ヴォル=ウーラの祝福
夜が訪れ、バーバリアンの聖地には幾つもの巨大な篝火が焚かれていた。空気を震わせる太鼓の音と、浴びるほど酒を飲んだ戦士たちの熱気で、会場は昼間以上の熱気に包まれている。
「静粛に!!」
中央の祭壇に立ったバーバリアン種族長の声が響き渡ると、地鳴りのような歓声が一度収まった。
「これより、成人の儀における表彰を行う! 今年の若者たちは皆強かった! だが、中でも卓越した強さを示した準優勝のダラス! そして見事、ダラスを打ち破り頂点に立った優勝者テリエスに、大地の神ヴォル=ウーラの祝福を!!」
<うおおおおおおおおおお!!
<偉大な戦士テリエス! 小さな巨人テリエス!
<最高の戦士ダラス! 最高の戦士ダラス!
バーバリアン達に祝福され、テリエスとダラスが祭壇へと登る。祭壇の中央には、呪術師長が待ち構えていた。その手前には、何も模していない蒼白く光り輝く『聖なる宝珠』が静かに浮遊している。
呪術師長が深く重々しい声でテリエスに問いかけた。
「偉大なる戦士、アイル族のテリエスよ。大地の神ヴォル=ウーラは、お前の望む姿の武具を授けよう。何を所望するか?」
「——片手剣と、盾を」
テリエスの静かな返答に、会場が一瞬静まり返り、直後にざわめきが広がった。
<片手剣と……盾ぇ!?
<バーバリアンが盾だと……?
<両手斧や大槌じゃないのか!?
蛮勇を誇るバーバリアンたちにとって、盾は「守るための軟弱な道具」という認識が強い。
戸惑う群衆の声が広がりかけたその時、テリエスの隣でダラスがモジャモジャの胸を張り、大声で叫んだ。
「鎮まれぇい!!」
ダラスの雷鳴のような声が響き渡る。
「テリエスのあの目にも留まらぬ速さに、重い大剣が合うわけがないだろう! 片手剣の鋭い一撃と、俺の拳すら防ぎ切る盾! これこそがテリエスの強さを極める最高の武具だ! 偉大な戦士テリエスは自分の強みをよく知っているからこその選択をしたのだ!」
ダラスがしたり顔で言い放った名推理に、バーバリアンたちは一秒遅れて膝を打った。
<な、なるほどぉーっ!?
<流石テリエス! 速さと守りの組み合わせか!
<賢いぞ! 最高の戦士だ!!
単純なバーバリアンたちが手のひらを返して大歓声をあげる中、テリエスはダラスのフォローに感謝しつつ苦笑いした。
呪術師長が頷き、浮遊する宝珠へ手をかざして祈りを捧げる。
すると、蒼白い光の塊が滑らかに形を変え、美しいルーンが刻まれた一振りの片手剣と、片手でも扱いやすそうな盾へと分離してテリエスの手元へと降りてきた。
テリエスがそれを受け取り、頭上に掲げてポーズをとる。
<うおおお! 似合ってるぞ!
<小さな巨人! テリエス!
鳴り止まない喝采の中、儀式は終わりを迎える。
……はずだった。
呪術師長が違和感に気づき、動きを止める。
「……む? 祝福の光が、消えぬ……?」
本来ならば武具を一つ生成した時点で宝珠は光を失い、翌年の成人式までただの石に戻るはずだった。だが、台座に残された金属の残滓は、いまだ脈動するように強く輝いている。
ざわつく会場。その直後、呪術師長がカッと目を剥き、天を仰いだ。荘厳な雰囲気を漂わせながら、彼の口から神託が放たれる。
「ヴォル=ウーラ様のお声だ……! 『破れたりと雖も、その肉体と誇りは神の領域に達している。タヌカン族のダラスにも、祝福の武具を下賜する』……とな!」
場内がどよめいた。成人式の比武で、敗者に祝福の武具が与えられた前例など過去に一度もない。
呪術師長がダラスへ向き直る。
「ダラスよ、前へ。お前も武具を選ぶが良い」
しかし、ダラスは厳格な顔で首を振った。
「……断る」
<ええーっ!?
<何を言っているんだダラス!
<頭がおかしくなったのかー!?
周囲のバーバリアンが驚く中、ダラスは拳を握りしめて言った。
「俺は負けたんだ。敗者が優勝者と同じ栄誉を受け取れるか! ヴォル=ウーラの神には感謝するが、俺のプライドがそれを許さん!」
頑固な脳筋のプライドに呪術師長が困り顔を浮かべると、隣からテリエスがそっと声をかけた。
「ダラス。お前が強力な武器を手に入れることは、お前個人だけの問題じゃない。強大な戦士であるお前がより強くあることは、部族全体、ひいてはバーバリアン全体の利益になるんだよ。神がお前の強さを認めたんだ、誇って受け取るべきだ」
テリエスの論理的な説得に、周りのバーバリアンたちも同調して大騒ぎし始めた。
<そうだぞダラス! 神様がくれるって言ってんだから貰っとけ!
<神に認められし戦士ダラス!
<ダラス! ダラス!
「う……うおぉ……お前たち……! テリエス……!」
皆の称賛とテリエスの言葉に、ダラスの目から大粒の涙が溢れ出た。
「分かった! 貰う! 貰うぞおおお! ヴォル=ウーラよ! 感謝する! 俺にはこれしかねえ! 『両手剣』をくれ!!」
ダラスが叫ぶと、宝珠は最後の光を放ち、ダラスの背丈に合わせたような規格外の巨大な大剣へと姿を変えた。ダラスがそれを豪快に振り上げると、夜空を切り裂くような重圧が周囲を包む。
その瞬間、宝珠は完全に光を失い、静かな石の台座へと戻った。
<うおおおおおおおお!!
<最高の成人式だ!!
<酒だ! 宴会再開だぁぁぁッ!
祭壇から降りる間もなく、涙を拭ったダラスがその丸太のような腕でテリエスの肩をドスンと抱き寄せた。
「ガハハハハハ! 見ろテリエス! 今夜の主役は俺たちだ! 親友よ! 今夜は飲み明かそう!」
「ウグッ! ガハハ……。力が強すぎるぜダラス……まだあばらが痛むんだが……」
文句を言いながらも、テリエスは新調した『ヴォル=ウーラの剣と盾』を背にしっかりと固定し、口元を緩めた。
「おい野郎ども! 最高の優勝者と、最高の準優勝者に酒を持ってこーいッ! 今夜は朝まで飲み明かすぞおおおッ!!」
ダラスが巨大な大剣を天にかざしながら爆音の『咆哮』を放ち、そのままテリエスを担ぎ上げるようにして狂乱の宴会の渦中へと突撃していく。
「あはは……いや……ガハハハ! ダラス! 今日の主役は俺だ! 偉大な戦士は酒の席でも決して負けはしないぞ!」
かつては小さく異質な存在として、遠巻きに見られているだけだったテリエスはもういない。
テリエスの視界を埋め尽くしているのは、惜しみない称賛と、自分を心から認めてくれた同胞たちの熱気だ。
揉みくちゃにされながら差し出される大杯を掴み取り、テリエスは弾けるような笑顔で仲間たちの渦へと飛び込んでいった。
新緑の夜風が吹き抜けるバーバリアンの聖地に、二人の英雄を称える大合唱がいつまでも、いつまでも響き渡っていた。




