『おっさん』
騎士団とおっさんが村を出ていこうとするその時、村の出口はテリエスの悲痛な叫び声に包まれていた。
「おっさん! おっさん!! なんでだよー!!」
必死に暴れるテリエスを、村の大柄なバーバリアンたちが数人がかりで強く抱え込んで抑えつけている。大人たちの腕の中でどれだけもがいても、幼いテリエスの力ではビクともしない。
一行は足を止めず、去っていく。おっさんもまた、一度も振り返らない。前だけを見つめるおっさんの目からポロポロと大粒の涙が零れ落ち、街道の土を濡らしていた。
おっさんの背中が小さくなっていくのを見つめながら、テリエスの胸に絶望的な予感が走る。
(ここで追わなきゃ……おっさんとは、もう二度と会えなくなる……!)
テリエスは深呼吸をし、溢れ出る涙を拭うと、虚ろな目を演じて声のトーンを落とした。
「……わかった。もう暴れないよ。離してくれ」
「……テリエス、分かってくれたか。おっさんの覚悟を無駄にするな!」
諦めたようなテリエスの様子に安堵したバーバリアンたちは、そっと拘束する手を緩めた。解放されたテリエスはうつむいたまま、とぼとぼといつもの図書館の方角へと歩き出す。村人たちは「そっとしておいてやろう」と、それ以上彼を追わなかった。
だが、テリエスが向かったのは図書館ではない。その奥——二人だけの『秘密基地』だ。あの場所の奥の隙間は、テリエスほどの小さなバーバリアンなら村の外壁をすり抜けて、街道の先へ出られる抜け道になっている。
(待っててくれ……おっさん!!)
秘密基地をがむしゃらに駆け抜け、外の草原へと飛び出したテリエスは、なりふり構わず街道の先へ向かって地を蹴った。
◇
——しばらく走った街道の先。
整然と歩く騎士団の背中とおっさんの後ろ姿が見えた。
「おっさん! 止まれよ! 止まってくれよ!!」
呼吸を乱し、汗だくになりながら駆け寄ってくるテリエスに、騎士たちが一斉に足を止めて振り返る。
「なんだ……? さっきの村にいたガキか」
「おいおい、一人で追いかけてきたのかよ。物好きな奴だ」
騎士たちが口々に呆れたような声を上げる中、最後尾を歩いていた男が鬱陶しそうにテリエスを見下ろした。
「痛い目に遭いたくなければ、大人しく村へ帰れ。お前たちの『おっさん』は王都へ連行する。二度と会うことはねえよ」
だが、テリエスは退かなかった。無視して通り過ぎようとするその騎士の腰に、がむしゃらにしがみつく。
「おっさんを……返せよ!!」
「ちっ……しつこいガキだ!」
邪魔立てされた騎士は苛立ちを露わにし、テリエスを冷酷に蹴り飛ばした。土埃の中に激しく転がるテリエス。
「テリエス……来ちゃダメだ」
おっさんは足を止めず、前だけを見つめたまま重く低い声で言い放った。
もし今、一瞬でも振り返ってテリエスの泣き顔を見てしまえば、積み上げてきた決意のすべてが瓦解してしまう。
だからこそ、血が出るほど唇を噛み締め、声だけを冷徹に偽って突き放すしかなかったのだ。
だが、幼いテリエスにはもう我慢などできなかった。
「うあぁぁぁぁぁっ!!」
テリエスは堪えきれずに体内のマナを解き放った。——『強化』。
幼いバーバリアンの拳が爆発的な威力を帯び、先ほど自分を蹴った騎士を遥か彼方へ吹っ飛ばした。
「今のは……!?」
騎士団長が目を剥く。バーバリアンの肉体強化は全身の筋肉が肥大化するはずだ。しかし、目の前の子供にはその変化がない。
(筋肉の肥大がない……肉体変化を伴わない純粋な力の上乗せ……まさか、『強化』を使ったのか……!?)
