第74話-猫と庄屋にトラぬはない
ポロンとの話し合いを終え、オークションで【ホワイトピジョン】の情報を確認した翌日。
蓮は【白の神殿】を目指して歩いていた。
事前に聞いていた大まかな位置を頼りに向かっているのは、以前、マルタという女性から依頼を受けた場所とは正反対の方向だった。
「あー……あそこかぁ」
しばらく歩いていると、前方に大きな建物が見えてきた。
小高い丘の上にそびえ立つ、白い石造りの神殿。
遠くからでも目を引くその姿はどこか神々しく、いかにも神殿といった雰囲気を漂わせている。
(……土砂降りの翌日とか、掃除する人は大変そうだな)
そんな少し場違いな感想を抱きながら、蓮は神殿へと近づいていく。
丘の上へと続く長い石階段を上っていくと、やがて大きな木製の門が見えてきた。
どうやら、そこが神殿の敷地へと続く入口らしい。
門には花や木々をかたどった彫刻が施されており、遠目からでも随分と立派な造りであることが分かる。
(……これ、本当に寄付が必要なのか?)
少なくとも、外から見た限りでは、とても寄付を必要としているようには思えなかった。
そんなことを考えながら石階段を上りきった蓮は、大きく重厚感のある木製の門の前に立った。
「……さて、どうやって入ればいいんだ?」
蓮は周囲を軽く見渡してみる。
普段、自分が暮らしている現実世界であれば、こういった場所にはインターホンなどが設置されているものだ。
それを押せば、中にいる人が対応してくれる。
しかし、目の前の門には、それらしいものが見当たらなかった。
(……これ、叩けばいいのか?)
とはいえ、目の前にあるのは随分と立派な木製の門だ。
下手に叩くのも気が引ける。
どうしたものかと考えた蓮は、とりあえず片手を伸ばして、軽く門を押してみた。
すると、
(……あれ? これ動くぞ……)
意外にも、門はあっさりと動いた。
見た目からして相当な重量がありそうだったので、少しくらい押したところでびくともしないと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
(……物理法則とか関係ないのか?)
もっとも、ここはゲームの世界だ。
現実世界と同じように考える必要もないのだろう。
そう自分に言い聞かせた蓮は、門を開けて敷地内へと足を踏み入れた。
そして、ふと違和感を覚える。
「……ん?」
目の前には、先ほどから見えていた白い石造りの神殿がそびえ立っている。
近くで見ると、その立派さが一層際立っていた。
遠くからでも目を引くほどの建物なのだから、観光目的で訪れたPLAYERが足を止めて眺めていたとしても不思議ではない。
しかし、蓮が気になったのは、その神殿ではなかった。
神殿の横に、もう一つ建物があったのだ。
それも、神殿とはあまりにも対照的な建物だった。
「……なんだ、あれ?」
そちらは一目で木造だと分かる建物で、外壁のあちこちが色あせていた。
窓枠も若干歪んでいるように見え、随分と年季が入っていることがうかがえる。
幸い、壁に大きなひびが入っていたり、穴が開いていたりするわけではない。
今にも崩れそうなほど古びているというわけでもなかった。
ただ、問題はその建物が建っている場所である。
何しろ、すぐ隣には壮麗という言葉がふさわしい、白い石造りの神殿がそびえ立っているのだ。
そのため、二つの建物の違いが余計に際立って見える。
(……いや、これはいくらなんでも……)
蓮は思わず苦笑いを浮かべた。
恐らく、あちらがポロンの話していた孤児院なのだろう。
先ほどまでは、これほど立派な神殿に本当に寄付が必要なのかと疑問に思っていた。
しかし、実際に敷地内へ入ってみると、どうやら事情は少し違うらしい。
(……なるほど。寄付が必要なのは、こっちなのかもしれないな)
もちろん、建物の外観だけで判断できるものではない。
それでも、あまりにも対照的な二つの建物を見比べながら、蓮は何とも言えない気分になるのだった。
「ん? なんだ?」
孤児院らしき建物を眺めながら神殿へと向かっていた蓮は、ふと遠くから聞こえてきた声に気づいた。
声が聞こえてきたのは、孤児院とは反対の方向だった。
「よっしゃー! 捕まえた!!」
「えっ?」
声のした右側へと顔を向けた、その瞬間だった。
突然、左側から何者かが勢いよく飛びついてきた。
「うわっ!?」
左太ももを両腕で抱え込まれ、そのまま持ち上げるように押し倒される。
不意を突かれた蓮はバランスを崩し、右肩から地面に叩きつけられた。
「……いってぇ……」
あまりに突然の出来事に、何が起きたのか理解できない。
蓮は痛む肩を気にしながら、自分の左脚へと視線を向けた。
そこには、左脚にしがみつくように絡みついた、猫のような容姿をした人間の姿があった。




