第85話-蓮、笑中に刀を感じる
蓮としては、ホウキ星からの依頼を正式に受けるかどうか、まだ決めていなかった。
ただ、ブロンズゴーレムの強さについては興味がある。
そのため、一度ホウキ星とパーティを組み、実際にブロンズゴーレムと戦ってみることは考えていた。
しかし、そうなると一つ問題が出てくる。
ティグリスの存在である。
(……一緒に戦うことになったら、どのみちティグリスのことは知られるよな……)
そう考えると、今のうちに説明しておいた方が話は早いのかもしれない。
だが、下手に話を始めてしまうと、余計なことまで口にしてしまいそうな気もする。
何しろ、ティグリスとの出会いはユニークイベントによるものだった。
このゲームにおいて、情報は武器である。
そのことは、これまでにポロンやオリバから何度も聞かされてきた。
加えて、以前ホウキ星のことをポロンに相談した際、彼女の反応には少し引っかかるものがあった。
はっきりと怪しいと言われたわけではない。
それでも、何となく警戒しているようなニュアンスを感じ取っていたのである。
(……うーん。どこまで話したものかな……)
蓮がそんなことを考えていると、ホウキ星が再び口を開いた。
「RENさん、それでブロンズゴーレムのことなんですけど……どうですか? 準備が少し違う方向に進んだとおっしゃっていましたが、ある程度できているのであれば、試しに一度……」
「そうですね。確かに、今の段階でできる準備はほぼ終わっていると思います。なので、行けるかと言われれば行けますけど……」
「けど……なんですか?」
ホウキ星は、どうやらかなり乗り気のようだった。
露骨に急かしてくるわけではないものの、言葉の端々から早くブロンズゴーレムに挑戦したいという気持ちが伝わってくる。
(……ティグリスのことを話す前に、確認しておきたいことがあるんだよな……)
蓮は少し考えた。
別に、ホウキ星が信用できないと決めつけているわけではない。
ただ、今回の依頼については、まだ曖昧な部分が残っている。
(……せめて、報酬のことくらいははっきりさせておきたいよな……)
そう考えた蓮は、少し言いにくそうにしながらも口を開いた。
「ただ……そうですね。この前のお話では具体的に決まらなかった報酬のことなんですけど……。ちょっと考えてみて、やっぱり何とかならないかなと思いまして……」
「あー……やっぱりですか……。そうですね……」
ホウキ星は少し困ったような声を出した。
以前、二人がブロンズゴーレムの討伐について話し合った際、報酬についても一応の確認はしていた。
しかし、そのときホウキ星には、依頼の対価として十分な報酬を用意できるだけの余裕がなかった。
そのため、後日何か協力できることがあれば手伝うという話になり、具体的な報酬は決まらないままだったのである。
最初にその話を聞いたとき、蓮はそれでも構わないと思っていた。
だが、後からよくよく考えてみると、少し気になることがあった。
(……依頼が終わった後も、ホウキ星さんが俺と連絡を取り続けてくれる保証なんてないんだよな……)
もちろん、ホウキ星が約束を破ると決まったわけではない。
しかし、討伐が終わった後で連絡が取れなくなってしまえば、蓮としてはどうすることもできない。
何しろ、相手はゲーム内で知り合ったPLAYERなのだ。
現実世界での素性を知っているわけでもなければ、何か担保を預かっているわけでもない。
(……やっぱり、口約束だけっていうのは少し不安だよな……)
蓮はそう考えながら、改めて自分の考えを伝えることにした。
「俺としても、ブロンズゴーレムと戦うことで経験値が稼げるっていうメリットがあるのは分かるんですよ」
「はい」
「ただ、そのメリットだけだと、正直な話、ホウキ星さんからの協力要請を受けるより、単独でギルドの討伐依頼を受けた方がいいんじゃないかと思うんですよね」
「……なるほど」
「そっちなら経験値だけじゃなくて魔石ももらえますからね。なので、正直なところ、ちょっと迷ってるんですよ」
蓮はなるべく角が立たないように説明した。
ホウキ星と協力すること自体が嫌なわけではない。
ただ、同じブロンズゴーレムと戦うのであれば、少しでも自分にとってメリットのある方法を選びたい。
それだけの話だった。
「確かにそうですよね。それについては、こちらとしても申し訳ないとは思っているんですが……」
ホウキ星はそう答えると、少し言葉を濁した。
(……申し訳ないとは思ってる、か……)
蓮はその返答を聞いて、少し考え込んだ。
少なくとも、現時点で具体的な報酬を提示できる様子ではなさそうだ。
(……やっぱり、今回も報酬については曖昧なままなのかな……)
ホウキ星の反応は、ある程度予想していたとおりのものだった。
もともと報酬を用意できないと言っていたのだから、今さら急にまとまったGが出てくるとも思えない。
(……それなら、無理に依頼を受ける必要もないよな……)
ブロンズゴーレムの強さには興味がある。
だが、それだけならギルドの討伐依頼を受けるという選択肢もあるのだ。
何より、ティグリスという新たな戦力について、必要以上に情報を明かすことは避けたかった。
(……まあ、今回は断っておくか……)
蓮はそう判断すると、ホウキ星に断りを入れることにした。
「それであれば……」
「あっ、ちょっと待ってください、RENさん!」
蓮が言い終えるよりも早く、ホウキ星が声を上げた。
「はい? どうしました?」
「確かに、今の僕にはまとまったGを報酬として用意することはできません。ですが……」
「ですが?」
「別の形であれば、RENさんにもメリットのある条件を提示できるかもしれません」
「……別の形、ですか?」
蓮は思わず聞き返した。
「はい。実は、最初にお話ししたときから、一つ考えていたことがありまして……」
(……考えていたこと?)
蓮は少し首を傾げた。
それならば、なぜ最初からその話をしなかったのだろうか。
もっとも、ホウキ星にも何か事情があるのかもしれない。
そう考えた蓮は、ひとまず話を聞いてみることにした。
「それで、その条件というのは……?」
蓮が尋ねると、ホウキ星は少し間を置いてから答えた。
「実はですね……」
そして、ホウキ星が口にしたのは、蓮にとって思いもよらない提案だった。
面白いと思っていただけましたら、評価・ブックマークいただけると励みになります。




