第十六話 現状を越えし者
レースは相変わらず続いていた……。
しかし、先ほどまでとは……何かが違っていた。
「……」
寅(虎)は後ろを見ていた。
そこに、一匹のアザラシがいる。
ズリズリ。
そして、その距離は。
もうほとんどない。
「……来た」
寅(虎)が呟いた。
「だから、来てるって言ったじゃん」
申(猿)が答える。
「違う」
「何が?」
「もう……追いつかれる!」
申(猿)は黙った。
確かに……アザラシは少しずつ。
しかし確実に、距離を縮めている。
「……」
辰(龍)も後ろを見る。
「……馬鹿な」
アザラシは、もう目の前にいた。
「……」
辰(龍)は速度を上げる。
しかし、アザラシの速度も上がる。
ズリズリズリ。
「……!」
さらに速度を上げる。
アザラシも。
ズリズリズリズリ。
「……おい」
申(猿)が辰(龍)を見る。
「何だ!?」
「お前、今……」
「……何故だ!何故なんだ……」
「……本気で走ってるんだよな……?」
「……」
辰(龍)は答えられなかった。
その横をアザラシが通り過ぎる。
「……」
寅(虎)が目を見開く。
「抜いた……」
申(猿)も呆然とする。
「……マジかよ」
アザラシは止まらない。
ズリズリズリズリ。
辰(龍)の横を。
そのまま通り過ぎていく。
「待てぇぇ!!」
辰(龍)が叫ぶ。
アザラシが振り返る。
「何?」
「貴様……!!」
辰(龍)は言葉を詰まらせた。
そして。
「……私を抜いたのか……??」
「うん」
「何をした!!」
「進んだ」
「そういうことを聞いているのではない!!」
「……?」
アザラシは首を傾げる。
「じゃあ、何が知りたいの?」
「なぜ……這いつくばっている貴様が……この私より前にいる!!」
アザラシは少し考えた。
「……さぁ?なんでだろ?」
「なんだと!!」
「僕も、まだ分からない」
アザラシは前を見る。
「ただ……」
「僕を信じて進んだだけだよ」
ズリズリズリズリ。
そのまま……アザラシは進んでいく。
「……」
辰(龍)は立ち尽くしていた……。
寅(虎)が小さく笑う。
「……抜かれたな」
「黙れ!!」
「事実だろ?」
「……黙れ!!黙れ!!黙れ!!」
「……お…おっしゃる…通り…です……」
巳(蛇)が震えながら小さく呟く……。
申(猿)は。
アザラシの背中を見つめていた。
「……あいつ」
「まだ、速くなってやがる」
「……」
辰(龍)は前を向いた。
そして初めて。
自分から、アザラシを追いかけ始めた。
…………残り八匹。




