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バーバリアンの選択

翌日


 まだ酒の匂いと祭りの余韻が抜けきっていない宴会場で、テリエスは目覚めた。


 二日酔いによる激しい頭痛と喉の渇き、そして体の節々が痛む。魔法で強化されたテリエスの体は並のバーバリアンよりは丈夫なはずだが、それでもダラスの一撃を受けた体は悲鳴をあげている。


 テリエスはトーナメントを勝ち抜く中で、様々な部族のバーバリアンと戦ったが、ダラスは別格だった。シンプルな肉体の強さに加え、成人式の段階で咆哮《ウォークライ》のスキルを身につけたバーバリアンなど、バーバリアンの歴史の中でも稀有な存在だろう。


 (……よくあれに勝てたものだな)


 実際、最後の攻防は紙一重だった。


 ダラスの放つ咆哮《ウォークライ》は、爆音に乗せたマナで敵を威圧し、一時的な行動不能状態を引き起こす。体にまとわりつくマナを強化《フォース》で打ち消し、スタンを解いたことで驚いたダラスの不意をつくことができた。まさに薄氷の勝利だ。


 (次に戦う時に同じ作戦が通じるかはわからない)


 そしてテリエスがダラスの一撃を耐えられたのは加速《ヘイスト》を発動していたからだ。


 テリエスが戦闘で好んで使う加速《ヘイスト》は、自身の素早さを大幅に加速させるものだが、副作用として攻撃の自傷ダメージを防ぐためか、防御力も大幅に上がる。


 (加速《ヘイスト》の防御力アップがなければ一撃に耐えるどころか粉々になっていたかもしれない)


 テリエスの背中に、冷たい汗が一筋走る。


 天井からぶら下がっている巨大な宝珠を眺めていると、巨大な足音と共にテリエスを呼ぶ声がする。


「テリエス! テリエス! 偉大な戦士よ! 起きているか!」


 比武の後、テリエスを宴会の中心に強制連行したダラスはテリエスの勇姿を周りのバーバリアンに語った。何度も何度も。そして、喝采が沸くたびにテリエスに麦酒を飲ませ、最後には二人とも酔い潰れたのだ。


「ガハハ……起きてはいるが……ダラス。お前にやられた体が悲鳴をあげていてな。さらに、飲まされた酒で頭もガンガンだ」


「グハハ! それは俺も同じだ! ギガント・ボアの突進を受けた時も全く問題なかったはずなのに、今日は頭と顎が少し痛いぞ! 偉大な戦士から受けた名誉の負傷だな!」


 豪快に笑いながら体の不調を訴えるダラスの立派な胸毛は今日ももじゃもじゃだ。強化《フォース》で火力の上がったテリエスの一撃を喰らってもこの程度で済んだのは、ダラスの頑強さが通常のバーバリアンとは比較にならない証拠だろう。


「それより、今夜受け取る武器を何にするか決めたか!? 俺が優勝したらもちろん大剣を選びたかったのだが、テリエス! お前は何にする!」


 昨日ダラスとテリエスが激闘を繰り広げた比武大会の表彰式は今夜だ。優勝したテリエスは大地の神ヴォル=ウーラから祝福を受けた武具を受け取れる。


 バーバリアンに伝わる秘術で作られた武具は、授かりし者の望む形に姿を変える。貴重な武器を手に入れる数少ない機会だ。誰だって悩むに違いない。しかし、テリエスの選択はすでに決まっていた。


「俺は軽めの片手剣と盾にしようと思っている。ガハハハ! お前のように力持ちだったら俺も大剣や大槌で豪快に暴れ回りたかったのだが、そうもいかなくてね」


 バーバリアン族の中でも一際小さい体格のテリエスは、スキルによる肉体強化をしていない状態では並のバーバリアンと比較しても力が弱い。実際のところ、今もダラスの豪快なスキンシップで少しずつ体が痛めつけられている。


「片手剣と盾……だと……?」


 ダラスは巨大なアゴに手を当てて首を傾げる。


「偉大な戦士とは両手剣で一刀両断。もしくは大槌で叩き潰すのが当然と思っていたが、なるほど! テリエスの目で追えぬ素早さを活かすのであれば重すぎない片手剣が良いというわけだな! さながら疾風のバーバリアンといったところだろう!」


 大きくうなづきながら笑うダラス。基本的に少しでも複雑なことを考えずに、ありのままを受け入れて前進していくバーバリアンの中で、ダラスは賢い方だ。


「よくわかったなダラス! 流石は偉大な戦士だ!」


 ダラスの言うことももちろんだが、実際のところ、片手剣は杖と同様に魔力を伝達する媒体として使いやすく、単純な身体能力で劣るテリエスが、魔法と剣術を組み合わせて戦うには非常に相性のいい武器だ。


「それに、盾があれば昨日のように俺に吹っ飛ばされても安心だ! グハハハ!」


 名推理に気をよくしたのか、モジャモジャの胸を張り、天を仰ぎながら大きな口を開けて笑いながらテリエスの背中をバシバシと力任せに叩く。


「ウガッ! ダラス……ダラスッ! 表彰式までに俺の体力を削り切るつもりか……?」


 (……すでに太陽は真上なんだが、まあいいか)


 言葉の雑さは相変わらずだが、テリエスは苦笑しながら床を踏みしめた。


 小柄で異質な肉体ゆえに、故郷では同年代の同胞から少し浮いていて、まともな「友人」と呼べる存在がいなかったテリエスにとって、こうして対等に肩を並べ、軽口を叩き合える存在はどこか眩しく、誇らしかった。


 豪快に笑いながら部屋を出ていくダラスの後ろ姿を見上げ、テリエスはあばら骨の痛みを忘れるように、小さな笑みを浮かべて後を追った。

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