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アセット・フロンティア・オンライン  作者: 床間信生
第1章【砂に黄金、泥に蓮】

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第75話-行きがけの駄賃とはいかない

猫のような姿をした人間。


彼の名前はカールというらしい。


もっとも、猫のような姿といっても、実際には猫耳と尻尾のアクセサリーを身につけているだけの、ごく普通の人間だった。


突然襲われた蓮は、てっきり猫の亜人なのだろうと思っていた。


しかし、起き上がったカールの頭から猫耳が思いっきり外れてしまったのである。


それを見た蓮が思わず問いただしたところ、本人はあっさりとアクセサリーだと認めたのだった。


(……いや、紛らわしいだろ、それ)


ちなみに、襲われる直前に右側から声が聞こえたにもかかわらず、左側からタックルを受けた理由についても説明を受けた。


どうやら、あれはカールのスキルによるものだったらしい。


それを聞いた蓮は、思わず怒鳴りつけそうになった。


(……人に向かって使うようなスキルなのか、それ?)


もっとも、今さら文句を言ったところで、地面に叩きつけられた事実が変わるわけでもない。


そんな一連の出来事について説明を受けた蓮は、現在、神殿の横にある木造の建物の中にいた。


ここは一応、【白の神殿】の敷地内にある孤児院ということになっている。


しかし、カールの話を聞いてみると、どうやら事情は少し違うらしい。


というのも、この孤児院は神殿が直接運営している施設ではなく、カール個人が開設したものなのだという。


話は、【白の神殿】が建てられてから少したった頃にさかのぼる。


当時、この街にやってきたばかりのカールは、偶然、身寄りのない亜人の子供と知り合った。


その子供を何とか育ててやりたいと思ったものの、街に来たばかりのカールには頼れる相手もおらず、どうすればよいのか分からなかったらしい。


そこで、思い切って【白の神殿】を頼ることにした。


すると、神殿側から思いがけない提案を受けたのだという。


【白の神殿】で洗礼を受け、白の教えの使徒となるのであれば、神殿の敷地を無償で貸し与えるという話だった。


カールはその条件を受け入れ、こうして孤児院を開設することになったらしい。


つまり、今いるこの建物は、神殿の敷地内に建ってはいるものの、運営しているのはカール個人ということになる。


ちなみに、神殿が直接運営している孤児院は、神殿の裏側に別途存在しているらしい。


(……あれ?)


そこまで話を聞いたところで、蓮はふと気づいた。


(……これ、俺の目的と全然関係なくないか?)


そもそも、今回蓮が【白の神殿】を訪れた目的は、孤児院の事情を調べることではない。


神殿が運営する孤児院に寄付を行い、【ホワイトピジョンの心】を購入できるようになることが目的なのだ。


ポロンの話では、累計十万Gを寄付することで、神殿から特定のアイテムやスキルを購入する資格が得られるという。


そのために、わざわざここまで足を運んできたのである。


ところが、気づけば神殿とは別に運営されている孤児院で、初対面の男の身の上話を聞かされている。


(……いや、どうしてこうなった?)


原因を考えるまでもない。


突然タックルを仕掛けてきた、目の前の男のせいである。


蓮としては、できることなら早々に話を切り上げ、本来の目的を果たしに行きたいところだった。


しかし、そう簡単にはいかない事情があった。


というのも、今いる建物の中には、蓮とカール以外にも大勢の子供たちがいたのだ。


しかも、そのほとんどが亜人の子供たちである。


子供たちは二人を取り囲むように集まり、興味津々といった様子で話を聞いていた。


(……帰りづらいな、これ)


本来であれば、「それじゃあ、話はここまでで」と切り上げれば済む話である。


しかし、これだけの子供たちを前にして、いきなり席を立つというのも何となく気が引ける。


別に悪いことをしているわけではないのだが、どうにも薄情な人間になったような気がしてしまうのだ。


結果として、蓮はカールの話をだらだらと聞き続けることになっていた。


もっとも、ただ話を聞いているだけというのも何なので、蓮は一つ気になったことを尋ねてみた。


この孤児院は、普段どうやって運営しているのかということである。


ところが、その答えは蓮にとって、どうにも納得のいかないものだった。


どうやら、日々の生活は神殿からの配給と、一部の権力者からの援助によって成り立っているらしい。


それ自体は別に悪いことではない。


問題は、それ以外に安定して食料や資金を確保する手段が、ほとんど見当たらなかったことである。


例えば、自分たちで畑を耕して作物を育てたり、街の外へ出て何かを採取したりといったことは、ほとんど行っていないらしい。


(……いや、それで大丈夫なのか?)


もちろん、孤児院を運営している大人は、基本的にカール一人なのだという。


大勢の子供たちの面倒を見ながら、毎日の生活を支えているだけでも十分に立派なことだろう。


恐らく、休む暇もほとんどないのではないだろうか。


その点については、蓮も素直に感心していた。


しかし、それとこれとは別の話である。


神殿や誰かからの配給に頼り続けているだけでは、何かの事情で援助が途絶えたとき、たちまち生活が立ち行かなくなってしまう。


それに、今のやり方を続けているだけでは、孤児院の暮らしが今より良くなるとも限らない。


無論、カールにも何か事情があるのかもしれない。


子供たちを抱えながら畑仕事や採取をすることが、簡単ではないのも理解できる。


それでも、蓮にはどうしても引っかかるものがあった。


(……このままで、本当にいいのか?)


目の前のカールと、その周囲に集まっている亜人の子供たちを眺めながら、蓮はそんな疑問を抱くのだった。

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