騎士団長がその真実に気づいたまさにその瞬間——
ガッと鈍い衝撃音が響き、おっさんの隣を歩いていた騎士が吐血してその場に崩れ落ちる。いつの間にか自力で拘束具を外し、素早い手つきで倒れた騎士の腰から長剣を抜き取ったおっさんが、そこに佇んでいた。
「テリエス……人に魔法が使えるってバレちゃダメって、言ったろう?」
おっさんは困ったように、いつもの穏やかな笑顔をテリエスに向けた。
「おっさん……!」
テリエスの瞳にぱっと希望の光が宿る。だが——おっさんの笑顔の奥、その瞳からは温もりが完全に消え去り、冷徹で狂暴な『狂戦士』の光が宿っていた。
テリエスが魔法を使えることがバレてしまった以上、王都の人間を誰一人として生かして帰すわけにはいかない。テリエスの未来と平穏を守るため、おっさんの覚悟は「おとなしく捕まること」から「この場の全員を殺すこと」へと切り替わったのだ。
「……『肉体強化』」
おっさんが静かに呟く。
一瞬で隻腕の体が跳ね上がり、激しく膨れ上がった。削ぎ落とされていた筋肉が爆発的に肥大化し、村の大男をも遥かに凌ぐ巨躯へと変貌を遂げる。
「なっ……何をやっているリキエル! 貴様、死にたいのか!?」
うろたえる騎士団長を眼中に収め、おっさんは低く太い声で言い放った。
「悪く思わねえでくれよ、団長さん。……ここにいるお前ら全員に、死んでもらう理由ができちまった」
「『狂戦士リキエル』……! 捕らえろ! もう生け捕りにこだわるな、殺せ!!」
騎士団長の怒号が響き、二十人近い騎士たちが一斉に剣を抜いた。
「囲め! 相手は隻腕だ! 間合いに入るな!」
号令とともに、前列の騎士たちが半円を描くように広がっていく。
おっさんは奪い取った長剣を片手で握り、静かに腰を落とした。
最初に踏み込んだのは三人だった。
正面から一人。左右から二人。
バーバリアンの膂力を警戒しているのか、三方向からほぼ同時に剣が振るわれる。
だが……。
「ふっ!」
おっさんの姿が掻き消えた。
「な……」
次の瞬間、右から斬り込んだ騎士の兜が大きくひしゃげ、その身体が横薙ぎに吹き飛んだ。巨体に弾かれた騎士が隣の男を巻き込み、二人まとめて地面を転がっていく。
正面の騎士が咄嗟に剣を突き出す。
おっさんは半身になって切っ先をかわすと、その腕を脇に挟み込んだ。
「おらよっ!」
「ぐあっ!?」
片腕だけで甲冑ごと騎士の身体を持ち上げ、そのまま後続へ叩きつける。
金属同士が激突する凄まじい音が響き、さらに二人が地面へ倒れ込んだ。
「怯むな! 相手は一人だ!」
「魔法兵! 援護しろ!」
後方から火球が飛ぶ。
おっさんは振り返りもせず、倒れかけていた騎士の身体を蹴り飛ばした。
「なっ!?」
宙を舞った騎士の甲冑に火球が直撃し、爆炎が弾ける。その炎を突き破るようにおっさんが飛び出した。
「ひっ——」
魔法を放った騎士が二発目を撃つより早く、長剣がその胸当てを深々と斬り裂いた。
速い。
あまりにも速い。
テリエスは目の前で繰り広げられる光景を、瞬きすら忘れて見つめていた。
(これが……おっさん……?)
