第42話-信用『したい』≠『できる』
「恐らく彼は、先ほどREN君に説明したことを、そのままREN君にやってあげましょうかと言っているんだと思います」
「あっ……」
大根の説明を聞いて、蓮はようやく理解が追いついた。
もし自分が召喚士になれば、自分自身だけでなく、召喚モンスターのレベルも上げていかなければならない。
召喚モンスターの育成にどれほどの経験値が必要になるのかは、まだ分からない。
だが、少なくとも蓮自身については、先ほどオリバから聞いたばかりだ。
ランクⅡでLv20まで上げるには――一千万を超える経験値が必要になる。
そしてオリバは、その膨大な経験値を稼ぐための方法として『餌場』の話をした。
つまり――。
「えっ……でも、それだと自分、そんなG用意できないですよ」
「そうだよ」
大根が頷く。
「だから彼は、僕たちを試しているんです」
「……僕たちを?」
「もし本気でREN君に闘技場をやってほしいのであれば――」
大根はそこで一度言葉を切り、オリバへと視線を向ける。
「僕たちのGで、REN君を育ててみませんか、とね」
「…………」
蓮もつられてオリバを見る。
オリバは否定しなかった。
それどころか、どこか楽しそうに笑っている。
「……やはり、察しがいいですね」
「やっぱりそういうことですか」
「はい」
オリバはあっさりと認めた。
「そもそもランクⅡになったばかりのRENさんが召喚士になったところで、先ほども言った通り、そのままでは大したことはできません」
「うっ……」
分かっていたこととはいえ、改めて言われると少し傷つく。
「ですが、レベルを上げれば話は変わってきます。当然、扱えるモンスターも育てていかなければなりませんが」
「それを……オリバさんの召喚モンスターを倒してやるってことですか?」
「ええ。そういうことです」
そこで蓮にも、ようやくオリバが自分たちに何を売ろうとしているのかが見えてきた。
オリバが召喚したモンスターを蓮が倒す。
召喚モンスターは、倒したPLAYERとのランク差に関係なく経験値を得られる。
それを繰り返せば、通常の狩りよりも遥かに効率よくレベルを上げられる。
まさしく先ほど説明された『餌場』そのものだ。
ただし――。
「当然、タダじゃないですよね?」
「もちろんです」
即答だった。
(ですよねー……)
考えてみれば、この男は話を聞くだけで一人十万Gを取る男である。
そんなオリバが、自分の召喚モンスターを何度も倒させてくれるというのだ。
無料であるはずがない。
「でも……」
蓮は大根たちを見る。
「それって結局、みんなに自分のレベル上げのお金を出してもらうってことですよね?」
「そうなりますね」
答えたのは大根だった。
「…………」
それはさすがに気が引ける。
自分が召喚士になるために。
自分が強くなるために。
その費用を、ポロンたちに負担してもらう。
「いや、それは――」
「REN君」
断ろうとした蓮を、大根が遮った。
「これは君だけの話じゃないんですよ」
「え?」
「僕は君に強くなってもらえれば、【害虫駆除】を手伝ってもらえるかもしれない」
続いて、大根はオクを見る。
「オクさんは、君に闘技場をやってもらいたい」
「せやな」
オクが頷く。
「つまり、僕たちがGを出すのだって、別にREN君のためだけじゃない」
「…………」
「僕たちにも利益があるから出すんです」
そこまで聞いて、蓮はもう一度オリバを見る。
オリバは相変わらず笑っていた。
最初から、ここまで見越していたのだろうか。
自分には払えない。
だから、自分を召喚士にしたがっている者たちに払わせる。
(……この人、怖っ)
「それで……」
蓮は恐る恐る尋ねる。
「ちなみに、いくらかかるんですか?」
オリバの笑みが、少しだけ深くなった。
「そうですね……。一応、正規の料金というものは決めているのですが、それを今言ってしまうと一悶着ありそうですからね」
「一悶着……?」
「ここは一つ、賭けをしませんか?」
「賭けですか……?」
「はい。題材は私の動機です」
オリバは楽しそうに続ける。
「私がなぜ、RENさんたちに営業をしようとしているのか。その理由をお答えください。もちろん答えは複数ありますので、一つでも当たればそちらの勝ちで構いませんよ」
そして、にこやかに付け加える。
「これはサービス問題です」
「こちらが召喚士を欲しがっているから?」
蓮が答えると、オリバは少し考えるように唸った。
「ん~~……。私なら、RENさんが開拓士になると言った場合でも営業はかけたと思いますよ」
「え?」
「ただ、その場合はRENさんを除いた三人との話し合いになっていたでしょうけどね。ですので、『RENさんたち』に営業をかける理由としては不正解とさせていただきます」
オリバがにこやかに言う。
(ホントこの人は……)
「そんで、ウチらの誰かが正解した場合、なんぼでやってくれんの?」
オクが値段を聞く。
確かに蓮も、それは気になるところだった。
「そうですね。その場合は――三千万Gほどではいかがでしょう?」
「はっ……さ……」
あまりの金額に言葉が出てこない。
だが、周りを見ると、驚愕しているのは蓮だけだった。
「期限はRENさんが闘技場を開くまで。それまでの間であれば、真剣なアドバイスもお付けいたします」
オリバはさらりと続ける。
「言っておきますが、これは破格の安さですからね」
(三千万が……破格……?)
