第2話-見習い開拓士
意識がふわりと浮かび上がるような感覚。
次の瞬間、蓮の視界は真っ暗な闇に包まれた。
「これが……フルダイブ?」
やがて闇はゆっくりと薄れ、視界一面が淡い水色の光に染まっていく。
足元も、空も、地平線もない。
ただ、水色だけが広がる不思議な空間だった。
ほどなくして目の前に半透明のウィンドウが現れる。
そして、どこからともなく優しく澄んだ女性の声が響いた。
『初めまして、REN999様。
私は今回、REN999様のチュートリアルを担当させていただきます。
ニールと申します。』
声が終わると同時に、光の粒子が集まり、一人の女性が姿を現した。
『まずは、この世界について簡単にご説明いたします。』
ニールが空中を軽く指でなぞる。
すると、一枚の巨大な地図が目の前へ映し出された。
『この世界では二百年以上にわたり、人類連合と魔王軍の戦いが続いています。』
地図の西側が赤く染まり、東側が青く光る。
『現在は大規模な戦争こそありませんが、小競り合いは各地で続いております。』
「へぇ……。」
蓮は思わず感心したように頷く。
『そのため王国は、この十年間で政策を転換しました。』
「政策?」
『はい。戦争による領土奪還ではなく、未開地域の開拓による国力増強です。』
「つまり、俺たちプレイヤーは……。」
『ギルド所属の冒険者として開拓事業へ参加していただきます。
モンスターを討伐し、街道を整備し、村を守り、新たな土地を切り拓く。
それが皆様の役目です。』
ニールは柔らかく微笑む。
『依頼を達成すると、ギルドから通常報酬とは別に【開拓クリスタル】が支給されます。
なお、依頼はモンスター討伐だけではありません。
橋の建設、鉱山調査、街道整備、集落防衛なども重要な任務となります。』
「開拓クリスタル?」
『詳細は後ほどご説明いたします。』
開拓クリスタル――。
初めて耳にする単語に蓮は首を傾げた。
だが、その疑問を口にするより早く、目の前の景色が再び変化する。
『それでは、キャラクターを作成いたします。』
空中に三つの種族が表示された。
【人間】
・全能力が平均的
・経験値取得量+10%
・全ギルドで信頼度補正
【エルフ】
・薬品・農業・魔法生産の成功確率+20%
・スキルポイント自然回復速度+10%
・NPC(エルフ族)との友好度補正
【ドワーフ】
・鍛冶・採掘・加工の成功確率+20%
・鉱石・鉱脈の発見率+10%
・NPC(ドワーフ族)との友好度補正
「なるほど……。自分の分身を設定するってことか。」
『はい。
なお、種族は一度決定すると変更できません。
どうしても変更を希望される場合は、すべてのデータを初期化し、最初からやり直していただくことになります。
慎重にお選びください。』
ニールの説明を聞き、蓮の表情がわずかに引き締まる。
普通のゲームなら、人間を選ぶのが無難だろう。
しかし、このゲームは戦うだけでは終わらない。
橋の建設。
鉱山の調査。
街道の整備。
エルフやドワーフの能力は、開拓を進めるうえで大きな武器になるはずだ。
「薬品や農業ならエルフ。
採掘や加工ならドワーフか……。」
どちらも魅力的だ。
だが、蓮にはまだ、この世界で何を中心に活動するのか決まっていない。
戦闘を極めるのか。
生産を極めるのか。
それとも依頼を幅広くこなしていくのか。
何も分からない今、一つの分野に特化するのは危険な気がした。
「それなら、最初は潰しが利く方がいい。」
蓮は人間の項目へ指を伸ばす。
『種族【人間】を選択します。よろしいですか?』
「決定。」
人間の項目が淡い光に包まれる。
『種族【人間】が選択されました。』
『続いて、初期能力および適性を表示いたします。』
ニールが再び指を動かす。
すると、新たなウィンドウが目の前へ展開された。
【戦闘系】
見習い戦士 ★★★★☆
見習い騎士 ★★★☆☆
見習い神官 ★★☆☆☆
見習い魔術師 ★★☆☆☆
見習い盗賊 ★★★☆☆
【生産系】
見習い鍛冶師 ★★☆☆☆
見習い錬金術師 ★★☆☆☆
見習い調薬師 ★★☆☆☆
見習い料理人 ★★★★☆
【開拓系】
見習い開拓士 ★★★★★
見習い採掘師 ★★☆☆☆
見習い農夫 ★★★☆☆
【経済系】
見習い商人 ★★★★☆
見習い鑑定士 ★★★☆☆
思わず画面へ見入る。
思っていた以上に職業の種類が多い。
『適性は、あくまで現在の資質を示すものです。』
『皆様の行動によって、新たな職業が解放されます。』
「開拓士……?」
蓮は眉をひそめた。
戦士や魔術師なら分かる。
商人も理解できる。
だが、開拓士という職業だけは聞いたことがなかった。
しかも適性は最高評価の五つ星。
神官や魔術師、それに鍛冶師や調薬師の評価が低いのも納得だった。
「エルフやドワーフなら、この辺りの適性はもっと高くなるのかもしれないな。」
人間を選んだからこそ、これだけ幅広い適性になったのだろう。
『なお、適性は皆様の可能性を示すものです。
適性が低い職業へ就くことも可能です。』
「なるほど」
ニールの適性が低い職業へ就くことも可能という言葉に安心した蓮は、見習い開拓士を選択した。
蓮が職業を選択すると、再び画面が切り替わった。
今度は目の前に、自身の詳細なステータスが表示される。
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名前:REN999
種族:人間
職業:見習い開拓士
レベル :1
職業ランク :Ⅰ
HP :100/100
SP :50/50
攻撃:10
防御:10
的中:10
抵抗:10
STR(筋力) :10
VIT(体力) :10
AGI(敏捷) :10
INT(知力) :10
DEX(器用) :10
LUK(運) :10
CHA :10
職業スキル:開拓士の目
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「ははっ……。ああ、なるほどね。そういうことか。」
蓮は、人間の種族説明にあった『全能力が平均的』という一文を思い出し、小さく頷いた。
すべての能力値が10。
突出した能力はないが、その代わり弱点もない。
まさに人間らしい能力バランスだった。
『こちらの数値は、あくまで初期能力値です。
冒険や開拓を進めることで変化していきますので、成長をお楽しみください。』
「それは分かったんだけど……
この【開拓士の目】って何なんだ?」
蓮は職業スキルの欄を指差す。
ニールはいつもの穏やかな笑みを浮かべた。
『職業スキルとは、各職業だけが持つ固有の能力です。
【開拓士の目】につきましては、ここでご説明するよりも、実際にゲームを進めながら体感していただく方がご理解いただけるかと思います。』
そう言うと、ニールは一歩下がり、優雅に一礼した。
『REN999様。
準備がよろしければ、これよりアセット・フロンティア・オンラインを開始いたします。』
目の前に半透明の確認画面が表示される。
【ゲームを開始しますか?】
YES NO
蓮は小さく息を吸い込み、【YES】へ指を伸ばした。
次の瞬間。
世界が、崩れた。
水色一色だった空間が無数の光の粒子へと分解され、辺り一面がモザイクのように揺らぎ始める。
その粒子は渦を巻きながら新たな景色を形作り、蓮の視界はゆっくりと別の世界へ染まっていった。
次に目を開いたとき、そこはアセット・フロンティア・オンラインの世界だった。