いつも図書館で本を読み、くだらない冗談を言って笑っていた片腕の男。
子どもたちからホラ吹きだと笑われても、「ガハハ」と楽しそうに酒を飲んでいた男。
その姿は、もうどこにもない。
剣を振るえば一人が倒れる。
拳を叩き込めば、甲冑を着た騎士が地面を転がる。
四方から剣を向けられても、おっさんは一歩踏み込むだけで包囲の薄い場所を食い破り、逆に騎士たちを一方向へ押し込んでいく。
「囲むな! 二人一組で当たれ!」
「駄目です! 速すぎる!」
「くそっ、これが『狂戦士』——」
言葉の途中で、その騎士の顎へおっさんの拳がめり込んだ。
鈍い音とともに身体が宙を舞う。
一人。
また一人。
騎士たちが倒れていく。
初めはおっさんを取り囲んでいたはずの二十人近い騎士たちが、気づけば半分以下になっていた。
それでもおっさんは止まらない。
「うおおおおッ!!」
一人の騎士が背後から斬りかかる。
おっさんは振り返りざまに長剣を合わせ、刃を弾いた。そのまま肩から体当たりを叩き込み、甲冑ごと数メートル先へ吹き飛ばす。
横から迫ったもう一人には、空いた右足を振り抜く。
「がっ——!」
胴鎧が大きく陥没し、男は血を吐きながら地面を転がった。
「ば、化け物……!」
誰かが呟いた。
その頃には、騎士たちの動きは明らかに変わっていた。
先ほどまでの統率された包囲はない。
仲間が倒されるたびに間合いを取り、誰も最初に踏み込もうとしない。
そして——。
「……あと、四人」
テリエスは無意識に数えていた。
少し離れた場所で指示を飛ばす騎士団長。
その前を守る二人。
そして、おっさんの左側から恐る恐る距離を詰める一人。
「何をしている! 行け! 奴も無傷ではない!」
騎士団長の怒声に押され、二人の騎士がおっさんへ飛びかかった。
一人の剣を長剣で受け流し、返す刃で首元を斬り裂く。
もう一人がおっさんの死角へ回り込むが、振り向きざまの裏拳を兜へ受け、そのまま地面へ叩き伏せられた。
「…………」
残された騎士の顔から、完全に血の気が引いた。
正面には、血に濡れた巨大なバーバリアン。
その向こうには、倒れ伏した仲間たち。
そして背後には——戦いを呆然と見つめているテリエス。
騎士の視線が、テリエスで止まった。
「……そうだ」
小さく呟く。
次の瞬間、その男はおっさんではなくテリエスへ向かって駆け出した。
「動くなガキ! こいつを人質に——」
伸ばされた甲冑の手が視界を埋め尽くす直前、テリエスは牙を剥いて叫んだ。
「舐めるなよ……っ! 俺だって戦士だ!!」
突き出した手のひらから、至近距離で放たれた炎の旋風が騎士の顔面を直撃する。
「ぐあああああっ!?」
顔を焼かれた騎士は悲鳴を上げ、痛みのあまり半狂乱となって闇雲に剣を振り下ろした。死角からの予期せぬ一撃。かわせない——!
「死ねぇっ!」
刃が迫る。直後、肉を裂くような重い音が響いた。
テリエスを庇うように割り込んだおっさんの背中に、深い刃が突き刺さっていた。
「がっ……ふ……!」
おっさんは振り返りざま、鋭い一撃でその騎士を叩き切った。
「テリエス……逃げろ……!」
おっさんは血を吐きながら、最後に残った騎士団長に向かい直す。本来ならおっさんの方が遥かに強い。だが、背中の傷はあまりにも深かった。
(くそ……目が霞んできた。片腕を失ったロートルが……久々の戦いで体が鈍り切ってやがる……!)
視界が揺れる。だが、おっさんの瞳には絶望などなかった。
(あとこいつだけ殺せれば……俺はダメでも、テリエスは助けられる……!)
おっさんは全身のマナと命を燃料として燃やし尽くす覚悟を決めた。
「……『狂化』」
肉体強化に極限の加速と強化を重ねる、おっさんの最終奥義。暴走した体がマナを一瞬で使い切り、戦闘後は過負荷によって全身が破滅する諸刃の刃。
「オオオオオアアアアッ!!」
咆哮とともに凄まじい衝撃波が巻き起こる。圧倒的な速度と力で繰り出されるおっさんの一撃一撃に、騎士団長は防戦一方に追い込まれる。そして——閃光のような一閃が、騎士団長の首を刈り取った。
静寂が訪れる。
おっさんは膝から崩れ落ち、その場に倒れ伏した。
「おっさん……! ごめん、ごめん……! 俺のせいで……俺のせいで……っ!!」
涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら、テリエスはおっさんの体を必死に背中に担ぎ上げた。