蓮には到底そうは思えない。
「なんだ。そんな簡単なことですか……」
大根がため息交じりに言った。
(簡単!?)
蓮からすれば、とんでもない額のGを請求されているようにしか思えない。
だが、大根が気にしているのは金額ではないようだった。
「おや。簡単ですか? それではどうぞ」
「最大の要因は――僕たちが弱いからだよ」
(ん? 強い弱いって関係あるの?)
蓮にはまったく意味が分からない。
「彼はね、一番最初の自己紹介で、自分の名前と召喚士であることは言った。でも、自分のランクは言わなかったし、僕たちの名前も聞かなかったんだ」
「……それが?」
「たぶん最初は、僕たちのことを警戒していたんだと思う」
(そうなのか?)
それがどう営業につながるのか、蓮にはまだピンとこない。
「でも、話しているうちに敵ではないと判断した。それだけじゃない」
大根がオリバを見る。
「仮に僕たちが敵になったとしても、自分の方が強い。そう判断したから、ここまで自分の手の内につながる話をして、営業までかけてきたんじゃないですか?」
(だとしたらこの人、よっぽど性格悪くないか……?)
だが――。
「大正解です」
オリバは満面の笑みを浮かべた。
「まさか最大の要因をピタリと当てられるとは。すみません、少々侮っていました」
悪びれる様子すらない。
「お名前を聞いてもよろしいですか?」
「大根と呼んでください」
「なるほど、大根さん」
オリバは満足そうに頷いた。
「賭けはそちらの勝ちです。おめでとうございます!」
「…………」
蓮は何とも言えない顔で二人を見る。
そんな蓮に、大根が向き直った。
「REN君」
先ほどまでとは違う、真剣な声だった。
「はっきり言うと、君には育成士か召喚士になってほしい」
「…………」
「もちろん、強制できないことは分かっています。それでも敢えて言う。僕は、どちらかになってほしい」
「REN君、怒ったらあかんよ……」
隣からオクが小声で耳打ちしてくる。
その指は、しっかりとオリバを指していた。
「ここから言うことは僕の考えであって、確証はない」
大根が続ける。
「でも恐らく、彼がこれまで言ったことは、ほとんど真実なんだと思う」
蓮は黙って聞く。
「それに、もし今回の話を断って育成士の話を聞きに行ったとしても、彼から聞いた以上の話が聞けるとは限らない」
大根は一度、オリバを見る。
「そして、そのあと再び彼のところへ戻ってきたら――たぶん、今より悪い条件を出してくる」
「…………」
蓮もオリバを見る。
オリバは笑顔のままだった。
否定する様子はない。
(やっぱり、この人怖いって……)
「だからこそ、今出している条件は信用できると思ってる」
普段は笑ってばかりいる大根が、いつになく真剣な表情をしている。
「彼が言っている『アドバイス』も、僕は信用に足るものだと思っている」
そして大根は、蓮を真っ直ぐに見る。
「だからREN君。本腰を入れて、この話を受けてほしい」
「いや~、大根さん。ありがとうございます」
張り詰めていた空気をぶち壊すように、オリバの嬉しそうな声が響いた。
「そこまで信用していただけるとは、願ってもないお言葉です」
オリバは満面の笑みを浮かべる。
「信用は無形の財産と言いますからね。その辺りはお任せください」
「…………」
周囲から冷ややかな視線を向けられていることなど、オリバ自身も気づいているはずだ。
それでも彼は――心底嬉しそうに笑っていた。




