第9話-幸運+200
「ここが……マッドサイエンティストの研究所?」
翌日。
蓮は鬱蒼とした森の中に建つ、見るからに怪しげな建物を見上げていた。
ログイン初日だった昨日。
ポロンとの話し合いを終えた蓮は、そのまま討伐依頼でも受けてみようかと考えていた。
せっかく初心者装備も手に入れたのだ。
実際にモンスターと戦って、戦闘がどんなものなのか試してみたかった。
しかし、ふと時刻を確認したところで思いとどまった。
このまま続ければ、翌日の仕事に差し支える。
結局、初日のプレイはそこで切り上げることにしたのだ。
そして今日。
仕事を終えて再びログインした蓮は、ポロンから指定された集合場所までやってきた。
「そうそう。ここだよ~。」
隣ではポロンが相変わらず軽い調子で答えている。
そして、彼女のほかにも二人のプレイヤーが立っていた。
これで四人。
職業ランク昇格試練に必要な人数が揃ったことになる。
「君が飛び入り参加者の人ですか?僕は今回一緒に行動するお化け大根といいます。呼び方は、みんな大根っていうかな。宜しくね。」
(ん?飛び入り参加者?この人は違うのか?)
見た目から見ると思いっきり農夫といった感じの目の前の男性が蓮に挨拶をしてきた。
見た目通りといった感じのユーザーネームを聞かされた蓮は思わず小さく笑う。
「はい。大根さん。REN999といいます。RENでいいです。よろしくお願いします。」
「REN君ね。よろしく。」
「ほんなら、次はウチやね。」
大根の隣にいた女性が一歩前へ出る。
「REN君ね。ウチはオクトパシー美恵いいます。みんなからはオクさん言われてます。よろしゅうね。」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
蓮は返事をしながら、思わず彼女をまじまじと見る。
とにかく派手だった。
服装も装飾品も、隣にいる大根とは正反対と言っていいほど目立つ。
「ちなみにウチ、職業はギャンブラーやってます。」
「ギャンブラー?」
「せや。ランクⅢやね。」
「そんな職業もあるんですね……。」
「あるでぇ。なかなかおもろい職業やよ。」
そう言って、オクさんは楽しそうに笑った。
(ギャンブラーが、この試験に参加するのか……。)
五本中一本が当たり。
残り四本は即死毒。
妙に似合いすぎている気がした。
「はいはい。自己紹介も終わったところで~。オクさん、RENさんにあれお願いしまーす。」
「ちょっと待ってください。」
「ん?」
「二人は……この試験の内容、知ってるんですよね?」
「もちろん。」
「知っとるよ。」
「…………。」
(知ってて参加してるのか、この二人……。)
蓮が若干引き気味に二人を見ていると、オクさんが何やらアイテムを取り出した。
「ほなREN君、これ。」
「えっ……何これ……。」
手渡されたのは二つの装備品だった。
一つは円錐形をした派手な帽子。
一昔前の誕生日パーティーや子供向けイベントで、誰かが被っていたような気がする。
(確か……パーティーハットだっけ?)
そしてもう一つ。
太い眉毛に大きな鼻、さらには口ひげまで付いた眼鏡。
昔、テレビでコメディアンが付けているのを何度か見たことがある。
(グラウチョ・グラス……だったよな、これ。)
蓮は二つの装備品とオクさんの顔を交互に見た。
「……これを、俺に?」
「びっくりした? びっくりするよね~。」
答えたのはポロンだった。
「でもそれ、二つともLUKが上がる装備品なんだよ。だからRENさんに装備してほしいの。」
「LUK……?」
「そ。今回みたいな運試しなら、上げられるだけ上げといた方がいいでしょ?」
「なるほど……。」
言っていることは分かる。
非常によく分かる。
蓮は改めて手元を見る。
「……これ、両方?」
「両方。」
「…………。」
「あっ、もちろん終わったら返してね。」
ポロンはいつもの軽い調子で付け加えた。
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【パーティーハット】
防御-2
LUK+100
【グラウチョ・グラス】
防御-2
LUK+100
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「…………。」
蓮は装備した自分の姿を確認し、言葉を失った。
「おー、似合ってる似合ってる。」
「ええ感じやん、REN君。」
「絶対思ってないですよね?」
「大丈夫、大丈夫。それ、ランクⅡ相当の装備品でそこそこ高価だから。」
「…………。」
聞きたかったのは値段の話ではない。
なんとも噛み合わない返答をするポロンに、蓮はそれ以上何かを言うのを諦めた。
(まあ……これも依頼だからな。)
そう自分に言い聞かせ、無理やり納得することにした。
「それじゃ~、準備も終わったところで行こっか~。」
ポロンが研究所へ向き直る。
そして、見るからに怪しげな扉へと手をかけた。
「昇格試練、開始でーす。」
(本当に大丈夫なんだろうな……。)
蓮の不安をよそに、研究所の扉がゆっくりと開いていった。




