第7話-物価高っ!?
武器屋の男に教えられ、蓮は再び冒険者ギルドへ戻ってきた。
二階へ続く階段を上り、周囲を見渡す。
「ここが相談所か……。」
一階の賑やかな雰囲気とは違い、二階にはいくつかのカウンターが整然と並んでいた。
それぞれのカウンターには一人ずつ職員らしき人物が立っている。
「……どこに行けばいいんだ?」
初心者相談所が二階にあるとは聞いたものの、どのカウンターへ行けばいいのかまでは聞いていない。
少し迷った末、蓮は一番近くにいた女性へ声をかけることにした。
「あのー……すいません。」
「はい。どうされましたか?」
振り返った女性の頭には、猫を思わせる二つの耳が生えていた。
「おお……。」
蓮は思わず、その耳へ目を向ける。
人間ではない。
他のゲームなら、獣人や猫人族とでも呼ばれていそうな姿だった。
「あの、初心者セットをここでもらえるって聞いたんですけど……。」
「初心者セットですね。でしたら、こちらで承りますよ。」
「あ、ここでいいんですね。」
女性に促され、蓮はカウンターの前へ立った。
「はい。初心者セットはこちらになります。」
蓮がカウンターの前で待っていると、ほどなくして別の女性がいくつかの装備を抱えてやってきた。
木製の盾に一本の木刀。
それから、革製と思われる兜と鎧。
「あ……これですか。」
初心者セットという名前なのだから、それほど立派な装備ではないだろうとは思っていた。
だが、いざ現物を目の前にすると、蓮は少し不安になった。
先ほど武器屋で見た鉄の剣とは、どう見ても格が違う。
「はい。こちらが新規冒険者の方へ支給される基本装備一式となります。」
猫耳の女性は笑顔で答えた。
「木刀に……木の盾。それと革の鎧と兜ですか。」
「はい。性能は最低限となりますが、街の周辺で活動される分には問題ございません。」
「最低限……。」
その言葉が妙に引っ掛かる。
蓮は木刀を手に取ってみた。
すると、目の前に装備情報が表示される。
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【初心者の木刀】
攻撃+3
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「……さっきの鉄の剣、プラス10だったよな。」
無料なのだから文句を言う筋合いではない。
ないのだが――。
「ゴブリン、本当にこれで倒せるのか……?」
「皆様、こちらの装備から冒険を始めていらっしゃいますので、大丈夫ですよ。」
女性は変わらぬ笑顔でそう答えた。
「ほかに何かご用はございますか?」
悪気など一切ないのだろう。
その笑顔が、今の蓮には少しまぶしい。
「あ~……はい。実は『フリーウルフの心』っていうアイテムを手に入れたんですけど……。」
おそらくNPCであろう彼女に初心者装備への不満を言っても仕方がない。
蓮は気を取り直し、もう一つ聞きたかったことを尋ねた。
「フリーウルフの心、ですね。」
「何に使うアイテムなのか分かります?」
「申し訳ございません。こちらでは詳細な鑑定を行うことができません。」
「ああ、やっぱり……。」
「ですが、REN999様でしたら、こちらの依頼をおすすめできます。」
「依頼?」
女性が一枚の紙を差し出してくる。
蓮が受け取ると、その表面に文字が浮かび上がった。
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【同行者募集】
依頼者:???
職業:調薬師
職業ランク:Ⅱ
依頼内容:
職業ランク昇格試練に挑戦するため、同行者を一名募集します。
レベルは問いません。
報酬:
・ポーション×10
・依頼者が回答可能な範囲での情報提供
参加条件:
・CHA 15以上
・秘密依頼に同意できる方
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「……え?」
蓮は依頼書と女性を交互に見る。
「これ、どういうことですか?」
「こちらは、別の冒険者様がギルドを通して出された依頼になります。」
「別の冒険者……。」
一瞬考えて、その意味に気付く。
(ってことは……プレイヤーか?)
蓮はもう一度依頼書を見る。
(プレイヤーが、ギルドを通して他のプレイヤーに依頼を出せるのか……。)
「ちなみにですけど……。」
蓮は依頼書に書かれた報酬へ目を落とした。
「ポーションって、どのくらいの価値なんですか?」
「ポーションでしたら――」
女性は少し離れた場所を指差した。
「あちらの販売所で、一つ百Gほどで販売されていますよ。」
「…………。」
あまりにも当然のように返ってきた答えに、蓮は言葉を失った。
(百G……?)
自分の所持金は六十G。
つまり今の蓮には、ポーション一つすら買えない。
蓮はもう一度、依頼書を見る。
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【同行者募集】
依頼者:???
職業:調薬師
職業ランク:Ⅱ
依頼内容:
職業ランク昇格試練に挑戦するため、同行者を一名募集します。
レベル不問。
報酬:
・ポーション×3
・分かる範囲での情報提供
参加条件:
・CHA 15以上
・秘密依頼に同意できる方
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(三個ってことは……三百G相当?)
先ほど武器屋で見た鉄の剣が三百五十G。
この依頼を一回こなすだけで、それに近い価値の報酬が手に入ることになる。
「……これ、結構いい依頼なんじゃないか?」
三個で三百G相当。
先ほど見た鉄の剣が三百五十Gだったことを考えれば、初心者の蓮にとっては十分すぎる報酬だ。
「ちなみにですけど……ポーションって、どのくらい回復するんですか?」
「はい。通常のポーションでしたら、HPを50回復します。」
「五十……。」
驚く蓮とは対照的に、女性はさも当然のことのように答える。
蓮のHPは現在100。
つまり一本で半分を回復できる計算だ。
確かに便利ではある。
便利ではあるのだが――。
(一本百Gだろ……?)
初めての依頼でもらった報酬が10G。
ゴブリン討伐ですら50G。
鉄の剣は350G。
そしてポーション一本が100G。
このゲームって、めちゃくちゃ物価高くないか?)
とはいえ、今の蓮にとってポーション三本はかなり魅力的な報酬だ。
それに、依頼主は職業ランクⅡの調薬師。
もしかすると、『フリーウルフの心』について何か知っているかもしれない。
少なくとも、話を聞いてみる価値はありそうだった。
「あの、この依頼なんですけど……。」
「はい。」
「受けるかどうか決める前に、依頼主の人から詳しい話を聞くことってできます?」
「もちろん可能ですよ。」
「じゃあ、お願いします。」
「かしこまりました。それでは依頼主様へ連絡いたしますね。」
女性が依頼書へ手をかざすと、表面に淡い光が走った。
こうして蓮は、アセット・フロンティア・オンラインで初めて、他のプレイヤーが出した依頼に関わることになった。




