↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
25/32

人間の食い物

 テリエスに案内されて、再び『鉄盾の休息』を訪れる。


「いらっしゃーい」


「ただいま!」


「なんだテリエスじゃないか! おかえりシェリル!」


「ただいまですー!」


「お? さっきのでっかいバーバリアンのお客さんも一緒か!」


「おお、もう会っていたのか! ルーエン! 紹介するぞ! 偉大な戦士のダラスだ!」


「なんだって!? 大きいバーバリアンだとは思っていたが、あんたがダラスか!」


「グハハハ! まさかさっきの兄ちゃんがテリエスの仲間だったとはな!」


 まさか、先ほどの受付がテリエスの仲間だったとは。


 改めてルーエンを見る。


 先ほど話した時も、ダラスの巨体を前にして怯えている様子はなかった。


(テリエスは少し臆病なところがあると言っていたが……芯のあるいい目をしているな)


「はは! よろしくなダラス! 俺はルーエン! 人間だ! テリエスから話は聞いてるよ!」


「グハハハ! よろしくなルーエン! 俺はタヌカン族の戦士! ダラスだ!」


「いやー、聞いていた通り、強そうだなダラス!」


「グハハハ! 俺は強いぞー! まあ、テリエスには負けちまったんだがな!」


「ガハハハ! 何を言っている! 紙一重の戦いだったじゃないか! 次やり合ったらまたどうなることか……」


「グハハハ! 早いところリベンジをしたいところだなあ!」


「望むところだ! と言いたいところだが、その前に飯だな!」


「うむ! 腹が減っては戦はできぬと言うからな!」


「バーバリアンはやっぱり声がおっきいですね」


「そうだな」


 ルーエンに案内された席は、バーバリアンが二人座っても余裕があるほど広い。さらに、ダラスが座っても尻がはみ出ない椅子をわざわざ持ってくる徹底ぶりだ。


(気の利くやつだ。気に入ったぞ。偉大な人間ルーエン)


「とりあえずこれでも食って待っててくれ」


(む?)


「これはなんだ?」


「麦パンだ。バーバリアンにはちょっとやわらかいかもしれないけど、うまいぜ」


「ほう」


 麦パンを一口かじったダラスの動きが止まった。


(むむ……)


 全く歯応えがない。


(なんだこれは)


 しかも、噛めばほんのりとした甘味が口の中に広がる。


(なんだこの甘味は!?)


 パンというのはもっとパサパサしていて、ダラスの咬合力を持ってしても一苦労しながら食うもの。それが、バーバリアン社会での常識だった。


(むむむ!?)


 そう考えている間にも、麦パンはあっという間に口の中から消えていく。


(もう口の中から無くなっちまった! なんてことだ……)


「ルーエン!」


「なんだいきなりでかい声を出して!?」


「あぁ、すまん。これはなんだ?」


「さっき説明しなかったか? 麦パンだ」


「ぐぬぬぬ」


「テリエスと一緒にいるから忘れちまったが、バーバリアンだもんなダラスは」


「む?」


「ガハハハ! ダラス! 驚いたろ? 俺も最初に食べた時は驚いた! なにせ口に入れたらパンが無くなっちまうんだからな!」


「ぐぬぬぬ」


「こんなことで驚いていては、飯を食い終わる頃には、腰を抜かしているかもしれんぞ!」


「偉大な戦士は腰など抜かさんぞ! テリエス!」


「ガハハハ! 次の料理が来るのが楽しみだな!」


「ぐぬぬ! ルーエン!」


「なんだ!? やっぱりバーバリアンは声がでかいな!」


「うまいぞ! パン!」


「麦パン、口にあってよかったぜ」


「うまいぞ! 麦パン! もっとくれ!」


「おう! 食いすぎると他のもんが食えなくなるぞ……と思ったが、そんな心配は要らなそうだな」


「飯をモリモリ食うのも偉大な戦士の条件だ!」


「ははは! 腕がなるぜ!」


「なあ、テリエス」


「どうした? ダラス」


「最高の仲間だな!」


「だろ!」


「テリエスも偉大な仲間です!」


「うむ! えらいぞシェリル!」


「ふんふん!」


 コダヌキは嬉しそうに尻尾を振っている。


 どうやらテリエスは、偉大な人間と偉大なタヌキを仲間にしたようだ。


(ふむ。良いパーティだな)


 次々と運ばれてくるルーエンの料理は、どれもダラスにとって初めて食べるものだった。


 バーバリアンの料理といえば、肉はとにかく焼いて適当に味をつけたものを大量に食べる。


 野菜はそのままかぶりつくか、手を加えたとしても煮込んでスープにするくらいだ。


(まさか、野菜の皮を剥くなんて発想はなかったな。恐れ入ったぜ)


 話によると、ルーエンはダンジョンでもこんな飯を出してくるらしい。


 ダンジョンの中ではせいぜい干し肉と乾燥したパンで腹を満たすものだと聞いていたダラスにとって、それは衝撃的な話だった。


(ぐぬぬぬ。羨ましい限りだ!!!)


