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アセット・フロンティア・オンライン  作者: 床間信生


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第8話-初日から毒見役!?

『REN999様、メッセージが届いています。』


 ギルド二階で依頼主との連絡をお願いした後、蓮は他のカウンターを回りながら、展示されているアイテムを眺めていた。


 すると、不意にニールの声が響く。


「メッセージ?」


 周囲を見回してみると、視界の右上に見慣れない赤い印が浮かんでいることに気付いた。


「あった。これか……。」


 蓮は近くにあった長椅子へ腰を下ろし、赤い印を指でなぞる。


 すると目の前に半透明のウィンドウが展開され、一通のメッセージが表示された。


━━━━━━━━━━━━


【初めまして、REN999様。


 今回、同行者募集の依頼を出しました、ポロン5963と申します。


 依頼の詳細についてご説明させていただきたいので、ご都合のよい日時を教えていただけますでしょうか。】


━━━━━━━━━━━━


「連絡早いなぁ……。」


 ギルドでお願いしてから、それほど時間は経っていない。


 どうやら相手も現在ログインしているらしい。


「だったら、今でもいいか。」


 蓮は返信画面を開いた。


【初めまして。REN999です。

 こちらは今でしたら大丈夫です。】


 短く文章を打ち込み、送信する。


 すると――。


『ポロン5963様より通話申請が届いています。』


「……通話もできるのか。」


 蓮が【許可】を指でなぞる。


 すると次の瞬間、周囲の景色が一変した。


 先ほどまでいたギルドの姿が消え、視界一面が淡い水色に染まっていく。


「おお……。」


 どこかで見たような光景だ。


 キャラクター作成の際にニールと話した空間によく似ている。


 やがて蓮の正面に光の粒子が集まり、一人の女性が姿を現した。


 見た目は蓮と同じくらい――二十代前半といったところだろうか。


 すらりとした体つきに、ひときわ目を引く長い耳。


(エルフか。)


