第十一話 開幕
レース当日……。
十二支とアザラシ。
十三匹が、スタート地点に並んでいた。
「……」
アザラシは地面を見ている。
十二支たちは、それぞれ準備をしていた。
「久しぶりだな」
丑(牛)が言う。
「昔を思い出すね」
卯(兎)が笑う。
「今度も負けるつもりはない」
寅(虎)が言った。
辰(龍)は黙って前を見ている。
巳(蛇)は、その隣にいる。
「頑張ってください!」
「当然だ」
他の動物たちも、それぞれスタートラインについた。
神様が前に出る。
「今回のレースは、昔と同じコースを用意したよ」
十二支たちは神様を見る。
「ただし」
神様がアザラシを見る。
「一つだけ違う」
アザラシは顔を上げた。
「今回はこのレースの参加者が、全員自分の意思で参加している」
アザラシは静かに頷いた。
「うん」
神様は空を見上げる。
「それでは」
静寂が訪れる。
「位置について」
十二支が構える。
アザラシは。
構えない。
ただ、地面に伏せている。
「……」
神様は少し困った。
「……アザラシ」
「何?」
「それでいいのかい?」
「うん」
「本当に?」
「これが一番やりやすいから」
「……そうか」
神様は諦めた。
「よーい」
空気が張り詰める。
「――スタート!」
一斉に。
十二支が走り出した。
子(鼠)が速い。
丑(牛)が続く。
寅(虎)も、卯(兎)も。
辰(龍)も、巳(蛇)も。
次々と前へ進んでいく。
その後ろ……アザラシは。
「……」
ズリ。
ズリ。
ズリ。
ゆっくりと進んでいた。
当然だった。
陸上を走る動物たちと。
這って進むアザラシ。
最初から勝負になるはずがない。
「……」
神様は見ていた。
十二支はどんどん遠ざかっていく。
それでも、アザラシは止まらない。
ズリ。
ズリ。
ズリ。
「……遅いな」
申(猿)が振り返る。
「だね」
卯(兎)も振り返った。
「本当にゴールできるのかな?」
「どうだろうな」
寅(虎)が言う。
辰(龍)は振り返りもしない。
「放っておけ」
その言葉を聞いて。
アザラシは遠くから呟いた。
「……負けない」
ズリ。
ズリ。
ズリ。
そして、アザラシは初めて笑った。
「これなら、ちゃんと比べられる」
神様は、その言葉を聞いていた。
そして……まだ誰も知らない。
アザラシが。
このレースで何を確かめようとしているのかを。