「ぐぬぬぬ! この飯をダンジョンでも食えるとはな! 恐れ入ったぞ!」


「そうだろうダラス! パーティメンバーを単純な戦闘力だけで選ぶのは愚かだ!」


「そうなのか?」


「あぁ! ダラスよ! 俺の噂はどこまで聞いたんだ!」


「裸で酒場を走り回っていたと」


「その話はどうでも良い!」


「せっかく手に入れた報酬のほとんどを酒代で使っちまったと」


「その話もどうでも良いんだ!」


「あとは……」


「がんばれダラス! 思い出せ!」


「ダンジョンで七級のグリーンスパイダーを倒したとも聞いたな!」


「それだ!!!」


「おお! その話か! 『五彩の酒盃亭』ではまだその話をしている奴らもいたぞ!」


「ふっふっふ! 偉大な冒険の成果だからな! 『テリエスとその仲間の冒険』第一幕だ!」


「グハハハ! 第一幕は俺との死闘ではなかったのか?」


「む! その時は仲間がまだいなかったからな! そっちは『テリエスの大冒険』第一幕だな!」


「グハハ! テリエス! 俺には違いがわからんぞ!」


「まあ良いだろう!」


「仲間たちの冒険とは言っても、結局戦ったのはテリエスばっかりでしたけどね」


 コダヌキが尻尾を振りながら話に入ってきた。


「甘いなシェリル! 実際に剣を振ったのは確かに俺だ! しかし! 俺一人の力では決してグリーンスパイダーを倒すことはできなかった!」


「そうなのか?」


「テリエスがそう言ってるだけですよー。私なんてグリーンスパイダーが出てきた時にテンパってテリエスを殺しかけちゃいましたからね」


「そうなのか!?」


「その言い方には語弊があるぞシェリル! あれは全員の責任だ!」


「テリエスはそう言ってくれますけど……」


「次はもっと上手くやれるさ! 頑張ろうな! シェリル」


「……はい!」


 シェリルが嬉しそうに尻尾を振る。


(良いリーダーなんだな! テリエス!)


「シェリルはこう言っているが、俺一人の力ではないというのは本当のことだ」


「ほう」


「グリーンスパイダーの装甲はとにかく硬かった! シェリルの炎付与で燃やすことができなければ、そもそも俺の剣では割れないほどにな」


「……」


 シェリルが何かを考えるように、わずかに首を傾げた。


「そんなに硬かったのか!」


「あぁ! それに、グリーンスパイダーの最初の一撃を盾で防御できたのもルーエンの声があったからだ」


「おお!」


「そして! その盾を俺が持っていたのはなぜだ! ダラス!」


「むむむ?」


「あの日! 決勝で! ダラスの強烈な一撃を受けたからだ!」


「ウオオオオ!」


「盾を選んだきっかけはダラス! 君だ! そして、ダラスの一撃を受けた経験がなければ、グリーンスパイダーの攻撃を受けて俺はもっと混乱していただろう!」


「グハハハ! 俺の一撃を受けて立ち上がったのはお前が初めてだったぞ! テリエス!」


「光栄だ! それに、ルーエンの料理も効いた! ルーエンの料理はうまいだけじゃなくて、栄養バランスも良いみたいだ! ルーエンの飯を食ってからなんだか体の動きが良くなった気がする」


