第56話-蓮、閃く
「ほんなら、次に決めるのは料金体系なんかな?」
「そうですね。それが妥当だと思います」
「闘技場への参加選手の方は、最初は依頼とかで集めるとすると、料金はもらえないかもしれないですねぇ~」
蓮がなんとなく納得できないものを抱えている中でも、オク、オリバ、ポロンの話し合いは進んでいく。
話を聞く限り、おそらく現実にある格闘場のような仕組みを採用するのだろう。
選手が戦い、それを見るために観客が集まり、観客は試合の勝敗にGを賭ける。
つまり、この闘技場でGが動く場所は一つではない。
出場するPLAYER。
試合を見る観客。
そして、勝敗にGを賭ける客。
この三つをどう組み合わせるかによって、賭博場の収益は大きく変わってくる。
「最初は参加料を取るより、こっちから報酬を出してでも選手を集めた方がええやろな」
「私もそう思います。まず必要なのは、試合を成立させることですから」
「観客の入場料はどうするのぉ~?」
「そこなんよなぁ~」
「あのー……一つ質問なんですけど……」
恐る恐る蓮が口を挟むと、それまで続いていた三人の会話が止まった。
オク、オリバ、ポロンの視線が一斉に蓮へと向けられる。
「前に話し合った時、オリバさん、自分が関与する戦闘には賭けられないって言ってましたよね?」
「はい。言いましたね」
「確か、自分で結果を操作できるからって……」
「その通りです。それがどうかしましたか?」
オリバが不思議そうな表情を浮かべる。
オクとポロンも、蓮が何を言いたいのか分からないのか、若干怪訝そうな顔でこちらを見ていた。
「もし仮にですよ?」
蓮は頭の中で考えを整理しながら、ゆっくりと言葉を続ける。
「戦うPLAYER本人でも、結果を不正に操作できないような条件だったら……そのPLAYER自身も、自分の試合に賭けられるってことになりませんか?」
「……なるほど」
オリバがわずかに目を細める。
「まあ……できないこともないでしょうが」
そこで一度言葉を切り、少し考えるような仕草を見せた。
「最終的には運営の審査次第でしょうね。ただ――」
オリバの視線が、まっすぐ蓮へと向けられる。
「できれば、もう少しRENさんの考えを聞かせていただけますか?」
「はい。この前、オリバさんは、このゲームで挫折する原因として一番多いのはレベル上げだと言ってましたよね?」
「確かに言いましたね」
以前オリバから聞いた話を確認すると、オリバも素直に頷いた。
「今回、実際に経験値を獲得してみて、かなり魅力的な条件だとは俺も思います。ですが……」
「ですが、なんでしょうか?」
「これだと結局、普通の人たちがやっていることを、そのままやっているだけだと思うんですよね……」
「はい。確かにそうですね」
意外にも、オリバはあっさりと蓮の言葉を肯定した。
「私は賭博場を実際に運営しているわけではありません。知り合いから聞いた話や、AFOで可能な条件を確認して、私なりに考えた結果を話しているにすぎませんからね」
「だったら……」
蓮は一度言葉を止める。
先ほどまで感じていた、何かがしっくりこないという感覚。
その正体が、ようやく少しだけ見えてきた気がした。
「せっかくゲームの中でやるなら、現実の賭博場と同じことをする必要ってないんじゃないですか?」
「確かにそうですが……何か具体的な方法があるんですか?」
オリバの表情が少し変わる。
明らかに、蓮の言葉に興味を引かれているようだ。
「はい。経験値を懸けるって、できないですか?」
「……経験値?」
三人の顔が揃ってぽかんとする。
どうやら、蓮の言いたいことがすぐには伝わらなかったらしい。
「えっと……例えば、俺とオリバさんが対決するとしますよね?」
「はい」
「その対決の前に、お互いの経験値をチップ代わりに懸けるんです」
「経験値を……チップ代わりに?」
「はい。勝った方は相手が懸けた経験値を獲得して、負けた方は自分が懸けた経験値を失う。そういうやり方ってできないのかなって……」
蓮自身、そんなことが本当に可能なのかは分からない。
ただ、先ほどから感じていた違和感について考えているうちに、一つの考えが浮かんだのだ。
「たぶんですけど……ここに来る人って、経験値を稼げるから来るんですよね?」
「そうですね」
「だったら、一回来てもらうだけじゃなくて、二回目、三回目も来てもらおうと思ったら……もっと経験値を稼げるかもしれない仕組みがあった方がいいんじゃないかなって」
三人は黙ったまま、蓮の話を聞いている。
「普通に戦えば経験値がもらえる。そのうえで、自分の経験値まで懸ければ、もっと大きく稼げる可能性がある」
そこで蓮は少しだけ言葉を詰まらせた。
「もちろん……負けたら減るんですけど」
「…………」
誰もすぐには口を開かなかった。
蓮としては、ただ思いついたことを話しただけである。
だが――。
「RENさん」
最初に口を開いたのはオリバだった。
先ほどまで浮かべていた柔らかな笑みが、いつの間にか消えている。
「それは……面白いかもしれませんね」
「それに、そういう形で人を呼べれば、最初は参加するPLAYERのクランメンバーなんかも、物珍しさで観客として来てくれると思うんですよ」
「なるほどねぇ~」
「最初から大勢の知らない人を集めようとするより、そういう感じで少しずつ呼んでいく方が手堅いんじゃないかなって」
蓮としては、それほど大したことを言ったつもりはなかった。
経験値を稼ぎたいPLAYERを呼ぶ。
そのPLAYER自身に経験値を懸けてもらう。
さらに、そのPLAYERの知り合いを観客として呼ぶ。
ただそれだけの話である。
だが――。
「……オクさん」
「なんや?」
「先ほどの料金体系の話ですが、一度後回しにしましょう」
「……せやな」
オリバとオクが何やら考え込んでいる。
ポロンも先ほどまでとは違い、どこか楽しそうな表情を浮かべていた。
「えっ……?」
三人の反応を見て、今度は蓮の方が戸惑う。
「RENさん」
オリバが蓮を見る。
「まずは、その『経験値を懸ける』という方法が本当に可能なのか――そこから確認してみましょう」
どうやら蓮が何気なく口にした思いつきは、賭博場の前提そのものを変えてしまったらしい。