バフの切れたおっさんの体は驚くほど小さく、軽くなっていた。さっきまで圧倒的な力で騎士たちを屠っていた巨大な狂戦士の面影はなく、ただの片腕の衰えた男に戻っている。
その軽さが、かえって命が潰えかけている現実を突きつけてきて、テリエスは恐怖に震えた。
「大丈夫……! 今すぐ村に帰ろう! 村に帰れば治療ができる! 村長たちも助けてくれるから……! だから、死ぬなよおっさんっ!!」
「……大丈夫だ……テリエス。自分を責めるな。お前のせいじゃねえよ……」
テリエスの小さな背中の上で、おっさんは静かに、途切れ途切れに言葉を紡ぎ始める。
「王都から逃げ出した時から……俺はいつかこうなる運命だったのさ。だから、ごめんなんて言うな……」
かすかな息を漏らしながら、おっさんはテリエスを安心させるように優しく語りかけた。
「視察に来た騎士は全員死んだ……。王都じゃ、捕まえようとした狂戦士が暴れて相討ちになったとしか思われねえ……。お前や村の心配はいらねえよ……」
おっさんは激しく咳き込み、口から血の塊を吐き捨てた。
「ゴホッ……! ゲホッ……!」
背中に伝わる荒い吐息と、徐々に冷たくなっていくおっさんの体温。おっさんは弱々しく、だが力強くテリエスの肩を掴んだ。
呼吸を整え、残された命を振り絞るようにして、静かに語りかけ始める。
「テリエス……大事なことだから、よく聞け……」
「おっさん、喋らないで! 血が……!」
「いいから聞け……。バーバリアンだけじゃない、すべての種族には突然変異が起こり、本来とは違う力を持つことがある……魔法は一定の知性がなきゃ使えず、成人までにマナ経路を開花させなきゃ一生使えない。だから本来、バーバリアンに魔法使いは生まれないんだ。俺とお前みたいな『突然変異』を除いてな……」
おっさんは昔を懐かしむように遠くを見つめた。
「王都ではその突然変異の研究をしていてな……俺も昔は協力していた。最初は簡単な計算や記憶の実験だったが、次第に非人道的な薬物実験になっていった……。この腕を失ったのも、その実験薬の副作用さ。……仲間を救うために上級エリクサーを使ったことは嘘じゃねえ。だが、本当は俺の分もあったんだ。実験で抗体ができすぎた俺の体には、上級エリクサーすら効かずに蒸発しちまった……」
「おっさん……血が止まらないよ、おっさん!!」
「王都を逃げ出し、辿り着いたのがあの村だった……。村の連中は俺によくしてくれた。子どもたちも素直でいい子ばかりだ……ガハハ……勇敢な戦士になるぞ……」
血を吐きながら、おっさんの目から涙が溢れ出す。
「テリエス……お前と過ごした日々は、本当に楽しかった……。お前が語る『毒気の向こうにある文明』の話が大好きだった……。お前が魔法を覚えた時、心配で……だけど、たまらなく嬉しかった。俺と同じ『知恵を持つバーバリアン』がいたことが、心底嬉しかったんだ……」
「おっさん……っ!」
「だから……村に騎士が来た時、決意できた……。離れていても、同じ知恵を持つ仲間……テリエスがどこかで生きている……そう思うだけで、勇気が湧いたんだ……」
おっさんは泣きながら、最後の言づてをテリエスの胸に刻み込んでいく。
「テリエス……成人するまで絶対に人に魔法を見せるな。成人してからもできるだけ隠せ。己の身を守れるようになるまで手の内を晒すな……これは冒険の心得だ。……そして、こんなことがあっても人間を恨むな。種族で括って恨むのは最も愚かなことだ。お前は強くなれる。だが一人じゃ限界がある……仲間を作れ。最高の仲間をな……」
温かい手が、テリエスの頭にポンと乗せられた。
「ガハハ……よくやったな、勇敢な戦士『テリエス』……お前は俺の誇りだ」
それが、最後だった。
頭に乗っていた手の力がふっと抜け、背中の温もりが少しずつ失われていく。
「おっさん……? おっさん!?」
返事はない。それでもテリエスは背負い直し、歩みを止めずに話しかけ続けた。
「俺……魔法がバレないように肉体強化の偽装を練習するよ! 筋トレだって頑張る! 背は低くても筋肉を増やせば魔法の威力だって跳ね上がるはずだろ!?」
冷たくなっていく背中に向かって、必死に言葉を重ねる。
「まだまだ聞きたいことが山ほどあるんだ! 成人の儀式で手に入る武具は何を選ぶべきかな!? 大剣かな、大槌もいいなぁ……おっさんはどう思う!?」
