第11話-秘密基地?
「いや~、助かったよRENさん!」
昇格試練を終え、研究所を出たところでポロンが嬉しそうに蓮の肩を叩いた。
「まさか最初から当たりが一本も入ってなかったなんてね~。」
「いや、あれだけ分かりやすく動揺されたら……。」
結局あの後、蓮たちが老人を問い詰めたところ、五本の中に当たりが一本も入っていなかったことが判明した。
どうやら試験は、五本の中から当たりを引き当てることではなく、『当たりが存在しない可能性に気付けるか』まで含めたものだったらしい。
蓮の【開拓士の目】によってそれを見抜いたことで試験は終了。
ポロンは無事、職業ランクⅢへの昇格条件を達成した。
「それにしてもあれ、考えたやつ絶対に性格悪いよね~。」
「まあ……否定はできないですね。」
何度もハズレの試験管を飲まされたポロンからすれば、そう言いたくなるのも無理はない。
「それにしても……。」
蓮は隣を歩くポロンを見る。
「今まで何回、あの毒飲んだんですか?」
「それ聞く?」
「ちょっと気になります。」
「…………。」
珍しくポロンが目を逸らした。
(たぶん、とんでもない回数やってるんだろうな……。)
蓮は、ポロンが目を逸らした理由をなんとなく察した。
(今回一人足りなかったのも、もしかして途中で嫌になって抜けた人がいたとか……?)
あり得ない話ではない。
「ところでポロンさん。RENさんの報酬って、どこで渡すんですか? 今持ってきてないですよね?」
蓮がそんなことを考えていると、大根がポロンに尋ねた。
「うん。持ってきてないよ。」
「え?」
「だからさ、RENさんをクランに招待しようかなって思って。」
「クラン?」
聞き慣れない言葉に、蓮が首を傾げる。
「そやね。REN君なら、ウチもええと思うよ。」
オクさんも特に反対する様子はない。
「まあ、簡単に言うと――」
ポロンが人差し指を立てる。
「私たちの秘密基地かな。」
「秘密基地……?」
「クランというのは、ゲームをプレイする上で、考え方の近いプレイヤー同士が集まって作るグループですね。」
蓮の疑問に、大根が丁寧に説明してくれる。
「へぇー……なるほど。」
現実でいうサークルや、他のゲームでいうギルドのようなものなのだろう。
「じゃあRENさん。私たち三人は今から先に行くけど、パーティーは抜けないでそのままにしておいてね。」
「あ、はい。」
蓮が返事をすると、ポロンたち三人の姿が次々と光の粒子に変わり、その場から消えていった。
「…………。」
一人残された蓮がそのまま待っていると、ほどなくして目の前にウィンドウが現れた。
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【ポロン5963様からクラン《秘密の花園》へのゲスト招待が届いています。
受諾しますか?
YES NO】
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「これか。へー、秘密の花園っていうのがクランの名前か。」
特に疑う理由もない。
蓮が【YES】を指でなぞる。
その瞬間――。
「おっ……。」
研究所の前に広がっていた森の景色が、ゆっくりと薄れていった。
「……何ここ。」
景色が切り替わった瞬間、蓮は思わずそんな声を漏らした。
ぱっと見ただけでも、二十棟ほどの建物が並んでいる。
しかも、その大きさも造りも千差万別だった。
ごく普通の住居に見えるものもあれば、だだっ広い農場が併設された家もある。
少し離れたところには、道場のような雰囲気をした建物まで建っていた。
「これが……クラン?」
昨日から見てきた街並みとは、明らかに雰囲気が違う。
建物の高さも、形も、用途もバラバラ。
悪く言えば統一感がない。
だが逆に言えば、それぞれが自分の好きなものを好きなように作った――そんな場所にも見えた。
(秘密基地っていうから、てっきり一つの建物かと思ってたけど……。)
どちらかというと、小さな町に近い。
「RENさーん! こっちー!」
「ん?」
声のした方へ顔を向ける。
少し離れた場所にある喫茶店のような建物の前で、ポロンが大きく手を振っていた。
「はーい。ここが当クランのお客様用会議室となっていまーす。」
蓮が近づくと、ポロンがいつもの調子で建物を紹介してくれた。
「会議室?」
外から見る限り、どう見ても喫茶店なのだが。
そんな疑問を抱きながらも、蓮はポロンに促されるまま中へ入っていく。
店内にはいくつものテーブルと椅子が並び、奥にはカウンターまで設けられていた。
(やっぱり喫茶店じゃないか?)
「好きなもの頼んでいいからね~。」
「あっ……はい。じゃあ、コーヒーで。」
席に着くと、ポロンが一枚のメニューを差し出してきた。
コーヒーや紅茶といった飲み物から、サンドイッチ、スパゲッティなどの軽食まで。
品揃えだけを見れば、ごく普通の喫茶店と変わらない。
ただ、一つだけ妙なところがあった。
「……あれ?」
「どうしたの?」
「これ、値段書いてないですけど……。」
「ああ。それ?」
ポロンは何でもないことのように答えた。
「タダだから。」
「……タダ?」
「うん。クランで作ってる食材とか、前のメンバーで料理になりたいって人がいたからね~。」
「…………。」
昨日、ポーション一本百Gという値段に驚かされたばかりである。
そんなゲームの中で、今度は無料の喫茶店。
(このゲームの金銭感覚、どうなってるんだ……。)
「はい、お待たせ~。それとこれ。」
コーヒーと一緒に、ポロンが三本の小瓶をテーブルへ置いた。
「約束してたポーション三本ね。」
「あっ……。」
「はい。これで報酬一つ目はお渡し完了~。」
ポロンはそう言って、自分も蓮の向かいへ腰を下ろした。
「それじゃあ――もう一つの報酬の話、しよっか。」
「報酬……。」
「そ。ポーションと――」
ポロンがニッと笑う。
「フリーウルフの心について。」
「……!」
その言葉を聞いた瞬間、蓮の意識は喫茶店のことから完全に離れた。




