第80話-逃がした魚は大きい、かもしれない…
ポロンとのチャットを終えた蓮は、すぐには孤児院での話し合いに戻らなかった。
(……そういえば、NPCを仲間にした場合の扱いってどうなるんだ?)
ポロンの話を聞いて、ティグリスを引き受ける方向に気持ちは傾いている。
しかし、NPCを仲間にするのは初めてのことである。
分からないことをそのままにしておくのも不安だったため、蓮はコマンド画面を開いて調べ始めた。
(……こういうのって、どこかに説明があるんじゃないのか?)
いくつかの項目を確認していると、【よくある質問】という項目が目に入った。
(……おっ、これか?)
早速開いてみると、ゲームの基本的な仕様について、さまざまな説明が並んでいる。
蓮はその中からNPCに関する記述を探し、ようやく目当ての項目を見つけ出した。
そこには、NPCがPLAYERのパーティに加入した場合の扱いについて説明されていた。
なんでも、特定の条件を満たしてパーティに加入したNPCは、基本的にPLAYERと同等の扱いを受けるらしい。
ただし、PLAYERがシステム上の戦闘命令を与えたり、任意のアイテムを持たせたりすることはできないという。
(……なるほど。召喚モンスターみたいに自由に指示できるわけじゃないんだな)
さらに読み進めると、蓮が気になっていた死亡時の扱いについても記載されていた。
パーティに加入したNPCは、戦闘などで死亡した場合でも、PLAYERと同様に復活することが可能らしい。
また、NPCの死亡によって同行イベントが終了することはなく、復活後も所定の条件を満たすまでイベントは継続されるという。
(……おお、そうなのか。それなら、もしものことがあっても大丈夫そうだな)
蓮はひとまず胸をなで下ろした。
ティグリスはモンスターとの戦闘経験がないと言っていた。
そんな相手を冒険に連れていく以上、万が一のことは考えておかなければならない。
もちろん、復活できるからといって、危険な目に遭わせても構わないというわけではない。
それでも、死亡したら二度と会えなくなるという事態を心配しなくてよいのは、蓮にとって大きな安心材料だった。
(……ん? ちょっと待てよ?)
そこで蓮は、もう一度説明文へと目を向けた。
死亡してもイベントは終了せず、条件を満たすまで継続する。
(……ってことは、ティグリスが100万G稼ぐまでは、本当にずっと一緒ってことか?)
もちろん、100万Gという金額が正式なイベントの達成条件なのかは分からない。
だが、ティグリス自身がその金額を目標にしている以上、無関係とも思えなかった。
ポロンが言っていた貧乏神という言葉が、再び頭をよぎる。
(……いやいや、復活できるのはありがたいけどさ。100万Gの方は何も解決してないじゃないか……)
思わずため息が漏れそうになった。
とはいえ、ゲームの仕様が分かったことで、少なくとも先ほどまで抱えていた不安の一つは解消された。
あとは、ティグリス本人と話をするだけだ。
(……まあ、ここまで来たら仕方ないか)
蓮はコマンド画面を閉じると、改めてカールとティグリスの方へ向き直った。
「……お待たせしました。ちょっと確認したいことがあったもので」
「いえいえ、全然待ってませんよ。今までの方たちの中には、目の前からいきなりパッといなくなってしまう人もいましたからね。それに比べたら……」
カールはそう言って、苦笑いを浮かべた。
(……それって、コマンド画面から強制ログアウトしたり、クランに戻ったりしたPLAYERもいるってことかな……)
確かに、ゲームなのだから、面倒なことに巻き込まれそうになったら、その場から立ち去るという選択肢もあるだろう。
「それで、お兄さんは俺のことを仲間に入れてくれるのか?」
そんなことを考えていると、ティグリスが改めて問いかけてきた。
蓮の頭に、一瞬だけ逃げるという選択肢がよぎる。
(……正直、俺もそうした方が楽なんじゃないか?)
ティグリスを仲間にすれば、これから何かと面倒を見ることになるかもしれない。
しかも、目標は100万Gである。
自分自身の金策すらどうするか決まっていないというのに、他人の金策まで考えなければならないとなれば、気が重くなるのも無理はなかった。
しかし、そこでポロンの言葉を思い出した。
ユニークイベントは、一見するとデメリットがあるように思えても、最終的にはプラスになることが多いらしい。
(……まあ、ポロンさんも絶対とは言ってなかったけどな)
それでも、あのポロンがそう言うのだから、何かしらの意味はあるのだろう。
それに、蓮にはもう一つ気になっていることがあった。
【ユニーク】という言葉である。
ポロンの説明によれば、ユニークイベントはすべてのPLAYERに平等に発生するものではないらしい。
特定の条件を満たした場合に発生するという話だったが、その条件が何なのかは分かっていない。
(……ってことは、ここで逃げたら、次に来たときも同じイベントが発生するとは限らないよな)
そもそも、再びこの孤児院を訪れたところで、ティグリスから同じ申し出を受けられる保証もない。
そう考えると、せっかく巡ってきた機会を、何もせずに手放してしまうのは惜しい気もする。
(……でも、100万Gかぁ……)
蓮は改めてティグリスの顔を見た。
自分の返答を待つその様子からは、孤児院のために金を稼ぎたいという気持ちが伝わってくる。
(……さて、どうしたもんかな)
そうして蓮が考えを巡らせていると、不意に目の前へシステムメッセージが表示された。
【ティグリスを仲間にしますか?】
【YES/NO】




