宴
正式にパーティを結成し、互いの課題を共有したテリエス、ルーエン、シェリルの3人。
「……ふう。とりあえず、これで一安心だな」
それぞれに乗り越えるべき壁はあるが、今の彼らなら絶対に大丈夫だという妙な確信があった。晴れやかな顔で笑い合っていると、ギルドの受付から番号を呼ばれる。戦利品の査定が終わったようだ。
「よし、初めての稼ぎを受け取りに行くぞ!」
ワクワクした足取りで受付へと向かった3人に対し、ぶっきらぼうな受付係が提示した金額は——「白金貨5枚」という破格の提示だった。
「……えっ?」
絶句するテリエスたち。
今回のダンジョン探索における目標金額は「白金貨1枚」だった。10等級の年間市民税がちょうど白金貨1枚であることを考えれば、初回にして数年分はお釣りが来る大金だ。
内訳を聞けば、道中の魔石や素材で白金貨1枚、そして最後のグリーンスパイダーαの巨大魔石が白金貨4枚分として査定されたらしい。
「う、うわあああッ! 白金貨5枚だって!?」
「やったぁぁぁッ! すごいです、テリエス、ルーエン!」
小躍りしながら歓喜する3人。
大金を持ち歩く文化のないオルドリアでは、冒険者登録済みの者は金をギルドへ預け、必要な時に「市民カード」を提示して引き出す仕組みになっている。ダンジョンをクリアして正式な冒険者の権利を得たテリエスとシェリル、そして元々登録してあったルーエンは、さっそく分配を行うことにした。
白金貨5枚のうち3枚を、1枚ずつ各自の口座へ振り分け、残った2枚も均等に分配しようとした。しかし、「自分たちは高価なアイテムをもらったのだから、残りはテリエスが受け取るべきだ」というルーエンとシェリルの強い勧めに押し切られ、結局テリエスが受け取ることになった。
「おいおい……新人が初めてのダンジョンでそんな額を稼ぎ出したのか!」
「マジかよ、白金貨5枚だと!?」
あまりの金額に、周りの冒険者たちがどよめき、拍手と称賛の声を送り始める。そこには人間も、バーバリアンも、ドワーフも関係なかった。
酒場の奥にいたバーバリアンたちが興奮気味に立ち上がり、雄叫びを上げる。
<偉大なる新成人! テリエスッ!!
<新成人の長! テリエスッ!!
そこにはバーバリアンの聖地でつい先日見た顔がちらほらいた。
胸を張るテリエス。脳内にドーパミンのような快感が駆け巡り、急速に気持ち良くなっていく。
「ウオオオオおッ! 俺は偉大なバーバリアン! テリエスだァッ!! そして紹介する! 俺の最高の仲間、偉大な人間のルーエン! 偉大な獣人のシェリルだァッ!!」
テリエスの叫びに呼応し、同胞たちがさらに叫んだ。
<ウオオオオ! 偉大な人間! ルーエン! ルーエンッ!
<偉大な獣人! シェリル! シェリルッ!
宿屋の裏方仕事で日の目を見なかったルーエンも、酒場で仲間が見つからず一人佇んでいたシェリルも、全身に鳥肌が立つほどの全能感と快感に包まれていく。
(……宿屋で仕事をしてる時は、バーバリアンたちの騒ぎなんてただうるさくて嫌いだったんだがな。いざ当事者として真ん中で担ぎ上げられてみると……クソッ、なんて気持ちいいんだ。これ、癖になりそうだぞ……!)
心の中で苦笑しながらも、ルーエンは自分の頬がゆるみっぱなしなのを感じていた。
一方、シェリルもまた、自身の身体を駆け巡る未知の感覚に身を震わせていた。
かつては酒場の片隅で身を縮こまらせ、荒くれ者たちの喧騒と視線に怯えるばかりだった。しかし今、大歓声の中心にいる自分を包み込んでいるのは、恐ろしい暴力ではなく、圧倒的な「肯定」と「絶賛」だ。
(怖い……こんなに騒がしいのは怖いハズなのに……なんだろ、この胸が熱くなる感じ……! あんなに私を無視していた冒険者たちが、みんな私の名前を叫んでる……ッ!)
耳を打つ大歓声、あおられた熱気、そして視界を埋め尽くす熱狂。
恐ろしさに身体を強張らせながらも、丸い耳をピクピクと揺らし、背筋を駆け上がる強烈な「承認の快楽」に脳を酔わせていく。怯えと高揚がぐちゃぐちゃに混ざり合い、シェリルの瞳は熱い快感に潤んでいった。
バーバリアンたちの豪快なノリにつられ、他種族の冒険者たちも杯を掲げて大合唱を始めた。
「「「ウオオオオ! テリエス! ルーエン! シェリルッ!!」」」
「「「ウオオオオ! テリエス! ルーエン! シェリルッ!!」」」
元来、冒険者とは騒がしく、祭りごとが大好きな生き物だ。日頃バーバリアンを馬鹿にしている他種族も、ノリの良さだけで言えば大概頭が悪い。
歴史的背景からバーバリアンと仲の悪いエルフもいれば、獣人やドワーフを差別する人間もいる。エルフに至っては基本的に他種族を見下しているのが日常だ。
だが——今、この瞬間だけはそんなことなど一切関係なかった。
種族も、性別も、立場も超えて、誰もが同じ熱気の中で笑い合っている。こここそが、もしかしたら世界で最も平和な空間なのかもしれなかった。
場が最高潮に達し、懐も潤って気の大きくなったテリエスの中で、抑えきれない「バーバリアンの本能」が爆発した。
「ウオオオオおおおおおおお! 今日は俺の奢りだああああああああああ!! みんな! 飲めぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
豪快に叫ぶテリエス!
