第72話-叩いて出てきたのはホコリなのだろうか?
「REN999様、ありました。こちらでございます」
「ああ……ありましたか……ありがとうございます……」
「はい……? どうかなさいましたか?」
いかにもがっかりした様子で礼を言う蓮に、ギルドの受付嬢は不思議そうな顔で尋ねた。
蓮がこのような反応をしているのには、理由がある。
少し前、ホウキ星についてポロンに相談していたときのことだ。
話し合いも終盤に差しかかったところで、ポロンが蓮に一つの質問をした。
それは、今回の依頼に対する報酬についてだった。
「そういえばRENさん。今回の協力要請なんだけど、報酬はどういう話になってるの~?」
「報酬ですか? 今のところ、後日何かしらの形で協力してもらうという話になっています」
今回、ホウキ星から受けた依頼は【協力要請】だ。
内容は、鉱山で出現する【ブロンズゴーレム】の討伐を手伝うというものだった。
しかし、ホウキ星には現段階で十分な報酬を用意する余裕がないらしい。
そのため、討伐に協力した見返りとして、後日何かしらの形で蓮に協力するという話になっていた。
蓮がそのことを伝えると、ポロンの表情が明らかに曇った。
「……それ、ちょっとおかしくないかなぁ~?」
「えっ……何がですか?」
「だって、今回の依頼ってモンスターの討伐なんだよねぇ~?」
「はい。そうですけど……」
「だったら、魔石が手に入るはずでしょ? その一部を報酬にすることだってできると思うんだけどなぁ~」
「あっ……」
言われてみれば、その通りだった。
蓮は以前、ゴブリンの巣を殲滅したときのことを思い出す。
あのときは、ゴブリンを倒すたびに魔石を手に入れることができた。
つまり、モンスターを討伐すれば、経験値だけでなく魔石という収穫もあるのだ。
しかし、今回の話し合いでは、ホウキ星から魔石についての説明は一切なかった。
(……そういえば、魔石のことをすっかり忘れてたな)
もちろん、ホウキ星も蓮と同じように、魔石のことを忘れていただけなのかもしれない。
蓮自身、ポロンに指摘されるまで気づかなかったのだから、その可能性は十分にある。
だが、ポロンはそう簡単には考えていないようだった。
「RENさん。ホウキ星さんの依頼を受ける前に、一度ギルドで詳しく調べてみた方がいいと思うよ~」
「ギルドで調べるんですか?」
「そうそう~。ギルドの依頼って、記録が残ってるんだよねぇ~」
ポロンの説明によると、ギルドでは依頼の内容や受注状況などを記録しているらしい。
依頼によっては参加人数や対象エリアなどに制限が設けられていることもあり、そうした条件の重複を防ぐためでもあるという。
そのため、受付で問い合わせれば、確認できる範囲の依頼情報を教えてもらえるそうだ。
「なるほど……。そんなこともできるんですね」
「うん。だから、まずは調べてみた方がいいんじゃないかなぁ~」
蓮としては、ホウキ星を疑うつもりはなかった。
短い時間とはいえ、実際に話してみた印象は悪くなかったからだ。
だが、ポロンの話を聞いた以上、何も確認せずに依頼を引き受けるのも違う気がする。
何より、調べておけば自分自身も安心できる。
そう考えた蓮は、ポロンとの話し合いを終えた後、ギルドへ向かうことにしたのだった。
そして現在。
受付嬢にホウキ星が受注した依頼について問い合わせたところ、該当する記録が見つかったというわけだ。
「こちらが、確認できた依頼の記録になります」
「ありがとうございます……」
受付嬢が提示した記録に、蓮は目を通す。
ホウキ星が過去に受注した依頼として確認できたのは、二件だった。
一件目は、【ストーンゴーレム】の排除。
ランクⅠのモンスターを対象とした通常討伐依頼で、こちらはすでに完了している。
そして二件目は、銅塊100個の納付。
こちらはランクアップ依頼であり、まだ完了していないようだった。
(……あれ? これって……)
蓮は二件目の依頼を見て、ふと疑問を覚えた。
ランクアップ依頼。
それは蓮自身も、つい最近経験したばかりのものだ。
蓮の場合は、ゴブリンの巣の殲滅だった。
大量のゴブリンを相手にする必要があり、決して簡単な依頼ではなかったが、ポロンの協力もあって何とか達成することができた。
そして、その依頼を達成したことで、蓮はランクⅡへと進むことができたのだ。
つまり、ホウキ星の銅塊100個の納付も、蓮が受けたゴブリンの巣の殲滅と同じ位置づけの依頼ということになる。
(……でも、これって俺のときより難しくないか?)
蓮は改めて依頼内容を確認した。
銅塊100個。
文字だけを見れば、指定された素材を集めて納めるだけの依頼だ。
しかし、ホウキ星の話では、銅塊を採掘しようとすると【ブロンズゴーレム】が出現することがあるという。
しかも、ブロンズゴーレムはランクⅡ相当のモンスターだ。
ホウキ星はランクⅠLv10。
ランクアップするための依頼なのに、その途中で自分より上のランクのモンスターを相手にしなければならない可能性がある。
もちろん、銅塊が採れることもある以上、必ずしもブロンズゴーレムを倒さなければ達成できないとは限らない。
だが、銅塊を100個も集めるとなれば、何度も採掘を繰り返す必要があるはずだ。
そのたびにブロンズゴーレムが出現する可能性を考えると、簡単な依頼とは到底思えない。
(俺のときも大変だったけど……これはこれで相当きついよな……)
蓮はゴブリンの巣での戦いを思い返した。
あのときはポロンの回復アイテムに何度も助けられた。
それでも、相手は基本的にランクⅠのゴブリンだった。
一方、ホウキ星が直面しているのはランクⅡ相当のブロンズゴーレムだ。
同じランクアップ依頼とはいえ、要求される内容には随分と差があるように感じられる。
もっとも、職業によって依頼内容が異なる以上、単純に比較できるものではないのかもしれない。
それでも、蓮にはホウキ星の依頼の方が厳しく思えた。
(……まあ、だからこそ協力要請を出したんだろうけど)
そう考えたところで、蓮は一件目の依頼に再び目を向けた。
【ストーンゴーレム】の排除。
現在、ホウキ星が困っている【ブロンズゴーレム】とは別のモンスターだ。
ストーンゴーレムはランクⅠ相当であるため、ホウキ星が討伐できたとしても不思議ではない。
しかし、今回気になっているのは、ゴーレムの強さそのものではなかった。
問題は、討伐した際に得られるはずの魔石についてだ。
蓮は少しためらいながらも、受付嬢に尋ねてみることにした。
「あの……一つ聞いてもいいですか?」
「はい。なんでしょうか?」
「ストーンゴーレムって、倒しても魔石はもらえないんですか?」
「いいえ。もらえますよ」
受付嬢は、にこやかな笑顔で即答した。
「……そうですか。ありがとうございます」
(うわぁ……受付嬢の笑顔が眩しいよ……)
もちろん、これだけでホウキ星が何かを隠していると決まったわけではない。
だが、少なくともホウキ星は、以前からゴーレムの討伐を経験している。
そして、ゴーレムを倒せば魔石が手に入ることも、知っている可能性が高い。
それなのに、今回の協力要請では魔石について何も話していなかった。
単に説明を忘れていただけなのか。
それとも、何か別の事情があるのか。
今の蓮には、まだ判断できない。
ただ一つ言えるのは、ホウキ星ともう一度、報酬について話し合う必要があるということだった。
蓮は受付嬢の笑顔を前に、何とも言えない気分になるのだった。




