第64話-分相応が身のため
蓮はオークション会場を出ると、すぐに斜め向かいへと視線を移して歩き出す。
数十メートルほど歩いたところで、剣の看板が掲げられた店を見つけた。
モルスの店だ。
「ほんと、ここって場所がいいよなぁ……」
ここを訪れるのも、これで三回目ほど。
まだこの街の地理には若干の不安がある蓮だったが、オークション会場の斜め向かいという分かりやすい場所だけに、今回はまったく迷うことなく店を見つけることができた。
そして、もう少しで店に到着するというところで、中から一人の冒険者らしきPLAYERが出てくる。
「あっ……お客さんかな」
その人物と一瞬だけ目が合う。
だが、蓮は特に気に留めることもなく、入れ替わるように木の扉をくぐった。
「すいませーん。モルスさんいますか~?」
「おーっ! RENか、いらっしゃい。どうした?」
店の奥から、聞き覚えのあるぶっきらぼうな声が返ってくる。
大柄な体格に、がっしりとした太い腕。
相変わらず、一目見ただけでは商人なのか疑いたくなるような風貌だ。
「あー……お前、その様子だと召喚士になったみたいだな」
蓮が事情を話し始めるより先に、モルスは蓮が連れているフリーウルフとゴブリンへと目を向けた。
「はい。オリバさんたちとも話した結果、結局、召喚士にしました」
「それで、今日はどうしたんだ?」
蓮は、モルスも交えた以前の話し合いから、その後オリバたちと話して決まったこと、そして今日オークションを見てきたことまでを順を追って説明していく。
「ほー、そうか。それで、金策をどうしたらいいか相談に来たってわけか」
「そうですね。何かいい案があればとは思うんですけど……」
そう答えながら、蓮はモルスの表情が若干曇ったように感じた。
だが、気のせいかと思い、そのまま話を続ける。
「でもそれって、俺に相談するようなことなのか?」
「えっ……といいますと?」
これまでのやり取りから、蓮の中でモルスには少々金にがめつい印象がある。
ランクⅠの頃、【守りの盾】を手に入れた時などは、まさにそうだった。
だから今回も、モルスなら話の中から自分が入り込める隙を見つけ、自分の利益もしっかり確保しながら、蓮の力になってくれるのではないか。
蓮はそう予想していた。
だが、どうにもモルスの反応がよろしくない。
「いやな。今の話を聞く限り、まあ、俺が力になれることがあるのは確かなんだけどよ」
モルスは少し考えるように腕を組む。
「でもなぁ……その闘技場って、まだ始まってすらねぇんだろ? どうなるかも分からん段階で『どうやって金を稼げばいいですか』って聞かれてもなぁ」
「それは……」
「それに、そもそもクランでやるんだろ? だったらまず、クランの連中に相談する話じゃねぇのか?」
「あー……確かにそうですね。でも、なんか正直なところ、クランメンバーには迷惑かけっぱなしで……」
モルスが横目で蓮を見る。
いかつい男から無言の圧力を向けられ、蓮はどう反応していいのか分からず視線を泳がせた。
「特によ。オクだっけ? そのギャンブラーのやつ」
「あっ……はい」
「そのオクってやつは、ランクⅣに上がれなくて燻ってんだよな?」
「そうですね」
「まあ、どれくらい燻ってるのかは知らねぇけどよ。少なくとも、そいつはランクⅣになる気はあるんだよな?」
「それは、あると思いますよ」
蓮の答えを聞いたモルスが、大きくため息を吐く。
「たぶんだけどよ。そいつ、十億G出せばランクⅣになれるって言われたら、喜んで出すと思うぞ」
「…………」
十億G。
その言葉を聞いて、蓮は先ほどオークションで見たものを思い出した。
ランクⅠ、Lv30のフリーウルフ。
出品価格は――五十億G。
もちろん、今の蓮には、あのフリーウルフが本当に五十億Gで取引されるものなのかまでは分からない。
出品されているからといって、必ずその値段で売れるとも限らない。
だが、少なくともAFOのオークションでは、五十億Gという金額の商品が実際に並んでいる。
(ってことは……十億Gって、上のランクのPLAYERからすれば、本当に出せないような金額じゃないのか?)
「どうした?」
「あー……いや、今のモルスさんの話を聞いて、そういえばオークションにランクⅠ、Lv30の召喚モンスターが五十億Gで出品されてたのを思い出しちゃって……」
「んー……召喚モンスターの相場は俺もよく分かんねぇけどな」
モルスは少し考えてから続ける。
「でも、レベルを上げるのに必要な経験値だけで考えるなら、そんなもんじゃねぇか? むしろ、それしか値段に乗ってねぇなら安いくらいかもしれねぇな」
「あー……やっぱりですか……」
「まあ、金策を考えるのが悪いとは言わねぇよ。でも、その前にやることがあるだろ」
「その前に……ですか?」
「まずはクランの連中に、どれくらいGを出せるのか聞いてみろってことだ。必要な金額も分かってねぇのに、稼ぎ方だけ考えたってしょうがねぇだろ」
「…………」
言われてみれば、その通りだった。
蓮は勝手に、自分でもGを用意しなければならないと思っていた。
だが、そもそも闘技場は蓮一人で運営するものではない。
ポロン、大根、オク。
みんなで話し合って始めようとしているものだ。
特にオクにとっては、自分のランクアップまでかかっている。
それなのに蓮は、誰がどれだけGを出せるのかすら聞かないまま、一人で金策について考えていたのだ。
「……分かりました。一回クランに戻って、みんなと話してみます」
「そうか。なら、まずはそっちで話してこい」
先ほどまでとは違い、モルスの表情が少しだけ明るくなったように見えた。
自分の言いたかったことを蓮が理解したのが嬉しかったのかもしれない。
「はい。そうしてみます」
蓮がそのままクランへ戻ろうとした、その時だった。
「あっ、そうだREN」
「はい?」
「その闘技場がオープンしたらよ、相手側の控室でもどこでもいいから、うちの店の割引券を置かせてくれねぇか?」
「……割引券ですか?」
「ああ。それと、景品なんかも必要になるんだろ? そっちも俺から提供できるもんがあるかもしれねぇ。できれば俺も多少は絡ませてくれよ」
「…………」
先ほどまでの話は何だったのか。
最後の最後になって、実にモルスらしい言葉が飛び出してきた。
思わず蓮も笑ってしまう。
「分かりました。その辺りもみんなに相談してみますね」
「おう。頼んだぞ」
「それじゃあ、また来ます」
そう言って店を出た蓮は、今度こそオクたちと話をするため、クランへと戻っていった。