質量は変わるはずがない。それなのに、おっさんの体は徐々に軽くなっていく。
「俺、絶対に優勝してみせるよ! それに、勇敢で偉大な仲間を作って一級のダンジョンにも挑むんだ! おっさんが教えてくれたみたいな冒険をしてみせる!」
泣きじゃくりながら、テリエスは前だけを見て歩く。
「一級になったら毒気の向こうへ行くんだ! オルドリア王国なんて言っておきながら国が一つしかないなんておかしいよ! 絶対に向こう側には俺たちの知らない文明がある! 村のみんなは笑うけど、俺は絶対に行ってやるんだ! 向こうから帰ってきたら、お土産話をたくさんしてやるからさ……!」
テリエスの声が途切れ、足が止まる。
「だからさ……だから……っ! いつもみたいに『よくやった』って……名前を呼んでくれよ、おっさん……!!」
しんと静まり返った荒野に、冷たくなったおっさんと、幼い少年の啜り泣く声だけがどこまでも響いていた。
◇
冷たくなったおっさんを担ぎ、ボロボロになりながら村の入り口へと辿り着いたテリエス。門に立つバーバリアンの門番は、荒野から近づいてくる怪しい人影に目を細め、大声を張り上げた。
「誰だッ!?」
手に持った斧を構える門番。だが、夕闇の中に浮かび上がった泥と血にまみれた姿を見て、目を見開いた。
「……テリエス!? それに……おっさん!?」
駆け寄ってきた門番の声を聞きつけ、何事かと村人たちがゾロゾロと集まってくる。テリエスが担いでいるのが小さく萎びたおっさんの死体だと気づき、村の中は瞬く間にざわめきに包まれた。
「おい……お前、大人しく図書館に行ったんじゃなかったのか……!?」
「おっさんはどうしたんだ!? 一体何があった!?」
口々に質問を投げかけるバーバリアンたち。テリエスは膝を折ってその場に崩れ落ち、おっさんを抱きしめながら「ごめん……ごめん……」と泣きじゃくることしかできなかった。
事情の詳細は分からない。だが、自分たちの制止を振り切っておっさんを追いかけ、その遺体を背負って帰ってきた幼いテリエスの姿を見れば、何が起きたのかは大体分かった。
「……おい、お前ら。火葬の準備をしろ」
バーバリアンの村長が、低く重い声で言った。
特別に英雄扱いするわけでもない。だが、自分たちと同じ飯を食べ、酒を酌み交わした「村の仲間」として、図書館の横にある高台で、おっさんの火葬が執り行われた。
最近はおっさんのホラ話を聞きに来なくなっていた子どもたちも、荒くれもののバーバリアンたちも全員が集まり、空へ高く立ち上る煙を黙って見つめていた。
火葬が終わり、パチパチと火の粉が舞う前で、テリエスは袖でガシガシと涙を拭った。そして、すぐ隣にいた体の大きな少年バーバリアンたちの元へ向かう。
「なあ……俺も訓練に混ぜてくれないか?」
真っ赤に目を腫らしたテリエスを見下ろし、大柄な少年は頭をガシガシと掻くと、豪快にニッと笑ってテリエスの背中を思い切り叩いた。
「ガハハ! 当たり前だ! 俺たちの訓練について来られれば、お前みたいな子ウサギでも立派な戦士になれる! さあ、行くぞ!」
その日から、テリエスの血の滲むような日々が始まった。
昼は図書館で知識を蓄え、秘密基地で密かに魔法の精度を磨き、訓練所では他のバーバリアンに混ざって全身の筋肉を痛めつける。
◇
——それから、数年の月日が流れた。
【勇敢な戦士『おっさん』ここに眠る】
十五歳になったテリエス。成人の儀式を明日に控えた夜。
テリエスは月明かりの下、おっさんの墓の隣に腰かけていた。
「おっさん。俺、強くなったと思うよ」
テリエスは自分の腕を見つめた。
「魔法の加速と強化は、バーバリアンの身体強化と見分けがつかないくらい完璧に偽装できるようになった。苦手だった筋トレもやり込んで、今じゃ筋肉量なら村の誰も負けないさ。背はあんまり伸びなかったけどね……。それでも、今じゃ大人に負けないくらい強いバーバリアンになれたよ。みんなも俺を認めてくれてる」
ふっと微笑み、静かな夜空を見上げる。
「明日は成人式だ。それが終わったら、王都での生活が始まる……。おっさんに教わったことは何一つ忘れてないよ。俺はこの過酷な世界で絶対に生き残って、毒気の向こう側の世界を見てやるんだ」
テリエスは立ち上がり、墓標に向かってまっすぐな視線を向けた。
「だから、少しの間お別れだ。王都でたくさんの仲間を作って、いっぱい冒険して、抱えきれないくらいの土産話を持って帰ってくるからさ。おっさんも向こうで楽しくやっててくれよな」
