第50話-蓮、気づく
「いらっしゃいませ。こちらは心屋です。本日はどういったご用件で?」
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【買いにきた】
【売りにきた】
【召喚モンスターを心にしたい】
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「えっ……心にしたいってなに?」
ニールの説明を受け、一番右端のカウンターにいる男へと話しかけた蓮。
【心屋】という名前から、モンスターの心を売り買いできる店なのだろうという予想はついていた。
だが、三つ目の選択肢だけは予想外だった。
『はい。こちらの心屋ではモンスターの心の売買はもちろん、現在登録されている召喚モンスターを【モンスターの心】にすることも可能です』
「へー……。モンスターの心にねぇ……」
(召喚モンスターにする以外の使い道って……そういえばポロンさんがアイテムにできるとか言ってたな)
以前、ポロンから【モンスターの心】について詳しく聞いた時のことを、蓮は思い出した。
「モンスターの心にすると、どんなメリットがあるの?」
『先ほど、召喚モンスターはそのままオークションへ出品することが可能と説明したのは覚えていらっしゃいますでしょうか?』
「あー、うん。覚えてるよ」
つい先ほど聞いたばかりの説明だけに、蓮もしっかりと覚えていた。
『ただし、召喚モンスターをそのままオークションへ出品した場合、取引が終了するまで召喚できないなど、いくつかの制限を受けることになります。ですが、【モンスターの心】というアイテムにすることで、それら召喚士としての制限を受けることなく、オークションへの出品やPLAYER間でのトレードを行うことが可能となります』
「なるほどね。じゃあ、召喚モンスターを心にして保管しておくって方法も有効なのかな?」
今の蓮には、まだ心配する必要のない話だ。
だが、この先召喚モンスターが増え、20ある登録枠が足りなくなる可能性は十分にある。
使わない召喚モンスターを心に戻して保管しておけるのであれば、登録枠を空ける方法としても利用できそうだった。
『確かに、そのような方法でモンスターを管理することも可能ではございます。ただし、その場合はいくつかのデメリットが生じます』
「デメリット?」
(心に戻すと何かあるってことか……?)
『まず、【モンスターの心】を使用した場合ですが、そこから登録される召喚モンスターは、そのランクにおけるLv1からのスタートとなります』
「もしかして、レベルが上がってる状態でモンスターの心にした場合も?」
『はい。その通りでございます』
(そういえば、ゴブ太も心から登録した時はLv1だったな……)
『次に、例えばランクⅠからランクⅡまで【進化】させた召喚モンスターを、モンスターの心にした場合でございますが――』
「今の俺に関係ありそうな話だね。それ聞きたい」
『通常、【進化】した召喚モンスターには、進化前のモンスターから引き継いだ基礎ステータスが反映されます』
「うん」
それは先ほど説明されたばかりだ。
進化に使用した二体の基礎ステータスの平均値を基本として、そこへランクアップによる成長が加算される。
だからこそ蓮は、できる限りレベルを上げてから進化させたいと考えていた。
『しかし、一度【モンスターの心】にした場合、それら進化前から引き継いだ基礎ステータスは全て失われます』
「……え?」
『その後、再び【モンスターの心】を使用した場合、そのランク本来の初期ステータスを持つLv1の召喚モンスターとして登録されることになります』
「あ~……マジですか……」
思わず、蓮の口から気の抜けた声が漏れる。
Lv20まで育てるだけでも、先ほど見た金額に換算すれば五百万Gを超える。
それを二体用意し、【進化】させる。
そこまでして積み上げたものが、心に戻した瞬間に失われてしまうのだ。
「じゃあ、保管目的では使えないよね……」
もちろん、心にして保管すること自体はできる。
登録枠を空けることもできる。
だが、その代わりに失うものがあまりにも大きい。
この時、蓮は最初に聞いておいて心底良かったと感じていた。
「……あれ?」
そこで蓮は、そもそも自分がなぜこのカウンターへ来たのかを思い出す。
召喚モンスターを心に戻すためではない。
召喚モンスターを増やす方法を知るためだ。
「そういえば、ここって心を買えるんだよね?」
『はい。もちろん可能でございます』
「じゃあ、ちょっと見せてもらっていい?」
『かしこまりました』
今度は迷うことなく【買いにきた】を選択する。
次に表示されたのは、ランクⅠとランクⅡの選択画面だった。
(まずはランクⅠから見てみるか)
蓮がランクⅠを選択する。
すると――。
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ランクⅠ
【フリーウルフの心】
【ゴブリンの心】
【スライムの心】
【石こぞうの心】
1つ 1,000G
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「あれっ……これ、おかしくないか?」
表示された金額を見て、蓮は首を傾げた。
【フリーウルフの心】。
その名前には見覚えがあるどころか、蓮自身が持っていたものだ。
そして以前、ポロンからその価値について聞いたことがある。
確か、オークションなら二万Gほど。
直接取引なら五万G出してもいいとまで言われていたはずだ。
それが――。
「千G……?」
何度見ても、表示されている金額は変わらない。
(これ……ここで買ってオークションに出したら、それだけで儲かるんじゃないか?)
単純に考えればそうなる。
1,000Gで買ったものが20,000Gで売れるなら、差額は19,000G。
十個なら190,000G。
百個なら――。
「……いや、待てよ」
そこまで考えたところで、蓮は一度思考を止めた。
オークションに出すだけなら、まだいい。
相手が誰なのかも分からないし、提示された価格に納得したPLAYERが自分の意思で落札する。
だが――。
(ポロンさんに売ったら……?)
以前、ポロンは五万G出してもいいと言っていた。
仮にその言葉が今でも変わっていないのであれば、1,000Gで買ったものをポロンへ直接売るだけで、かなりの利益になる。
それを何個も繰り返せば――。
(……めちゃくちゃ儲かるよな)
召喚モンスターの育成に、とんでもない額のGが必要になることを知ったばかりだ。
Gはいくらあっても困らない。
むしろ今の蓮にとって、喉から手が出るほど欲しいものだった。
だが――。
「…………」
どうにも気が進まない。
ポロンは、蓮がまだ何も知らなかった頃から色々と教えてくれた。
そんな相手に、ここなら1,000Gで買えるということを黙ったまま、何万Gもの値段で売る。
システム上、何か問題があるわけではない。
ポロン自身がその値段で欲しいと言ったのだから、騙しているわけでもないのかもしれない。
それでも――。
(なんか……騙してるみたいで嫌だな)
そこが引っかかった。
知らないPLAYER相手なら、ここまで悩まなかったかもしれない。
だが、相手がポロンとなると話は別だった。
「……んー」
蓮は腕を組み、しばらく考える。
そして――。
(いや、これ俺一人で考えてても仕方ないか)
売るかどうか。
そもそも、本当にそんな簡単に儲けられるのか。
考えても答えが出ないのなら、本人に聞いてしまえばいい。
蓮はメニューを閉じると、フレンド欄を開いた。
その中から、一人の名前を探す。
【ポロン5963】
「……一回、聞いてみるか」




