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アセット・フロンティア・オンライン  作者: 床間信生


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第12話-フリーウルフの心

 ポロンの説明によると、【フリーウルフの心】にはいくつかの使い道があるらしい。


 もっとも一般的なのは、専門職のプレイヤーへ加工を依頼する方法だ。


 加工を担当した職業によって完成するアイテムは異なるものの、共通して素早さに関係する効果が付与される。


 さらに、その効果量は加工したプレイヤーの職業ランクによっても変化するという。


 オークションで二万G前後という高値が付いているのも、それが理由らしい。


「なるほど……。」


 蓮は自分の持つ【フリーウルフの心】について考える。


 専門職に加工を頼み、装備品にして自分で使う。


 それなら、あのフリーウルフを手放したことにはならないのかもしれない。


 自分が装備している限り、ずっと自分と一緒にいることになる。


(それなら一応、約束は守ってる……ことになるのか?)


 あの時、子供たちに言った言葉を思い出す。


『それなら、俺が育てるよ』


「…………。」


(いや……違うよな。)


 うまく説明できるわけではない。


 装備品に加工して大切に使うことが、悪いことだとも思わない。


 それでも――。


 あの時、自分が子供たちに約束した「育てる」という言葉とは、何かが違う気がした。


「じゃあ、普通は加工して使うアイテムってことですか?」


「普通はね。」


 ポロンが意味ありげに笑った。


「普通は?」


「うん。問題はもう一個の使い方。」


「もう一個?」


「それをフィールドに持っていって、直接使うの。」


「直接?」


「そ。そうすると――」


 ポロンが蓮を指差した。


「フリーウルフが出てくる。」


「……え?」


 蓮は思わずポロンの顔を見た。


「出てくるって……あのフリーウルフが?」


「うん。正確には【フリーウルフの心】を使うことで、フィールド上にフリーウルフが一体出現するの。」


「…………。」


 蓮は再び【フリーウルフの心】へ意識を向ける。


 装備品に加工するしかないのなら、それでもいいのかもしれないと思っていた。


 だが――。


 もう一度、あいつに会える。


 そう聞かされてしまえば、話は別だった。


「それで……出てきた後はどうなるんです?」


「そこで二つ、選択肢が出るよ。」


「選択肢?」


「うん。」


 ポロンが二本の指を立てる。


「【戦う】か――【仲間にする】。」


「戦うとどうなるんですか?」


 蓮が尋ねると、ポロンは少し含みのある笑みを浮かべた。


「戦う方を選んで倒せば、レベルが一気に10上がって、さらに一万G。」


「レベルが10!?」


「うん。」


「一万Gも?」


「そう。」


(鉄の剣が何本買えるんだよ……。)


 昨日、武器屋で見た鉄の剣は一本350G。


 一万Gもあれば、今の蓮からすれば大金もいいところだった。


 そんな蓮の表情が変わったのを見て、ポロンがニヤリと笑う。


「ただし――CHAが100下がるけどね。」


「…………はい?」


「CHA、マイナス100。」


「100!?」


(CHAって……下がるとどうなるんだ?)


 称号【捨狼握飯】を手に入れた際に10上昇したのは覚えている。


 しかし、それが具体的に何へ影響するのかまでは知らない。


「ちなみにCHAが下がるとね~。」


 ポロンは指折り数えながら説明を始める。


「まず他のプレイヤーからは、『あー、こいつ何かやりやがったな~』って思われる。」


「分かるんですか?」


「ある程度はね。それとギルドで受けられなくなる依頼が出てきたり、NPCの対応が変わったり。まあ、ちょいちょい不都合が出てくるかな~。」


「なるほど……。」


 レベルが一気に10上がり、一万Gまで手に入る。


 その代償がCHAマイナス100。


(だからこんなに報酬が大きいのか……。)


「まあ、CHAが低い人じゃないと受けられない依頼もあるから、一概に下がるのが悪いってわけでもないんだけどね~。」


「そうなんですか……。」


 蓮の判断が一瞬揺らぐ。


 CHAが下がることにも、それなりのメリットはあるらしい。


「あー……あとね~。」


「はい?」


「【フリーウルフの心】をアイテムとか装備品に加工して身につけた状態で、あの子供たちに会いに行くと、たまに石とか草とかくれるよ~。」


「……石とか草?」


「うん。」


「…………。」


 蓮の脳裏に、ロイとノアの姿が浮かんだ。


(ってことは……。)


 加工したとしても、ゲーム上ではあの二人との約束を破ったことにはならないのだろう。


 フリーウルフの心から作ったものを身につけ、大切に使い続ける。


 それも一つの答えなのかもしれない。


 それでも――。


(やっぱり、なんか違うんだよな……。)


「じゃあ……仲間にした場合は?」


「仲間?」


 ポロンが少し考えるように視線を上へ向けた。


「確か……めっちゃ弱いフリーウルフが仲間になるんじゃなかったかな~。」


「弱い?」


「うん。めっちゃ弱い。」


「二回言った……。」


「大事なことだからね。二回言ったよ。」


 ポロンがなぜかドヤ顔で言ってくる。


「どのくらい弱いんです?」


「確かレベル1。」


「俺と同じじゃないですか。」


「いやいや。レベルだけじゃなくて、STRとかVITとかもオール1じゃなかったかな~。」


「えっ……。」


 蓮は思わず言葉を失った。


(俺より弱いのかよ……。)


「さらに~、プレイヤーと違って死んだら終わり。」


「……終わり?」


「うん。一度死んだらそのまま消滅。【フリーウルフの心】も戻ってこないよ。」


「…………。」


「だから普通は選ばないかな~。」


 ポロンはそう言って、何でもないことのようにコーヒーへ口をつけた。


(……確かに、普通なら選ばないよな。)


 二万Gで売れる。


 強力な装備品にも加工できる。


 倒せばレベルが一気に10上がり、一万Gまで手に入る。


 それに対して、仲間にすれば自分より弱いフリーウルフが一匹。


 しかも死なせれば、それで終わり。


 ゲームとして考えるなら、どれを選ぶべきかなど明らかな気がする。


「…………。」


 それでも、蓮の頭には二人の子供の顔が浮かんでいた。


『それなら、俺が育てるよ』


(……言っちゃったんだよなぁ。)


「ちなみに……そいつ、育てたらどうなるんです?」


「さあ?」


「え?」


「知らない。」


「知らないんですか?」


「だってそんなの育てるくらいなら、普通は加工するもん。」

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