第61話-蓮、大海を泳ぎ始める
翌日、蓮はギルドの前に来ていた。
昨日、ポロンたちから聞いた話では、ギルドの向かい側にある建物がオークション会場になっているらしい。
蓮がギルドを背にして振り返ると、確かにそれらしい建物があった。
ギルドと比べると若干こぢんまりとした建物ではあるが、その上部にはしっかりと【オークション会場】の文字が掲げられている。
「ここか……」
蓮はそのまま建物へと向かい、扉をくぐった。
「いらっしゃいませ! オークション会場へようこそ!」
中へ入った瞬間、小柄な女性から元気よく声をかけられ、蓮は一瞬だけ驚く。
声のした方を見ると、そこにいたのは背の低い女性だった。
かなり小柄ではあるものの、見た目からはそれほど子供という印象を受けない。
(もしかして……ドワーフっていう種族かな?)
AFOを始めた時、人間、エルフ、ドワーフの三種族から選択したことを蓮は思い出す。
その記憶から、目の前の女性はドワーフなのではないかと当たりをつけた。
「初めてご来店の方ですか?」
「はい。初めてです」
「かしこまりました。それでは、こちらのタッチパネルに手をかざしてください」
女性に言われるまま、蓮は入口近くに設置されていたタッチパネルへ手をかざした。
すると、次の瞬間――。
周囲の景色が切り替わった。
「おっ……」
そこはチャットモードで何度か訪れたことのある空間によく似ていた。
ただ、一つだけ大きく違うところがある。
目の前には、
【ENTER】
【EXIT】
という二つの文字が大きく表示されていた。
「ENTER……かな?」
なんとなく雰囲気で【ENTER】を選択する。
すると今度は、三つの項目が表示された。
【落札にきた】
【出品にきた】
【やめる】
現段階で蓮が持っているアイテムといえば、装備品を除けばポーションなどの回復アイテムが少しある程度だ。
それに今日は、何か特定の商品を買いに来たわけでも、売りに来たわけでもない。
オリバに勧められ、オークションがどういう場所なのかを知るために来ただけである。
当然、いきなり何かを出品するつもりもなかった。
「とりあえず、こっちだな」
蓮は現在出品されているものを確認するため、【落札にきた】を選択した。
(あー……なるほどね)
画面には、装備品、回復アイテム、スキルなど、様々な分類が並んでいる。
昨日オリバから言われたこともあり、まず蓮が興味を持ったのは、自分の職業である【召喚士】に関係するものだった。
確かニールはサロンで、召喚モンスターもオークションへ出品できるようなことを言っていたはずだ。
蓮は画面を操作しながら項目を進んでいき、やがて召喚モンスターと思われる分類を見つけた。
そして、それを選択した直後――。
「えっ……これはどういうことだ……?」
蓮の手が止まった。
画面には、規則正しくランクが並んでいた。
【ランクⅠ ★】
【ランクⅡ ★】
【ランクⅢ ☆】
・
・
・
【ランクⅨ ☆】
【ランクⅩ ☆】
その横に表示されている★と☆。
今の蓮はランクⅡ【召喚士】である。
そのため最初は、★が閲覧可能で、☆が閲覧不可能という意味なのではないかと考えた。
だが、蓮が本当に気になったのはそこではない。
(……ランクⅩ?)
画面には、はっきりと【ランクⅩ】まで表示されている。
自分にとって先輩PLAYERであるポロン、オク、大根は、確かランクⅢだったはずだ。
三人がどれほどの期間AFOをプレイしているのか、蓮は詳しく聞いたことがない。
だが、少し一緒に行動しただけでも分かるほど、三人の金銭感覚や知識は自分とは大きく違っていた。
だからこそ蓮は、三人がかなり上位のPLAYERなのだと勝手に思っていた。
しかし、目の前の画面には――ランクⅩまで存在している。
それが現在到達しているPLAYERがいるという意味なのか、それとも単純にシステム上用意されているだけなのかは分からない。
ただ少なくとも、AFOにはランクⅩまで存在しているらしい。
「……とりあえず、今見られるところから見るか」
現状、★が表示されているのはランクⅠとランクⅡ。
蓮はその中から【ランクⅠ】を選択した。
すると、今度はモンスターの選択画面が現れる。
【ゴブリン】
【スライム】
【フリーウルフ】
そこには蓮にも馴染みのあるモンスターの名前が並んでいた。
さらにその下には、まだ聞いたこともないモンスターの名前がいくつも続いている。
その中から蓮は、自分でもある程度分かる【フリーウルフ】を選択した。
次に表示されたのは、レベルの選択画面だった。
そして――。
蓮は再び固まった。
【Lv1 ★】
【Lv2 ★】
・
・
・
【Lv98 ☆】
【Lv99 ☆】
【Lv100 ☆】
(えっ……Lv100? なんだこれ……)
つい先日、召喚士サロンでゴブリンをLv20まで育てるために必要な経験値を調べた時のことを思い出す。
Lv1からLv20まで。
それだけでも必要経験値は500万を超えていた。
今の蓮はランクⅡ【召喚士】であるため、その時に調べることができたのはLv20までだった。
それでも蓮にとっては、十分すぎるほど途方もない数字だったのだ。
だが――。
今、目の前には当たり前のようにLv100まで表示されている。
「……」
蓮は思わず興味を惹かれ、【Lv100 ☆】を選択してみた。
しかし、何も反応しない。
「ってことは……そういうことか?」
ここで蓮は、先ほどから表示されている★と☆の意味に気づいた。
どうやら★が付いているものは現在出品されており、☆が付いているものは出品されていないらしい。
つまり、ランクⅩという表示があるからといって、実際にランクⅩの召喚モンスターが出品されているわけではない。
Lv100についても同じだ。
現在出品されているわけではない。
ただ――。
(Lv100までは……存在するってことだよな?)
そこで蓮は一度、画面から目を離した。
そして、一呼吸置いて冷静になったところで、ようやく実感する。
自分は今まで、AFOというゲームのほんの一部分しか見ていなかったのではないだろうか。
ランクⅩ。
Lv100。
その二つの数字を見ただけでも、自分が思っていた以上に、このゲームの底は遥かに深い。
そして――。
その底へたどり着くまでの道のりが、とてつもなく長いということだけは、今の蓮にも十分理解できた。




