獣人族の仲間
翌朝。
最後の一人を決めるため、テリエスはルーエンを引き連れてギルド酒場『五彩の酒杯亭』へと向かった。
酒場の中は、昨日以上の熱気と怒号に包まれていた。道に迷って遅れて到着したバーバリアン達が合流したためか、店内には筋骨隆々な大男たちの姿が目立つ。
「おい、そこの大槌のバーバリアン! 俺たちのパーティに来い!」
「報酬は山分けだぞ!」
難しい割合など計算できないが、「偉大な戦士は報酬を『山分け』するパーティに入るものだ」と教育されてきたバーバリアンたちは次々と勧誘され、威風堂々とパーティに加わっていく。
そして——今日も今日とて、テリエスは完全に無視されていた。
だが、今日のテリエスは昨日までとは立場が違う。
ルーエンという『人間』を確保したことで、テリエスは誘われるのを待つ立場から、「パーティリーダーとして仲間を募る側」に回ることができたのだ。
(俺のような小柄なバーバリアンが弾かれたように、何らかの理由であぶれている他種族が必ずいるはずだ)
店内をじっくりと見回す。
すると、酒場の隅で、大きなメガネをかけた小柄な女獣人が、近くのエルフや人間たちに怯えがちに声をかけようとしては、間悪くあしらわれている姿が目に入った。
(……あいつでいいか)
種族が異なり、あぶれている者であれば誰でもよかった。テリエスは最後のメンバー候補に目星をつけると、隣のルーエンの肘を突いた。
「おい、ルーエン。あいつに声をかけてきてくれ」
自分で声をかけるより、人懐っこい見た目と接客慣れした雰囲気を持つルーエンに交渉させ、話がまとまったところで合流する方が成功率は遥かに高い。テリエスの合理的な判断だ。
「おっ、あいつだな! ……任せときなっ!」
ルーエンはニヤリと笑うとテリエスに目配せをした。
ダンジョンへ連れ出されることが決まった以上、ただの足手まといと思われるのはシャクだ。自分の接客技術と人当たりの良さをテリエスに見せつける絶好の機会とばかりに、ルーエンは自信満々の笑みを浮かべて女獣人へ歩み寄った。
「やあ! ダンジョン探索の仲間を探しているのかい? 俺はルーエン! 10等級の人間で狩人だ。もしよかったら、僕らのパーティに入らないかい?」
ルーエンが爽やかに手を差し出す。
「え……っ! ありがとう! こちらこそ、ぜひ参加させてもらいたいです! 私は10等級の獣人魔法使いで、シェリルと申します!」
救われたような笑みを浮かべ、シェリルがルーエンの手を握り返そうとした——その瞬間。
ぬるっと背後から現れたテリエスの巨大な手が、横からシェリルの華奢な手をガシッと鷲掴みにした。
「俺は10等級のバーバリアンの剣士! テリエスだ! よろしくな、シェリル!」
「ひやああっ!?」
陽気に笑うテリエスの圧倒的な圧に、シェリルは涙目になって怯え、助けを求めるようにルーエンを見つめた。しかし、ルーエンはニヤニヤと意悪く笑いながら再び握手を求めてくる。
「3人で頑張ろう! よろしくな、シェリル!」
(……やられましたわ!!)