真横で一緒に騒いでいたルーエンとシェリルが一瞬「ええーっ!?」と目を丸くしてフリーズするが、顔を見合わせると即座に吹っ切れて爆笑した。
「うおおおおお! 飲めーっ!!」
こうして、伝説的な大宴会が始まった。
宴が始まるやいなや、テリエスは受付から受け取った巨大な酒樽を前へ引き寄せる。
こっそりと脳内で『強化』の術式を組み上げ、スペックを跳ね上げると、300杯分の麦酒が入った超重量の酒樽を軽々と頭上へ持ち上げた。
「ウオオオオッ!」
「偉大な戦士テリエス! 偉大な戦士テリエス!」
酒場の中心へ豪快に駆け寄っていくテリエス。
シェリルが大量のジョッキを抱えてその後を追いかけ、手際よくどんどん酒を注ぎ分けていく。
少し離れたテーブルでは、ルーエンが冒険者相手にポーカーに興じ始めていた。
テリエスを中心に、酒を飲んではジョッキを投げ捨てる荒くれ者たち。
ジョッキに勢いよく酒を注ぎ続けるシェリル。
そして——ポーカーでボロ負けし、どんどん顔色を悪くしていくルーエン。
夜が深まっても、熱気が冷める気配は一切ない。
一仕事を終えた例の女神官までちゃっかり合流し、テリエスの奢りをいいことにガブガブと酒を煽っていた。
「……うう、負けたぁ……」
ポーカーで敗北を重ねたルーエンが、ついにパンツ以外の全衣服を奪われ、トボトボとこちらの飲み会に合流してきた。
「ガハハハハ! どうしたルーエン!」
パンツ一丁のルーエンを見つけた瞬間、酔っ払いテリエスの野生が限界を突破した。
「さすが勇敢な戦士ルーエンだ! よし! 負けてられん! 俺こそが真の戦士だぁぁぁ!!」
「え、テリエス!?」
勢いよく装備を引っ剥がし、最後の一枚すら脱ぎ捨てたテリエスは、「俺のバーバリアンを見ろ!!」と叫んでテーブルの上に飛び乗った!
「「「ウオオオオおッ! 偉大なる戦士テリエスの、偉大なる『戦士』だァァァッ!!」」」
酒場全体から割れんばかりの大歓声が巻き起こる。
出来上がった女神官は腹を抱えて爆笑しながら、テリエスの股間を指さし、逆の手の指で輪っかを作り覗き込むふりをして叫ぶ。
「ギャハハハハ! 鑑定! 1等級の戦士! 申請を許可するゥゥゥーッ!」
「テリエスの……せんし……」
真横でぶらんぶらん揺れる「テリエスの1等級の戦士」を、目をパチクリとさせて見つめるシェリル。すかさずパンツ一丁のルーエンが飛んできて、シェリルの目を手で覆った!
「シェリル! 目に毒だ! 見ちゃダメだぁぁぁッ!!」
「テリエスの……せんし……」と仰向けに倒れ込むシェリル。
「私だって戦士だああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
日頃からかなりストレスが溜まっていたのだろう。完全に泥酔した女神官までもが狂乱の波に呑まれ、勢いよく神官服のボタンを弾き飛ばして脱ぎ捨てようとした——その瞬間!
「何をやっているんですか、あなた様は戦士ではなく神官ですよぉぉぉぉぉぁぁぁッ!?」
あまりの大騒ぎを聞きつけた神殿の厳格な職員たちがなだれ込んできた。慌てた様子で女神官を羽交い締めにし、脱ぎかけの法衣を押さえ込む!
「離せーッ! 私だって偉大な戦士になるんだからあああああああ! うおおおお! 私だって戦士だああぁぁぁぁぁ!!!」
全力で暴れるも虚しく、公務員たちに担ぎ上げられ、強制送還されていく女神官。
「俺の戦士も見ろーッ!」と調子に乗った他の冒険者たちが一斉にパンツを脱ごうとし、酒場では再び大歓声が巻き起こるのだった。
絶え間なく響き渡る笑い声。
バーバリアン、人間、ドワーフ、獣人、エルフ——あらゆる種族の声が入り混じるその狂乱の合唱は、まさにこの酒場『五彩の酒盃亭』の名にふさわしい福音だった。
すっかり出来上がったテリエスは、まだ服を着たままの戦士達のパンツを引きちぎって大騒ぎする。そんな仲間たちの中心で、温かい幸せを噛み締めていた。
(おっさん……俺、最高の仲間たちに出会えたよ)
万感の思いを胸に抱き、テリエスはジョッキを高く掲げ、オルドリアの夜空へと咆哮したのだった。
うおおおおおおおおお!
【作者からの挨拶】
インテリバーバリアンをここまで読んでくれてありがとうございます。
まだまだお話は続く予定ですが、一応このお話が一つの区切りです。
世界観を表現するために、どうしても説明が多くなってしまった作品ですが、ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
よろしかったら、レビューやコメントをいただけると嬉しいです。




