第69話-十人十色
「確か、この街の外れに【白の神殿】という施設がありまして、その神殿が運営している孤児院があるんです。そこにお布施をしていくというイベントがあるんですが……」
「お布施ですか?」
「はい。お布施の累計金額が10万Gになると、白の神殿で色々なスキルを習得できたり、アイテムを購入できたりするようになるらしいんです」
「なるほど……」
「習得できるスキルは、確か【ヒール】だった気がします。ただ、購入できるアイテムがどんなものなのかまでは分かりません。本来は、ランクⅡで【神官】になりたい人のためのイベントじゃないか、という話を聞いたことがあります」
蓮が経験したゴブリンの巣の殲滅や、今回ホウキ星が直面している鉱山の問題。
このゲームには、簡単には解決できない課題がいくつもある。
当然、戦闘を有利に進めるために回復スキルを欲しがるPLAYERもいるだろう。
だが、そもそもランクアップした際に、自分の希望する職業を選べるかどうかすら分からないのが、このゲームの難しいところだ。
蓮自身、ランクⅡへのランクアップを経験している。
それまでのプレイ内容が、次に選べる職業へ影響を与えることも身をもって知っていた。
(だったら、神官になりたい人のために、こういうイベントが用意されていてもおかしくないのか……)
もっとも、本当に【神官】への転職条件になっているのかどうかは分からない。
今のところ、ホウキ星が聞いた話にすぎないのだから。
(でも、そうだな。10万Gなら何とかなるか……)
現在の蓮の所持金は30万Gを超えている。
そのため、10万Gのお布施という条件だけなら、すぐにでも達成できそうだった。
ただし、それで【ヒール】を習得できるわけではない。
あくまで白の神殿でスキルを習得できるようになるという話であり、実際にどれだけのGが必要になるのかは分からない。
それに、蓮にはもう一つ気になることがあった。
(俺がヒールを覚えてもいいんだけど……)
蓮の職業は【召喚士】だ。
召喚モンスターを呼び出すと、その分だけ使用可能なSPの上限が減少する。
つまり、召喚モンスターを維持しながら回復スキルまで使うとなれば、SPのやりくりがさらに難しくなるのだ。
もちろん、緊急時の回復手段として【ヒール】を覚えておくこと自体は悪くない。
だが、できることなら回復役は別にいた方がいい。
(だったら、ホウキ星さんが神官になってくれれば、何とかなるかもしれないな……)
そこで蓮は、一つ尋ねてみることにした。
「ちなみになんですが……ホウキ星さんは、ランクⅡで【神官】に転職するとかは考えてないんですか?」
「いやー、僕の場合は考えてないですね」
「あー……そうなんですね……」
蓮の考えは、あっさりと空振りに終わってしまった。
そもそも、蓮自身が【神官】への転職を考えたところで、次にランクアップできるのは当分先の話だ。
ランクⅡになったばかりであり、次のランクアップまでに必要な経験値については、以前オリバから少し話を聞いている。
その内容を思い出す限り、地獄のようなレベルアップを覚悟しなければならないだろう。
だからこそ、まだランクⅠのホウキ星が【神官】を目指しているのであれば、できる限りのサポートをしてもいいと考えていたのだ。
だが、本人にそのつもりがないのであれば仕方がない。
「どうしたんですか?」
「あっ……いや。ホウキ星さんが回復系のスキルを覚えるなら、ブロンズゴーレムとの戦闘も何とかなるかなと思いまして」
「なるほど。でも、僕の場合は多分、次も同じ系統の職業を選ぶと思います」
「同じ系統ですか?」
「はい。【見習い採掘師】から【採掘師】にランクアップすると、自分専用の鉱山を持つことができるらしいので」
「へぇ……自分専用の鉱山ですか」
蓮は少し興味を引かれた。
職業によっては、ランクアップすることで自分専用の施設まで持てるようになるらしい。
もっとも、それがどのような仕組みなのかまでは分からないが。
「ということは、もしかして今は別の人の鉱山を利用しているってことですか?」
「はい、そうです。今はクラン長の鉱山を利用させてもらっています」
「なるほど……」
(ということは、今のクランはクラン長の鉱山を利用するために集まった人たちなのかな?)
ホウキ星が所属するクランの名前は【鉱物同好会】だ。
その名前からして、採掘を目的とするPLAYERたちが集まっているのだろう。
そして、その活動の中心にクラン長が所有する鉱山がある。
そう考えれば、話の辻褄は合う。
(だったら、ホウキ星さんがクランを抜けたいのも、自分の鉱山を持って独立したいからなのかもしれないな……)
もちろん、それだけが理由とは限らない。
クランを抜けるために銅塊100個を納めなければならないという話も、蓮にとっては少し気になるところだった。
だが、実際にどのような事情があるのかは分からない。
蓮はそう考えながらも、それ以上踏み込んで聞くことはしなかった。