後悔しても後の祭りだった。幸先不安すぎる滑り出しにシェリルは青ざめたが、他に自分を入れてくれるパーティがないのも事実。彼女は腹を括り、この怪しい二人組についていくことを決意した。
◇
場所を移した一行は、テリエスのおごりで席を取り、作戦会議が始まった。
テーブルの上には、テリエスが頼んだ巨大なジョッキいっぱいの麦酒、ルーエンの葡萄酒、そしてシェリルのオレンジジュースが並ぶ。
まずは互いの手札を開示する時間だ。
「俺は近接戦闘が得意だ。今年のバーバリアンの成人の儀では主席だった。主なスキルは、自身の能力を引き上げる『肉体強化』と『咆哮』だ」
テリエスは堂々と胸を張った。
本当は、バーバリアンが一般的に使う『肉体強化』ではなく、呪文詠唱による『加速』と『強化』の魔法が彼の真骨頂だ。
しかし、手札を全て晒すことは自らの弱点を暴露するに等しい。魔法が使える事実は極秘事項であり、それを隠し通す前提だからこそ仲間集めに苦労したのだ。だが、前衛の柱となる以上、相応の信頼を得る必要もある。そのため「バーバリアンの主席」という実績だけは明かしたのだった。
小柄なわりに強そうだと思っていたが、まさか主席とは——ルーエンとシェリルが驚きの表情を浮かべる中、ルーエンが少し申し訳なさげに口を開いた。
「俺は狩人で、本業は料理人だ。得意武器は弓で、味方に当てずに援護射撃できる程度の技量は持っている。ただ情けない話、モンスターが怖くて近接戦は無理だし、威嚇されただけで手元が狂うこともあるから戦闘力は期待しないでくれ。テリエスが敵の注意を惹きつけてくれている間なら多少は役立つかもしれないが……まあ、基本は料理人だな。あとは……10等級ダンジョン程度の宝箱なら、鍵付きでも解除できるくらいだな」
(料理ができる上に鍵開けまでできるだと……!? こいつ、俺が最も求めていた人材じゃないか。カモにしようとしてくれて本当にありがとうな!)
テリエスは心の中でルーエンが自分から金を巻き上げようとしたことへの感謝を深く刻んだ。
最後に、シェリルが緊張した面持ちで眼鏡の位置を直した。
「わ、私は魔法使いです。イヌ科……実際の分類としてはタヌキ属なのですが、その洗礼を受けているので、人間やバーバリアンよりも嗅覚が格段に優れています。一度覚えた匂いを辿って探し物をすることも可能です。使える魔法は『炎属性』と『光属性』ですが……マナの最大量が少ないので、1日に使えるのは1等級魔法が合わせて20回程度です」
バーバリアン以外の種族とまともな会話をするのが初めてだったテリエスは、(こいつら、まともに話が通じる……!)と密かに感動していた。
そしてシェリルの能力を冷静に分析する。
(一度行った道を匂いで識別できるなら迷わないし、敵の匂いを覚えさせれば危険察知のソナーになる。さらにスパイダー系やウルフ系に強い炎魔法と、傷を癒す光魔法まで使えるとは……マナの制限はあるが、予想を遥かに超える優秀さじゃないか)
「よし、互いの札は分かった。取り決めをしよう」
テリエスはテーブルを叩いた。
報酬分配:完全均等の『1:1:1』
基本陣形:テリエスが前衛で魔物を倒し、ルーエンとシェリルは自己防衛を最優先にしつつ可能な範囲で支援
役割分担:主戦闘はテリエス、食事はルーエン、マッピングと危険察知はシェリル
魔法運用:シェリルのマナは温存し、主に非常時の回復用として運用する
シェリルは目を丸くした。失礼ながら、バーバリアンにしては驚くほど知性的で筋の通った会話をするテリエスが、戦闘をほぼ一人で担うにもかかわらず「均等分配」をあっさり提示してきたからだ。
交渉ごとが苦手で不安だったシェリルにとって、これ以上ない破格の好条件である。
(最初は騙されたと思ったけれど……もしかして、すごく良いパーティに入れたのかな?)
不安が吹き飛び、シェリルの尻尾が嬉しそうにパタパタと揺れ始めた。
テリエスからすれば、本当の力を隠したまま潜れるなら誰でもよかったのだが、想定以上の優秀な仲間が揃い、無駄な欲を出さずに契約を固められたことに十分満足していた。
「では、明日挑むダンジョンの選定だ」
テリエスが提示した条件は3つ。
1. 斬撃耐性の高いモンスターが出ないこと
2. 火属性攻撃に弱いモンスターが出ること
3. 1回の攻略でパーティ総手取り白金貨1枚以上(1人あたり金貨3枚以上の山分け)が見込めること
条件に合致するダンジョンはすぐに決まった。ボスが『グリーンスパイダー』の10等級ダンジョンだ。
その日は解散となり、宿に戻ったテリエスはルーエンの作った絶品スープを胃袋に流し込んだ。
自室のベッドに横たわり、天井を見つめる。
いよいよ明日、初めてのダンジョンへ挑む。胸の奥で静かに跳ねる高揚感を感じながら、インテリバーバリアンはゆっくりと瞼を閉じた。
◆ご挨拶
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