第十七話 アザラシのK点
アザラシは、ただ前だけを見据えていた。
ズリズリズリズリ。
その後ろから。
激しい足音が聞こえてくる。
「待てぇぇぇぇぇ!!」
「……?」
アザラシが振り返る。
そこには、決死の形相で走る辰(龍)がいた。
「……辰(龍)?」
「認めん!!認めんぞ!!」
「そう」
「貴様……!」
辰(龍)は歯を食いしばる。
「私はお前に抜かれたまま終わるつもりはない!!」
「……?」
「もう一度、私と勝負しろ!!」
アザラシは少し考えた。
「……勝負?」
「そうだ!」
「……」
アザラシは前を見る。
「僕は君とは勝負しない」
「……は?……何……?」
「僕は僕のペースで進むだけだから」
「……!」
辰(龍)は言葉を失った。
そして……アザラシは。
また前を向いた。
ズリズリズリズリ。
「……待て!!」
辰(龍)が追う。
しかし、少しずつ。
距離が開いていく。
「なぜだ……なぜなんだ……!!」
辰はさらに速度を上げる。
アザラシとの距離が。
縮まらない。
「……くっ!!」
さらに走る。
それでも、アザラシは前にいる。
ズリズリズリズリズリ。
「……っ!」
辰(龍)は気づいた。
さっきよりアザラシの速度が上がっている。
「馬鹿な……」
だが、その頃。
アザラシも……少しだけ首を傾げていた。
「……」
ズリズリズリズリズリ。
「……ちょっと疲れて……きた……」
アザラシが……自分の体調を気にしはじめた。
「……」
前を見る。
まだ先は長い。
「……」
アザラシは少しだけ考える。
そしてまた。
ズリズリズリズリズリズリ。
その背中を見ながら。
辰(龍)は呟いた。
「まだ……速くなるのか」
レースはまだ終わらない。
そして……アザラシはまだ。
諦めてはいない。




