第87話-取らぬ狸の皮はあてにできない
「【クリスタル(原石)】は、入手するとクランの方に強制的に取り上げられちゃうんですよね……」
「強制的に取り上げられる……?」
蓮はその言葉がいまいち理解できず、ホウキ星の言ったことをそのまま繰り返した。
「はい。自分のアイテムとしては入手できずに、そのままクランの方に徴収されてしまうんです」
(……そういえば……)
蓮は以前、【守りの盾】を手に入れる際にモルスと結んだ【契約装備】のことを思い出した。
あのとき、蓮には【守りの盾】を購入するだけのGが明らかに足りなかった。
そこで、代金の代わりに今後獲得するGの一割をモルスへ渡すという契約を結び、【守りの盾】を手に入れたのだ。
今回の仕組みがそれと同じなのかは分からない。
だが、ホウキ星と所属クランの間にも、それに近い契約が交わされているのではないかと蓮は考えた。
「あー……なるほど。俺も前に似たような経験があるので、何となくは分かります。それで、その取り上げられた【クリスタル(原石)】を、どうやって今回の報酬にするんですか?」
「それに関しては、原石がクランに徴収される際に、僕の方にも報酬としてGが支払われるんです。その中からRENさんにお渡しできればと思っているんですが……」
「ちなみに、ホウキ星さんはクランからどのくらい貰えるんですか?」
「えーっと……三千Gくらいですね……」
(……三千Gか……)
蓮は頭の中で計算を始めた。
(……確か、二百回くらい戦って一個だったって言ってたよな……)
仮に二百回に一個という割合で原石を入手できるなら、三千Gを二百回で割って、一戦あたりの期待額は十五Gほどになる。
もちろん、これはストーンゴーレムでのホウキ星の経験をもとにした計算であり、ブロンズゴーレムでも同じ割合で手に入るとは限らない。
それでも、報酬を判断するための一つの目安にはなる。
通常、モンスターを討伐すれば経験値や魔石も手に入る。
蓮はそれを、自分がランクⅠの頃に戦っていたゴブリンに置き換えて考えた。
ゴブリンを一体討伐すると、経験値は10EXP。
さらに魔石が一個手に入り、それをギルドへ持ち込めば五十Gほどで交換してもらえた。
だが、ここまでのホウキ星の話を整理する限り、ブロンズゴーレムの魔石を蓮への報酬にするという話は出ていない。
つまり、現時点で提示されている報酬は、あくまで【クリスタル(原石)】が手に入った場合に支払われるGの一部だけということになる。
しかも、その三千Gをホウキ星と分けるのであれば、蓮が受け取れる金額はさらに少なくなる。
仮に折半したとしても、一戦あたりの期待額は七・五Gほどだ。
そして、その金額ですら原石が手に入ることを前提とした計算である。
運が悪ければ、何度戦っても原石が手に入らず、報酬はゼロという可能性も十分にある。
(……ん~……割に合わないな……)
蓮は内心、難色を示していた。
ただ、ここで簡単に話を断ることもできなかった。
これまで蓮にとって謎のままだった【開発クリスタル】というアイテムが、思いがけない形で話題に上がっているのだ。
報酬としての魅力は薄い。
しかし、ホウキ星が持っている情報には、まだ何か価値があるかもしれない。
そんなことを考えていた蓮だったが、ふと、あることに気づいた。
「……ホウキ星さんって、確かランクⅠのレベル10なんですよね?」
「はい、そうですけど……。それが何かありました?」
ホウキ星は不思議そうな表情を浮かべた。
「いや、さっき【クリスタル(原石)】を手に入れたのは一回だけって言ってましたよね? それと、ストーンゴーレムを二百回くらい倒したとも……」
「はい……」
「多分、ホウキ星さんが普通に戦えるモンスターってことは、ストーンゴーレムもランクⅠのモンスターだと思うんですけど……」
蓮は少し考えてから、言葉を続けた。
「ストーンゴーレムって、そんなに経験値が多いモンスターなんですか? 俺はランクⅠの頃、ゴブリンを八百回以上倒して、ようやくレベル10になったんですけど……」
蓮は、自分がランクⅠだった頃のことを思い返していた。
休日には一日中ゴブリンに戦闘を仕掛け、何度も何度も討伐を繰り返した。
そうしてようやくレベル10に到達したのは、つい最近のことである。
もちろん、ストーンゴーレムがゴブリンよりも多くの経験値を持っている可能性はある。
あるいは、ホウキ星が別の場所でレベル上げをしていたのかもしれない。
もしそうなら、それはそれで構わなかった。
むしろ、蓮の知らないモンスターや狩場について、新たな情報を聞き出せるかもしれない。
(……さて、どうなんだろうな……)
蓮はそんな期待を抱きながら、ホウキ星の返事を待った。
だが、ホウキ星は何も答えなかった。
「……ホウキ星さん?」
蓮が呼びかけても、返事はない。
先ほどまで説明を続けていたホウキ星は、なぜか黙り込んでしまっていた。
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