 種族選択の際に見た特徴と同じだ。


 おそらく彼女が――。


「どうもどうも、初めまして! ポロン5963です。よろしくね、REN999さん。」


「こちらこそ。よろしく、ポロン5963さん。」


 どうやら思っていたよりも話しやすそうな相手らしい。


「それで、早速なんだけど……。」


 ポロンはそう言って、蓮の方へ少し身を乗り出した。


「私の依頼に興味を持ってくれたってことでいいのかな?」


「はい。ただ、受ける前にいくつか聞いておきたいことがあって。」


「もちろん。そのための顔合わせだから、何でも聞いて。」


「自分、今日から始めたばかりなんですけど……それでも問題ないですか?」


「全然。まったく問題ないよ。」


 蓮の不安など気にもしていない様子で、ポロンはあっさりと答えた。


「そっか……。じゃあ、依頼書に『職業ランク昇格試練に挑戦』ってありましたけど、具体的には何をするんですか?」


「あー、やっぱりそこ気になるよねぇ。」


 ポロンは少し困ったように頬へ手を当てる。


「私が今、職業ランクⅡの調薬師っていうのは、依頼書に書いてあったと思うんだけど。」


「はい。」


「それで今度、職業ランクⅢの『合成師』になろうと思ってるの。」


「合成師?」


「うん。調薬師から派生する上位職の一つね。」


 さらりと出てきた言葉に、蓮は少し興味を引かれた。


 そういえばニールも、行動によって新しい職業が解放されると言っていた。


「それで、その昇格試練っていうのがね。」


 ポロンが人差し指を立てる。


「四人で『マッドサイエンティストの研究所』に行って、そこに置いてある五本の試験管から、当たりを一つ見つけるっていう試験なの。」


「マッドサイエンティストの研究所……。」


 妙に不穏な名前が引っ掛かる。


「当たりを見つけるって……五本のうち、当たりはいくつなんです?」


「一つ。」


「じゃあ、残りの四つは?」


「ハズレ。」


「ハズレを選ぶと?」


 ポロンは満面の笑みを浮かべた。


「全部、毒が入ってまーす。」


「…………毒?」


「しかも抵抗効果無視の即死毒でーす。」


「…………。」


 蓮の表情が固まった。


「研究所には四人で行くんだけどね。」


 ポロンは指を一本ずつ立てながら説明を続ける。


「一人ずつ順番に試験管の中身を飲んでもらって、誰かが当たりを引いたらその時点で試験終了。」


「……はい。」


「で、全員ハズレだったら一度戻って、もう一回最初からやり直し。」


「…………。」


「あっ、もちろんやり直す時の体力回復は私がちゃんと面倒見るから。そこは気にしなくて大丈夫だよ。」


 明らかに引いている蓮の表情などまるで気にしていない様子で、ポロンは笑顔のまま説明を続ける。


「いやいやいや。ちょっと待ってください。」


「ん?」


「俺、今日始めたばっかりって言いましたよね?」


「うん。」


「なんでそんな試験に初心者を連れて行こうとしてるんですか!?」


「え? だってRENさん――って、あー……。」


 ポロンが途中で言葉を止める。


「999まで付けるの面倒だから、RENさんでいいよね? 私のこともポロンでいいから。」


「えっ? ああ……はい。」


「よし。じゃあRENさん。」


 あまりにも自然に話を進められ、蓮もそのまま受け入れてしまう。


「この毒、抵抗効果を無視するんだよ?」


「……はい。」


「だったらレベルが高くても低くても同じでしょ? ハズレを飲んだら死ぬんだから。」


「…………。」


 言っていることは分かる。


 分かるのだが――どうにも納得したくない。


「いや、それならなおさら俺を連れて行く理由がないような……。」


「この試験ね、四人揃ってないと受けられないんだよ。」


 ポロンは心底面倒くさそうに肩を落とした。


「もう、それがほんっと面倒でさぁ……。」


(なるほど……。それでレベル不問なのか。)


 要するに、蓮に戦力として期待しているわけではない。


 試験を受けるために必要な四人目――言ってしまえば数合わせということらしい。


 それなら、今日始めたばかりの自分でも問題ないという話にも納得がいく。


「ちなみにRENさんって、今日からアセット・フロンティア・オンラインを始めたんだよね?」


「はい。そうですけど……。」


 突然話が変わり、蓮は首を傾げる。


「だったらさ。」


 ポロンはニッと笑った。


「報酬の『分かる範囲でのアドバイス』。聞きたいこと、いっぱいあるんじゃない?」


「ああ……。」


 そういえば、それも報酬に含まれていた。


「例えば何? 私に分かることなら答えるよ。」


「それなら――」


 蓮は真っ先に、一つのアイテムを思い浮かべた。


「『フリーウルフの心』っていうアイテムについて、何か知ってます?」


「…………。」


 それまで軽い調子で話していたポロンの表情が、わずかに変わった。


「RENさん、それ……どこで手に入れたの?」


「チュートリアルの追加報酬でもらいました。」


「へぇー。なるほどねぇ。」


 ポロンは納得したように何度か頷く。


「それでCHA15をクリアできたのね。」


「あー……まあ、はい。」


 蓮は少し曖昧に答えた。


「それで、そのアイテムが何なのか分からなくて。ギルドでも聞いてみたんですけど、詳しいことは分からないって言われて……。」


「なるほどね。」


 ポロンは少し考えるように顎へ指を当てた。


「じゃあ、ちょっとだけ先払いで教えてあげる。」


「先払い?」


「うん。その『フリーウルフの心』だけど――」


 ポロンは何でもないことのように言った。


「オークションだと、大体二万Gくらいで取引されてるアイテムかな。」


「…………。」


 蓮の思考が止まった。


「……ニマン?」


「うん。二万G。」


「二万って……二万G?」


「そうそう。」


 ゴブリン討伐なら四百回。


 一本百Gのポーションなら二百本。


 先ほど三百五十Gという値段に驚いた鉄の剣ですら、五十本以上買えてしまう。


 蓮の顔が一気にこわばった。


「人によっては、開拓クリスタルとの交換も視野に入れるくらいのアイテムなんだよ。」


「開拓クリスタル……。」


 そこでさらに、第2話でニールから聞いた言葉が出てきた。


「まあ、今教えられるのはこのくらいかな。」


 ポロンはニコッと笑う。


「ちなみに私なら、依頼達成の際には五万Gまでなら出してもいいかな~。」


「…………五万?」


 蓮の顔が引きつる。


 ポーション一本が100G。


 鉄の剣が350G。


 ついさっきまで、そんな金額に驚いていたはずなのだ。


 それがいきなり五万G。


(これ……絶対、ただのアイテムじゃないだろ。)


 むしろ今の話を聞いたことで、売るよりも『フリーウルフの心』が何なのかを知りたいという気持ちの方が強くなった。


 そして、その答えを知っていそうなのが目の前にいる。


 試験の内容には、とてつもなく不安が残るが――。


「……分かりました。」


「ん?」


「その依頼、受けます。」


「ほんと? ありがとー! これで四人揃った!」


 ポロンが嬉しそうに両手を合わせる。


「じゃあ、詳しい集合場所と時間はあとでメッセージ送るね。」


「はい。」


 こうして蓮は、ゲームを始めたその日に――


抵抗無視の即死毒を飲むかもしれない依頼へ参加することになった。

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