぜだぁぁぁ!!」
コロンコロンコロンコロンコロン。
さらにその先。
未(羊)、酉(鶏)に続いて。
もう一匹…子(鼠)。
アザラシが追いつく。
「なっ……!」
コロンコロンコロンコロンコロン。
追い抜く。
さらに。
もう一匹…丑(牛)。
「嘘だろ……」
コロンコロンコロンコロンコロン。
追い抜く。
そして。
さらにもう一匹…卯(兎)。
「……なっ!?」
コロンコロンコロンコロンコロン。
追い抜く。
止まらない。
アザラシは、ただ転がっている。
コロンコロンコロンコロンコロン。
五匹。
次々とその背中が。
後ろへ消えていった。
それでもアザラシは振り返らない。
「……」
前方を確認する。
まだ、先がある。
そして、しばらく進んだところで。
アザラシはふと呟いた。
「……」
少しだけ……。
周囲を見る。
「……あと三匹」
残っているのは。
あと三匹。
アザラシは少しだけ身体を丸める。
「……」
そして。
また転がった。
コロンコロンコロン。
レースは。
さらに加速していく。
…………残り三匹。




