第41話-阿弥陀の光もG次第
「あのー……お話し中、悪いんやけど……」
「はい。何でしょうか?」
蓮とオリバの話に、オクが割って入る。
「ウチがやりたいんは、普通の闘技場やなくて、賭博場の闘技場なんよ」
「はい。モルスから聞いていますよ」
(あっ……確かに)
オリバの話に驚いていた蓮たちだったが、オクの一言で本来の話の趣旨を思い出す。
餌場として客を集められたとしても、それだけではオクの目的とは少し違う。
オクが必要としているのは、賭博場を利用する客なのだ。
「でも、その話やと賭けが成り立たんのよ」
「そうでしょうか?」
「だって、経験値稼ぎに来たPLAYERが召喚されたモンスターを倒すんやろ? 勝つ方が最初から分かっとるんやったら、賭けにならんやん」
「別に、勝敗だけを賭けの対象にする必要はありませんよ」
「ん? どういうこと?」
オクが首を傾げる。
「例えば、召喚されたモンスターを挑戦者が一撃で倒せるかどうか」
「一撃で?」
「はい。一撃で倒せたらこちら。倒せなかったらこちら。他にも、一分以内に倒せるかどうか、何回の攻撃で倒せるか――条件はいくらでも作れます」
「……なるほど」
オクの表情が変わる。
「賭けというのは、必ずしも勝者と敗者を予想するものではありません。まだ結果が確定していないものに条件を設定して、その結果を予想させればいいんです」
「つまり……」
オクが少し考え込む。
「餌場に経験値稼ぎに来た客を戦わせて、その戦闘自体を賭けの対象にするってことか?」
「そういうことです」
「おお……!」
オクの顔が一気に明るくなる。
「それやったら、経験値稼ぎたい奴が客として来る。そいつらが戦っとるところを、他の客が賭けの対象にできる……」
「はい。それに毎回同じ条件にする必要もありません」
オリバは指を一本立てる。
「一撃で倒せるか。制限時間内に倒せるか。何回攻撃を受けるか。条件を変えれば、同じような戦闘でも賭けの内容は変えられます」
「なるほどなぁ……」
大根も感心したように頷いている。
だが、蓮には一つ気になることがあった。
「あの……それって、戦う本人も自分に賭けられるんですか?」
「できませんよ」
即答だった。
「自分が関与する戦闘には賭けられないようになっています。当然でしょう? そんなことを許したら、いくらでも結果を操作できますから」
「あー……やっぱり」
「その辺りは賭博場のシステム側で制限されています」
「ようできとるなぁ……」
オクが感心したように呟く。
先ほどまで蓮には、餌場と賭博場はまったく別のものに思えていた。
だが、オリバの話を聞いているうちに、その二つが少しずつ一つにつながっていく。
経験値を求めるPLAYERを餌場に呼ぶ。
そのPLAYERに召喚モンスターと戦わせる。
そして、その戦闘結果を賭けの対象にする。
単純にモンスター同士を戦わせて客を集めるよりも、よほど現実味があるように思えた。
「これなら……いけるんちゃうか?」
オクが嬉しそうに呟く。
「いえ」
「……へ?」
またしても、オリバがあっさりと否定した。
「まだ一番大切なものが抜けていますよ」
オクの表情が固まる。
「……まだあるん?」
「あります」
オリバは笑顔のまま頷いた。
「そもそも――一番大切なものは何だと思いますか?」
「…………」
再び、オクの動きが止まった。
「あの、それって【心】とかのことですか?」
代わりに蓮が答える。
「一応、【フリーウルフの心】と……確か【ゴブリンの心】は持ってるんですけど」
「ゴブリンですか?」
オリバがわずかに反応する。
「フリーウルフは聞いていましたが……ほう、なるほどですね……」
何やら一人で納得したように頷いている。
「確かに【心】の準備も必要だと思います。ですが、私が言っているのはもっと根本的なものです」
「根本的なもの……?」
オリバの反応を見る限り、どうやら蓮の答えは彼が求めているものとは少し違うらしい。
何だろうと考えていると、それまで黙っていた大根が口を開いた。
「REN君。彼はですね、僕たち四人に営業をかけているんですよ」
「営業……?」
思わず大根を見る。
そしてオリバに視線を戻すと――。
ニヤリ。
先ほどまで丁寧に説明していたオリバの顔に、初めて商売人らしい笑みが浮かんでいた。
「察しのいい方がいてくれて、私としても話が早いです」
「えっ……じゃあ、本当に営業なんですか?」
「もちろんです」
オリバは悪びれる様子もなく答える。
そして、蓮へ向き直った。
「そうです、RENさん」
一度、言葉を区切る。
「召喚士にとって最も大切なもの――」
オリバは笑顔のまま言い切った。
「それはGなんですよ」




