第76話-人は知らないものを恐れる
「それで、カールさん。俺をここに連れてきた目的って何でしょうか? 別に、話を聞かせるためだけってことではないですよね?」
これ以上、カールの身の上話に付き合っているわけにもいかない。
そう考えた蓮は、思い切って本題を切り出すことにした。
正直なところ、何となく嫌な予感はしている。
しかし、いつまでもここにいるわけにはいかないのだ。
「はい。実は先ほども申し上げた通り、この子供たちを養うにもお金がかかるものでして……。もしREN999様がよろしければ、寄付をお願いできないかと思いまして……」
(はい、キター!! 来ましたよ~!)
蓮は心の中で思わず叫んだ。
(……やっぱり、こういうことじゃないかと思ってたんだよね)
どうやら、嫌な予感は見事に的中したらしい。
突然タックルを仕掛けられ、気づけば孤児院に案内され、延々と身の上話を聞かされていたのである。
ここまでくれば、ある程度は予想できた話だった。
とはいえ、だからといって簡単に寄付をするわけにもいかない。
「あの、さっきの話では、神殿や一部の権力者からの援助で何とかやっているって言ってませんでした?」
「はい、申し上げました。ですが……最近では子供たちの数も増えてしまいまして……」
カールはそう言いながら、周囲にいる子供たちを自分のそばへと集めた。
どうやら、最初は身寄りのない子供を一人引き取るだけのつもりだったらしい。
しかし、時間が経つにつれて一人、また一人と増えていき、今では二十人近い亜人の子供たちと暮らしているのだという。
(……いや、それは大変だろうけどさ)
身寄りのない子供たちを引き取り、面倒を見る。
その心がけ自体は立派なものだと思う。
しかも、それをほぼ一人で続けているのだから、なおさらだ。
ただ、蓮にはどうしても納得できない部分があった。
一つは、先ほどから気になっている金策の問題である。
神殿や一部の権力者からの援助に頼っているだけでは、子供たちが増えれば増えるほど生活が苦しくなっていくのは当然だろう。
そして、もう一つ。
それは、子供たちの預け先についてだった。
「あのー……カールさん。この子供たちって、神殿が運営している孤児院に預けることはできないんですか?」
そもそも、この孤児院は【白の神殿】の敷地内に建っているものの、神殿が直接運営しているわけではない。
カール個人が運営している施設である。
一方、神殿の裏側には、神殿が直接運営している別の孤児院があるという。
しかし、どちらも孤児院であることに変わりはないはずだ。
(……だったら、わざわざ別々にする必要ってあるのか?)
もちろん、何か事情があるのかもしれない。
だが、少なくとも蓮には、その理由が分からなかった。
子供たちの生活を支えることが目的なら、神殿が運営している孤児院に預けた方が、カールの負担も減るのではないだろうか。
そんな疑問から尋ねてみたのだが、返ってきた答えは蓮の予想していなかったものだった。
「はい……。ですが、あちらの孤児院は、人間・エルフ・ドワーフの三種族しか受け入れてくれないんです……。この子たちは亜人、もしくは亜人の血が入っている子たちばかりでして……」
「……え?」
思わず、蓮は聞き返した。
それまでとは打って変わり、カールの声が沈んでいた。
先ほどまでのどこか調子のよい話し方とは、明らかに違っていた。
(……人間、エルフ、ドワーフ……?)
その三種族を聞いたところで、蓮はこのゲームを始めたばかりの頃を思い出した。
AFOでは、ゲーム開始時に人間・エルフ・ドワーフの三種族から、自分がプレイする種族を選択することになっている。
(……そういえば、亜人なんて選択肢はなかったなぁ……)
もちろん、これまで亜人を見かけたことがなかったわけではない。
最初に見かけたのは、確かギルドの二階だったはずだ。
その後も、街のあちこちで見かけたような気がする。
しかし、どこで誰を見たのかと聞かれると、はっきりとは思い出せない。
そもそも、ここはゲームの世界である。
現実には存在しない種族がいたとしても、別に不思議なことではない。
そんな感覚で、これまでは特に気に留めていなかったのだ。
(……でも、何でPLAYERは三種族しか選べないんだ?)
改めて考えてみると、少し不思議な話である。
「……どうかしましたか?」
「あっ……いえっ。何でもないです」
考え込んでいた蓮を不思議に思ったのか、カールが顔を覗き込んできた。
蓮は慌てて曖昧な返事をする。
ゲーム開始時の種族選択について説明したところで、カールに理解してもらえるとは思えなかったからだ。
それよりも、今は目の前の疑問を解消する方が先だろう。
「あの、そもそも亜人って何なんですか?」
「亜人、ですか……。そうですね。亜人の起源については諸説ありますが、実際のところはよく分かっていません。ただ、動物などの特徴を持ち、その能力を備えている者もいる種族だということは知られています」
「へぇ……」
蓮はカールの説明を聞きながら、周囲にいる子供たちへと視線を向けた。
確かに、よく見れば人間とは少し違う特徴を持つ子供たちがいる。
しかし、だからといって、それほど大きな違いがあるようにも思えなかった。
「でも、見た目や能力の違いって、そんなに重要なことなんですか?」
「……と、言いますと?」
「いや、俺やカールさんだってスキルを使えますよね? それだって、ある意味では特殊能力みたいなものだと思うんですけど……」
蓮は、カールと出会ったときのことを思い出した。
右側から声が聞こえたと思ったら、左側から突然タックルを受けたのである。
あれも、カールのスキルによるものだったはずだ。
(……まあ、あんな使い方をするのはどうかと思うけどさ)
それはともかく、スキルによって特殊な能力を発揮できるという点では、PLAYERも亜人も大して変わらないのではないだろうか。
少なくとも、蓮にはそう思えた。
しかし、そんな蓮の疑問に対して、カールは少し困ったような表情を浮かべた。
「いや、まあ……確かにそうなんですけどね……」
「……?」
「ただ、ここにいる子供たちは、亜人は亜人でも、少し事情が違うんですよ……」
「事情?」
カールは周囲の子供たちへと目を向けると、少し言いにくそうに口を開いた。
「……モンスターの亜人なんです」
「えっ……」
モンスターの亜人。
聞き慣れないその言葉に、蓮は思わず言葉を失った。




