第十三話 アザラシの聖戦
レースは続いていた。
十二支たちは、相変わらず遥か前方を進んでいる。
その後ろ、アザラシは。
ズリズリズリ。
ただ、地面を這っていた。
しかし、以前とは少し違う。
「……」
アザラシは、自分の身体の使い方を意識していた。
どう動けば……どう身体を使えば。
少しでも前へ進めるのか。
「……ここ」
身体を少し捻る。
ズリ。
「……違う」
戻す。
ズリ。
「……こっち」
身体の向きを変える。
ズリ。
少しだけ進んだ。
「……!」
アザラシは前を見る。
「……これだ」
また身体を動かす。
ズリズリズリ。
少しずつ。
少しずつ。
進み方が変わっていく。
それを。
寅(虎)は見ていた。
「……やはり!」
寅(虎)が後ろを見る。
「……何?」
申(猿)が聞く。
「あいつ……」
寅(虎)は目を細めた。
「少しずつ速くなってる!」
「え?」
申(猿)も振り返る。
「ほんとだ……」
しかし。
辰(龍)は振り返らない。
「誤差だ」
「惨めに這いつくばっていることに変わりはない」
辰(龍)は淡々と言った。
「我々とは勝負にならん」
巳(蛇)が頷く。
「おっしゃる通りです」
その頃アザラシは。
前を見ていた……遥か前方。
小さく見える十二支たち。
「……まだ遠い」
それでも、止まらない。
ズリズリズリ。
「……もっと!」
アザラシは身体を動かす。
今までとは違う。
ただ這うのではない。
自分の身体を。
自分の感覚を。
自分の限界を。
一つずつ確かめていく。
「僕は」
一度、止まる。
「どこまで行けるんだろう」
そして、再び進み始める。
ズリズリズリ。
その姿を神様は空から見ていた。
「……」
神様は黙った。
そこには、かつて自分が知っていたアザラシの面影はなかった。
「……こんなことが……」
神様の声が漏れる。
そして、アザラシは前を見据える。
その目に……迷いはなかった。
「……いこう」
ズリズリズリ。
誰かに勝つためではない。
誰かを見返すためでもない。
ただ、自分がどこまでやれるのか。
自分自身と戦い。
人が決めつけた自分と自分で決めた自分……
その差を確かめるために。
アザラシは進む。
――これが。
アザラシの聖戦だった。




