第52話-言わぬが花
「どうもRENさん、二度目ましてですね。こんにちは――じゃなくて、時間的にはこんばんはですね」
「あっ……はい。オリバさん、こんばんは」
前に会った時と同様、マイペースかつ、うっすらとした笑顔でオリバは蓮に挨拶をしてくる。
その口調と振る舞いも相変わらずだ。
「いきなりでびっくりしたんですけど、どうしたんですか?」
「はい、いきなりですね。今回、皆さんと契約を交わすにあたりまして、一応どういったことになるのか、事前準備というか視察をしておきたいと思いまして。クラン長の方に尋ねましたら、いつでも来ていいですよと言われましたので、早速来させていただきました」
「クラン長?」
聞き慣れない言葉に蓮が首を傾げると、オリバは無言で手のひらを横へ向けた。
その先にいたのは――ポロンだった。
「……ポロンさん?」
「そうだよぉ~。言ってなかったっけ?」
「聞いてないですよ!」
「そうだっけぇ~?」
悪びれる様子もなく、ポロンはいつもの軽い調子で笑っている。
(いや、でも……言われてみればそうか)
思い返してみれば、蓮が初めてこのクランを訪れた時も、話を仕切っていたのはポロンだった。
クランへの加入を許可してくれたのも彼女だ。
それ以外にも、何かと中心になって話を進めていることが多かった。
(なんで今まで気づかなかったんだ、俺……)
改めて考えれば、思い当たる節はいくらでもある。
ただ、普段のあまりにも軽い言動のせいで、蓮の中でポロンと『クラン長』という言葉がまったく結びついていなかったのだ。
「なんか失礼なこと考えてない~?」
「……考えてないですよ」
「今の間は怪しいねぇ~」
そんな二人のやり取りを横目に、オクが口を開く。
「そんでな、これから闘技場になる予定の場所の方も一緒に見てもらおうかってことになったんやけど、良かったらREN君も行かん?」
「俺もですか?」
「せっかくやしな。それに召喚士同士なんやから、話せることもあるやろ」
一瞬、そのまま頷きかけた蓮だったが、そこで思い出す。
(あっ、そうだ)
ポロンに頼まれていた【モンスターの心】。
心屋で買ってきた七種類を、まだ渡していなかった。
「あの、ポロンさん。さっき頼まれてた――」
そう言いながらポロンの方を振り向くと、彼女は蓮が言い終わるより先に笑顔で首を横に振った。
「後でいいよぉ~」
「あっ……分かりました」
どうやら急ぐ必要はないらしい。
(それなら俺も行ってみるか)
そもそも、オリバとの契約は自分にも無関係な話ではない。
三千万Gという大金を払ってまで契約することになった【餌場】。
その契約相手であるオリバが、わざわざクランまで足を運んで視察に来ているのだ。
それに、これから向かうのはオクが作ろうとしている闘技場の予定地。
どちらも蓮にとって関係のある話だった。
「そうですね。であれば、俺も一緒に行きますよ」
「決まりやな。ほんなら行こか」
オクの言葉を合図に、蓮たちはこれから闘技場になる予定の場所へと向かうことになった。
「それでRENさん、召喚士にはなったのですよね?」
「はい。なりました」
闘技場へ向かう道すがら、前回の話の続きからだろうか。オリバが蓮に確認してきた。
「なるほど……ここから大変ですよ……」
「…………」
前回の話し合いと同様、オリバは召喚士という職業に対してあまり良い印象を持っていないようだった。
一方で蓮は、ニールから様々な説明を受けたことで、召喚士という職業に若干ではあるが興味が湧き始めている。
だからといって、ここでオリバに反論して口論を吹っ掛けるほどのことでもない。
その結果、蓮は返す言葉が見つからず黙っていた。
「とはいえ、これは所詮ゲームですからね。色々あるでしょうが、最後まで折れずにプレイできていれば、その方法が最終的には正解になるわけですけどね」
(相変わらずこの人、面倒くさいこと言ってくるなぁ……)
「お二人さん、お話し中のところ悪いんやけど、あそこに見えるのが闘技場の予定地やから。よろしく」
オクの目にはどう映っていたのだろうか。
少なくとも、蓮とオリバの会話が盛り上がっているようには見えなかったらしい。
オクが会話に割り込んできたことで、二人は揃って彼女の指さす方向へと目を向ける。
クランの入り口から奥へ、ひたすら真っすぐ。
これなら迷いようもないだろうという場所に――。
「……でかっ」
突き当たりに、野球場を思わせる巨大な建物が建っていた。
「いやー……想像以上に立派な建物ですね……これはかなり費用が掛かってるんじゃないですか……」
これまでほとんどマイペースを崩さなかったオリバが、わずかに言い淀んでいる。
その様子を見ていた蓮もまた、目の前の建物を見上げたまま言葉を失っていた。




