第37話-風が吹いても桶屋は儲からないかもしれない
「ちょっと待ちぃや」
「えっ……」
大根との話し合いで、蓮の心は育成士へと傾きつつあった。
そんな蓮の心に、オクが物言いを挟んできた。
「別にREN君が召喚士になったって、大根のこと助けられるんには変わりないやろ」
「まあ……確かに……そうですね……」
オクの静かな言い方に、大根は言い淀みながらも肯定する。
「だったら悪いことは言わん。召喚士にしとき」
「オクさん、なんか……」
「RENさん、耳貸しちゃダメ。オクさん、なんか変なこと考えてる」
オクの言葉の意味をもう少し深く聞こうとした蓮を遮るように、ポロンが言葉を被せてきた。
「別に変なことは考えとらんよ。ただ、大根がREN君の助け必要なように、ウチもREN君の助けが欲しいっちゅうことや」
「オクさん……もしかして、まだ諦めてないの?」
「なんや大根。お前、煮物にして食うてやろうか?」
オクの言動自体は変わらない。
前からの独特なしゃべり口調も変わらないのだが、明らかに雰囲気が違う気がすると蓮は感じていた。
「あのー……オクさん、よければ事情を教えてもらえませんか?」
「やっぱREN君は優しいなぁ。もうホント、大好きやでぇ。あんな、ウチが今、ランクⅢのギャンブラーなんは知ってるよな?」
「あー、はい。この前教えてくれましたよね」
蓮は研究所の前で初めてオクと出会った時の挨拶を思い出した。
「そんでな。今度、ギャンブラーのランクアップしたいんやけど、そのための条件がちーとばかり足りんのよ」
「条件? 具体的には?」
「今な、ウチ、クランで賭博場を経営してるんやけど、そこにお客さんを1000人呼び込むのがランクアップの条件なんよ」
「へー……賭博場ですか。そんなこともできるんですね!」
アセット・フロンティア・オンラインのまた別の側面を見られた気がして、蓮はオクの言葉に素直に感嘆の声を漏らす。
「そやぁ。このゲームってすごいよね」
「そうですね。それで今、どのくらいのお客さんを入れたんですか?」
「17人や」
「17人?」
「そや」
笑顔で答えるオクをよそに、周囲の空気が一瞬凍りついた。
「……あと983人?」
「そや」
「無理じゃないですか?」
「全然無理じゃないんよ」
蓮には、オクの言葉が黒歴史を自慢する高校生の戯言にしか聞こえない。
そして、一切口を挟んでこない二人の反応を見る限り、どうやら似たようなことを考えているらしい。
それなのに、オクは満面の笑みで蓮に語りかけてくる。
「でも、それと俺が召喚士になることに何の関係が?」
「さっきREN君、召喚士はSPでモンスターを復活させられて、育成士はGが必要って言っとったやろ? そん時にウチのセンサーがピンと来たんや」
蓮は確かに先ほど、育成士と召喚士の違いについて、GとSPの話をした。
だが、それが実際にどうオクの狙いへと結びつくのか、さっぱり見当がつかない。
「えーっと……もう少し具体的に……できれば何をやりたいかっていうのを教えてくれた方が……」
「闘技場や」
「「「闘技場?」」」
オクの答えに三人の声が揃う。
「闘技場でREN君がモンスターを召喚するやろ? したら、そいつらでバトルロイヤルさせるんや。で、そのバトルロイヤルを賭けの対象にして、賭博場を盛り上げようっちゅう魂胆や」
「闘技場ですか……なんとなく話は理解できますが……」
「あー……なるほど。話が見えてきましたよ。モンスターを復活させる時に、GよりSPの方が効率いいですもんね」
オクの話に蓮はいまいちピンときていなかったが、どうやら大根は理解できたらしい。
「要するにですね。モンスターを複数使って戦わせる。その時に来た人たちが賭けて、最後まで残る一体を当てたら賞金をもらう。ここまでは大丈夫ですか?」
「「はい」」
蓮とポロンが揃って頷く。
「次の試合を行う際、育成士の場合はGを使ってモンスターを復活させる必要がある。でも召喚士の場合は、SPを使って再召喚すればいいんじゃないか、ということですね」
「あー……なるほど……。でも、そんなことってできるんですか?」
「できる。できるで!」
「そうですねー。100%とは断言できないですが、それに近い形ではできると思います」
ゲームを始めたばかりの蓮には想像しにくいが、どうやら先んじてプレイしていた大根から見ても、不可能という感じはしないらしい。
オク一人の思いつきではなく、大根まで「できる」と判断している。
そのことが、この時の蓮の中で妙に引っかかっていた。
「でもさー、オクさん」
ポロンが口を開く。
「オクさんの賭博場に人が入ってこないのって、種目が原因じゃなくて、宣伝してないからだと思うよ」
「…………」
ポロンがズバッと切り込んだのが効いたのか、オクは一切目を合わせようとしない。
「いや……ポロンちゃん。だから宣伝しようにも、目玉になるようなもんが欲しいっちゅう話をしとるんや」