ポケットから取り出した麦の種を墓に振りかけ、テリエスは口元を豪快に歪めた。
「ガーッハッハッハ! ……それじゃあ、行ってくるよ」
悲しみを受け入れ、強く前を向いた少年の背中。
テリエスの新たなる冒険の物語が、ここから幕を開ける。
【第1章:旅立ち - 完 - 】
今回のお話で『インテリバーバリアンの生存戦略』第一章は終了となります。
テリエスがなぜ一級冒険者を目指すのか。
なぜ魔法を隠しているのか。
そして、なぜ「ガハハハ」と笑うバーバリアンになったのか。
ようやく主人公の原点まで書くことができました。
ここからは再び現在へと戻り、テリエスと仲間たちの冒険が続いていきます。
そして、ここまでかなりの頻度で更新してきましたが、第一章終了を一区切りとして、今後は基本的に週刊連載へ切り替える予定です。
ある程度のストックはあるのですが、書けば書くほどキャラクターたちの性格や原点に関する理解が自分の中で深まり、リライト作業が多くなるので、なるべく完成した状態のものを皆様にお届けしたいというのが主な理由です。
とはいえ、読んでくださる方が増えたり、コメントや♡などで「続きを読みたい!」という反応をたくさんいただけたら、作者が調子に乗って更新頻度が上がる可能性は大いにあります。
バーバリアンなので、その辺は勢いです。ガハハハ。
引き続き、テリエスたちの冒険を楽しんでいただけたら嬉しいです!
そして最後に、もう一作品だけ。
別作品で、テリエスのように普段はいろいろ考えている大学生たちが、魔物ではなく酒と戦う話も書いています。
『【完結】偏差値70超えの大学で『テニスも飲みも本気』のサークルに入ったら、ガリベン女子がアフロの男にゲロを吐いていたんだが……』
https://ncode.syosetu.com/n4554mt/
こちらには剣も魔法もありません。
代わりに、「居酒屋」という名のダンジョンへ潜り、『チョモランマ』という魔物を討伐したりしています。
あるのは大学生と、テニスサークルと、大量の酒です。
なお、こちらの冒険者たちはテリエスほど生存戦略がしっかりしていないため、だいたい酒に負けます。
『インテリバーバリアン』とはまったく違う現代大学生モノですが、もしこちらのノリも気になった方がいましたら、ぜひ読んでみてください!
それでは、第二章で。
ガハハハ!
今回のお話で『インテリバーバリアンの生存戦略』第一章は終了となります。
テリエスがなぜ一級冒険者を目指すのか。
なぜ魔法を隠しているのか。
そして、なぜ「ガハハハ」と笑うバーバリアンになったのか。
ようやく主人公の原点まで書くことができました。
ここからは再び現在へと戻り、テリエスと仲間たちの冒険が続いていきます。
そして、ここまでかなりの頻度で更新してきましたが、第一章終了を一区切りとして、今後は基本的に週刊連載へ切り替える予定です。
ある程度のストックはあるのですが、書けば書くほどキャラクターたちの性格や原点に関する理解が自分の中で深まり、リライト作業が多くなるので、なるべく完成した状態のものを皆様にお届けしたいというのが主な理由です。
とはいえ、読んでくださる方が増えたり、コメントや♡などで「続きを読みたい!」という反応をたくさんいただけたら、作者が調子に乗って更新頻度が上がる可能性は大いにあります。
バーバリアンなので、その辺は勢いです。ガハハハ。
引き続き、テリエスたちの冒険を楽しんでいただけたら嬉しいです!
そして最後に、もう一作品だけ。
別作品で、テリエスのように普段はいろいろ考えている大学生たちが、魔物ではなく酒と戦う話も書いています。
『【酒バカ】酔ってしまえばみんなバカ
〜キャンパスライフは度数5%でできている
こちらには剣も魔法もありません。
代わりに、「居酒屋」という名のダンジョンへ潜り、『チョモランマ』という魔物を討伐したりしています。
あるのは大学生と、テニスサークルと、大量の酒です。
なお、こちらの冒険者たちはテリエスほど生存戦略がしっかりしていないため、だいたい酒に負けます。
『インテリバーバリアン』とはまったく違う現代大学生モノですが、もしこちらのノリも気になった方がいましたら、ぜひ読んでみてください!
それでは、第二章で。
ガハハハ!