「なんと! うまいだけではないのか!」


「わかったかダラス! 前に出て戦うものが勇敢なのはもちろんだ!」


「うむ」


「しかし! おいしくて健康な食事を用意できる、安全な道を探りながら進める、中身を壊さずに宝箱を開けられる、いずれもダンジョン攻略に必要な力なのだ!」


「おおおお!」


「単純な戦闘力はもちろん大事だ! しかし、それだけで仲間を選んではいけない!」


「テリエスの言うとおりだ! 心に刻もう!」


「まあ、バーバリアンはそもそも自分でパーティメンバーを集めたりしないから、あまり関係のない話なんだがな!」


「グハハハ! 『山分け! バーバリアン求む!』についていけば良いと教わっている」


「ああ。俺は体が小さくて弱そうに見えるから、パーティに入れなかったんだが、ダラスだったら引く手あまただろうな」


「グハハハ! 見る目のない奴らだ! テリエスのような勇敢な戦士は目を見れば一発でわかるというのに!」


「ダラスと一緒に王都に来ていれば苦労はしなかったんだがな!」


「グハハハ!」


「ガハハハ! だが、その場合はルーエンやシェリルとは仲間になれなかったのだから、巡り合わせとは不思議なものだ」


 本当に良い仲間を見つけられたようだ。


「ふむ! 俺も明日は酒場で仲間を探してみようじゃないか!」


「まだ仲間は見つかっていないのか?」


「うむ! 王都には今日たどり着いたばかりでな! 酒場でテリエスの噂を聞いて会いに来たのだ!」


「嬉しいことを言ってくれるじゃないか! ダラス!」


「グハハハ! 友に会いに来るのは当然じゃあないか!」


「ガハハハ! ところで宿はどうするんだ?」


「あ……」


「まさか! 忘れていたのか! ダラス!」


(ぐぬぬぬ!)


 今日は野宿か——と思ったところで、先ほど物置が空いていると言われたことを思い出す。


「ルーエン! 物置はまだ空いているか?」


「物置は簡単には埋まらねーよ」


「どういうことだ?」


「すまん! 空いてるってことだ!」


「ならよかった! 今日はそこに泊めてもらってもいいか?」


「構わんが……」


「なんだルーエン! 部屋はもう埋まってるのか?」


「いや、テリエス。ダラスが寝れるような場所がねえんだよ」


「そういうことか! ならば俺が今使っている部屋をダラスに譲れば良いんじゃないか?」


「あー! その手があったな! テリエスに脅されて案内した部屋ならダラスも手足を伸ばして寝れるだろ」


「ぐぬぬぬ。良いのか?」


「構わんさ! ルーエン! 俺には別の部屋を用意してくれ!」


「了解だ! 悪いが準備をしてくるからちょっと待っていてくれ!」


「ゆっくりでいいぞ! もう少し俺たちはここで話しているから!」


「テリエス! 恩に切るぞ!」


「ガハハハ! ダラスよ! 勇敢な戦士とは助け合うものさ!」


「グハハハ!」


 これで宿の問題も解決した。


(さすがテリエス。勇敢な戦士だ)


 何でもすぐに解決してしまう。


 今はまだ自分の一歩も二歩も先を行っている。


(だが、すぐに追いついてみせるぞ)


「ダラス」


「なんだ?」


「まだ仲間が見つかっていないのなら、俺と一緒にダンジョンに行こうぜ」


「むむ!?」


 思いもよらぬ提案にダラスは驚く。


(その発想はなかった……確かに、テリエスと一緒なら頼もしい。ルーエンの料理も食えるし、コダヌキも勇敢な魔法使いだ)


 しかし、テリエスに頼りっきりというのは、バーバリアンの神童と呼ばれたダラスとしては、どうにも受け入れ難い。


(ここは一つ丁重にお断りを……)


 ……。


 ………。


 …………!


(テリエスと一緒に冒険すれば、テリエスが魔法を使うかどうか、仲間たちがそれを知っているかどうかがわかるじゃないか!)


 なぜこんな簡単なことに今まで気づかなかったのだろうか。


(いや、俺だからこそ今気づけたのだ。他のバーバリアンではこうはいくまい)


 実際、ダラスの考えていることは大袈裟ではない。おそらく、テリエスの顔すら覚えていないバーバリアンも少なくはないだろう。バーバリアンとは、強靭な肉体と引き換えに知恵を失った生き物なのだ。


(これが、αか……)


 ダラスは一人、納得したように頷いた。


「良いのか?」


「もちろんだ! ダラスほどの戦士が仲間になる! これほど心強いものはないさ!」


「グハハハ! ならば! よろしく頼むぞ!」


「やったー! ダラスが仲間になったですー!」


「おーい! 部屋の準備ができたぞー!」


「良いところに来たなルーエン!」


「どうした?」


「ダラスが俺たちの仲間になったぞ!」


「おおお! 心強いな! よろしくなダラス!」


「グハハハ! よろしくなシェリル! ルーエン!」


 王都へ来て一日で、大体のことが解決してしまった。


(テリエスは偉大な戦士だ)


 仲間も決まり、宿も決まり、目的だったテリエスとも無事に再会できた。


 ダラスの冒険は驚くほど順調な滑り出しだ。


(変なことにはならないことを祈っているぞ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。