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アセット・フロンティア・オンライン  作者: 床間信生


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10/13

第10話-全部ハズレ?

 重々しい音を立てながら、研究所の扉がゆっくりと開いていく。


「うわ……。」


 一歩中へ足を踏み入れた蓮は、思わず声を漏らした。


 研究所の中は薄暗く、壁に取り付けられたランプの淡い光だけが、辛うじて周囲を照らしている。


 正面には、奥が見えないほど長い一本の通路。


 そして、その両脇には蓮の身長を優に超える巨大なガラスケースが、等間隔に並べられていた。


「……なんだよ、これ。」


 蓮は一番近くにあるガラスケースへ目を向ける。


 中は薄い黄色をした液体で満たされていた。


 その液体の中に、一体のモンスターが沈んでいる。


 目を閉じ、ピクリとも動かない。


 隣のケースには、巨大な角を持つ獣。


 その次には、見たこともない六本足のモンスター。


 さらにその奥にも――。


 種類の異なるモンスターたちが、標本のように次々と並んでいた。


(ホルマリン漬け……みたいなものか?)


 ゲームだと分かっていても、気味が悪い。


 しかもフルダイブだからこそ、その不気味さが妙に現実味を帯びて感じられる。


「……これ、本当に職業の昇格試験なんですよね?」


「そうだよ~。」


 背後から、いつもと変わらないポロンの声が返ってきた。


「この先に試験会場があるから、そのまま真っ直ぐね。」


「…………。」


 蓮はもう一度、左右に並ぶガラスケースを見る。


「なんで調薬師の昇格試験で、こんなところに来るんだ……。」


「マッドサイエンティストの研究所やからなぁ。」


 オクさんは楽しそうに笑っている。


(いや、答えになってないだろ……。)


 そんなことを考えながら、蓮は三人とともに薄暗い通路を進み始めた。


 左右に並ぶガラスケースを眺めながら、蓮たちは薄暗い通路を進んでいく。


 しばらく歩くと、やがて通路の突き当たりに一枚の扉が見えてきた。


「ここ?」


「うん。この先。」


 ポロンが迷うことなく扉を押し開ける。


 その先にあったのは、先ほどまでの通路よりもずっと広い部屋だった。


 壁際には用途の分からない器具や薬品の入った瓶が並び、中央には大きな実験台が置かれている。


 そして――。


「ん?」


 実験台の向こうに、一人の人物が立っていた。


 まず目についたのは、四方八方へ爆発したように広がる真っ白な髪。


 その下には、分厚い牛乳瓶の底のようなレンズがはめ込まれた黒縁眼鏡。


 しかもレンズには、まるでマジックで描いたかのような丸い模様まで入っている。


 着ている白衣も白衣と呼んでいいのか疑わしいほど埃まみれで、ところどころ黒い染みまで付いていた。


「…………。」


 蓮は無言でその人物を見つめた。


(分かりやすいなぁ……。)


 ここまで見た目だけで職業を主張してくる人物も珍しい。


 マッドサイエンティストの研究所。


 そして目の前には、どう見てもマッドサイエンティスト。


(絶対この人だろ。)


 蓮がそう確信した、その時だった。


「ヒヒッ……来たかね。」


 白衣の人物がゆっくりと顔を上げた。


「ワシの崇高なる実験の、被験者諸君!」


「試験を受けに来ただけでーす。」


 ポロンが即座に訂正した。


「…………。」


(この人たちのテンションについていける気がしない。)



「おやおや、そこの君。」


 白衣の人物がポロンへ顔を向ける。


「確か名は……ポロン5963とか言ったかのぉ。」


「どうも~。また来ました~。」


「三日ぶりじゃったかぁ?」


 老人はニヤリと口元を歪めた。


「また性懲りもなく実験体になろうとは、君もよっぽどの物好きに違いない。」


「…………。」


 その言葉に、蓮は眉をひそめた。


(えっ……三日ぶり?)


 ということは、ポロンは三日前にもここへ来ている。


(そんなに難しいのか?)


 蓮はポロンから聞いた試験内容を思い返す。


 五本の試験管のうち、当たりは一本。


 残り四本には抵抗効果を無視する即死毒が入っている。


 四人で一本ずつ飲み、誰かが当たりを引けば試験終了。


 全員がハズレだった場合は、一度戻って再挑戦。


 確か、そんな話だったはずだ。


(だったら、何回かやれば終わるんじゃないのか?)


 運が悪く全員がハズレを引いたとしても、また挑戦すればいい。


 いくらなんでも、三日もかかるような試験には思えなかった。


「あの……ポロンさん。」


「ん?」


「もしかして、この試験って今日が初めてじゃないんですか?」


「うん。」


「三日前にも?」


「やったよ~。」


「……何回くらい?」


「んー?」


 ポロンは少し考えるように首を傾げた。


「前回は八回だったかな?」


「八回!?」


(前回はって……その前もあるのか?)


 思わず口から出かかった言葉を、蓮は飲み込んだ。


「さて。無駄なおしゃべりはこの辺にしておこうかのぉ。」


 老人が白衣を翻しながら、楽しそうに口元を歪める。


「そろそろ貴様らがもがき苦しむ様を、再び見学させてもらうとしよう!」


 老人が言葉を終えた直後、部屋の奥から一台のロボットが姿を現した。


 ガラガラと音を立てながら、台車を押してこちらへ近づいてくる。


 その台の上に載せられていたのは――。


「あれが……。」


 五本の試験管。


 ポロンから聞いていた、今回の昇格試練そのものだった。


「あっ……そういえば。」


 それを見た瞬間、蓮はあることを思い出した。


 ――【開拓士の目】。


 もしかしたら、何か分かるかもしれない。


「……開拓士の目。」


 周囲に聞こえない程度の小さな声で呟く。


 直後、視界がわずかに揺らぎ、一瞬だけ周囲の景色がぼやけた。


(あれ?)


 以前使った時とは違い、ニールから何の案内もない。


 一瞬、失敗したのかと思った。


 しかし――。


 蓮の視界上部に、二本の試験管を模した表示が浮かび上がった。


【赤】


【青】


「……?」


(赤と青?)


 何を意味しているのかは分からない。


 だが、おそらく片方が当たり、もう片方がハズレなのだろう。


 そう考えながら、蓮は台車へ視線を戻した。


「…………。」


 一本目。


 赤。


 二本目。


 赤。


 三本目も――赤。


「え?」


 四本目も赤。


 そして最後の一本まで。


 五本すべてが、蓮の目には赤く光って見えていた。


「ん……? どういうこと?」


「どうしました、RENさん?」


 大根が不思議そうに尋ねてくる。


「あっ……いや、別に何でもないですけど……。」


 蓮はもう一度、五本の試験管を見る。


 やはり、すべて赤い。


「……っていうか。」


 蓮は何気なく老人へ顔を向けた。


「あれって、本当に当たり入ってるんですかね?」


「そこ!!」


「え?」


「な、何を言っておる!! ドキーーーーッ!!!」


 老人が突然大声を上げ、これでもかというほど身体を仰け反らせた。


「…………。」


 蓮は無言で老人を見つめる。


 額には汗。


 泳ぎまくる視線。


 胸元を押さえた両手。


 そして、誰がどう見ても分かるほど露骨な動揺。


(いや……。)


(分かりやすすぎるだろ、この人。)

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