第40話-晴天の急雷
「餌場ってぇと……あの、経験値上げのとこか?」
「そう、その餌場だよ」
アセット・フロンティア・オンラインを始めて間もない蓮にとって、いまいちピンとこない言葉だった。
だが、今のモルスの質問から、どうやらモンスターと戦って経験値を稼ぐ場所のことを言っているのだろう、ということだけは理解できた。
「RENさんはゲームを始めたばかりだと聞いていますが、今のモルスの話でなんとなくは分かりましたか?」
「あー……はい。本当になんとなくですけど……」
「なんとなくで大丈夫です。それで、始めたばかりの方に言うことではないのかもしれませんが――」
オリバが少し間を置く。
「このゲームって、実は結構脱落者が多いんです」
「脱落者……」
まだ大したキャリアがあるわけではない。
それでも蓮なりに、このゲームを始めてから感じた嫌な部分を思い返してみる。
「そこで質問なんですが、脱落者が多い一番の理由ってなんだと思いますか?」
「えっ……システムが説明されてなかったりとか……?」
「んー……それは不満点かもしれませんが、脱落するほどではないと思います」
「そうなんですか?」
オリバがニコリと微笑む。
「正解は、レベル上げです」
「レベル上げ?」
蓮はここ数日で行ったレベル上げを思い出す。
(確か、レベル10までに必要な経験値は5,000くらいだったよな……)
一日中ゴブリンを倒し続けたため、決して楽だったとは思わない。
だが――。
(時間はかかったけど……脱落とか挫折するほどか?)
少なくとも蓮にとっては、そこまで大きな壁だったようには思えなかった。
「RENさんが今いるランクⅠでは、レベル10まで上げるのに必要な経験値は確か5,000くらいでしたよね?」
「はい。そのくらいでした」
「では、RENさんがランクⅡになった場合、最大レベルは20になります」
「レベル20……」
「そこまで上げるのに必要な経験値、いくつくらいになると思いますか?」
「えっ?」
突然聞かれて、蓮は少し考える。
先ほどからオリバには驚かされてばかりである。
ならば今度はこちらから、思い切り高い数字を言ってやろう。
(どうせまた、とんでもない数字なんだろ……)
ランクⅠで約5,000。
その100倍も言っておけば、さすがに十分だろう。
「あー……100倍の500,000くらいですか?」
「10,000,000を超えますよ」
「…………」
凍りついたのは、蓮一人だけだった。
すぐに周囲を見渡す。
ポロン。
大根。
オク。
そしてモルス。
四人とも、何事もなかったかのように平然とオリバの話を聞いている。
(……え?)
もう一度、頭の中で数字を確認する。
10,000,000。
聞き間違いではない。
(いやいやいや……レベル上げるだけだよな?)
どうやら蓮が思っていた以上に、このゲームのレベル上げというものは、とんでもない代物らしかった。
「それなのに、通常の敵から得られる経験値はたかが知れています。無理をして格上の依頼を受けようとしても受けられない。逆にランクの低い場所へ行っても経験値が入らない。とにかく制限が多いんですよ」
「あー……そういえばモルスさんが、ゴブリンで経験値をもらえるのはランクⅠの間だけとか言ってましたね……」
ポロンと二人でモルスの店を訪ねた時の記憶が蘇る。
「そう。それだけに、真剣にこのゲームをやっている人間ほど、効率よく経験値を稼げる場所を探しているんです」
「「「……」」」
蓮、モルスを除く三人の顔が上がる。
(えっ……マジなの?)
どうやらオリバの話は、蓮が思っている以上に重要なものらしい。
「そこで利用するのが闘技場です」
「闘技場を?」
「はい。召喚したモンスターとPLAYERを戦わせて、PLAYER側に経験値を稼がせるというわけです」
「へー……なるほどなぁ……」
先ほどまでオクが考えていた、モンスター同士を戦わせて客に賭けてもらう闘技場とは、まるで発想が違う。
見せるために戦わせるのではない。
客自身に戦わせるのだ。
「そして、このやり方には実は一つポイントがあります」
「ポイントですか?」
「はい。先ほどRENさんは、ゴブリンで経験値をもらえるのはランクⅠの間だけと言いましたよね?」
「はい。言いました」
「ですが――」
オリバが人差し指を一本立てる。
「召喚したモンスターをPLAYERが倒した場合、相手とのランク差に関係なく経験値がもらえるんです」
「えっ……ホント?」
「ホンマか!?」
「本当ですか?」
それまで黙って話を聞いていたポロンたちまで、一斉に声を上げる。
蓮よりも他のクランメンバーが、今日一番の食いつきを見せた瞬間だった。




