閑話:宇宙
地球より約223億㎞離れた宇宙のとある座標。
無音。浮遊する矮小な星屑と塵。後は光以外には何もない。穏やかな場所。地点。座標。そこから見える景色は正に前人未踏の絶景であり、地球すら見えない寂寥の園。
2021年 未明。
変化があった。その地を船が通り過ぎていったのだ。鉄の船。人によって創られ、彼方に人の存在を示す言わば墓標が、虚空を横切った。
それだけだ。半永久的に人類の到達しえない虚空に向かい続けるのみ。それが人類にとってどれほどの偉業であっても、彼方においては動体がその時間帯に存在したというだけなのだ。誰もその箱舟に賞賛も、好機の目を向けることもない。
しかし、地球ーー日本にいるそれにとってはタイミングとして好機だったのかもしれない。
本は開き、化生が跳んだ。
地球に住まう強大な何者かの力を奪い去って、その霊体を即座に虚空を揺蕩う鉄の箱船へと召喚させたのだ。
鉄の箱舟の外殻を突き破り、雛鳥のように怪異が生れ落ちる。
人類の偉業を知らしめる墓標は四方八方にその古びたネジや鉄板を振り乱し、少し早めに役目を終えた。
さて、その箱舟の中から出てきたのは一体何だったのか?
それはーー星だった。
脈打ち。胎動し、子宮の中を蠢動する赤子のようで、成長する蛹のような星。黒く廃れた凶星。そんなものが呪われたようにのたうち回る。あるいは生を受けたように蠢く。生きているというわけではない、大きくなっているのだ。
化生。そう、化け物だ。
人より大きい星屑でしかなかったそれは、胎動する度に周りの砂利を押しのけて巨大化し、みるみるうちに虚空をその身で埋め尽くす。
ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。
音のない世界に音を与えるように壮大に、人の想像を超えるスピードで、星が星としての形を持っていく。
やがてそれは地球程の大きさになった。いや、地球と寸分たがわず同じ形と大きさになったのだ。
表面に水が湧きたち始め、海が形成されていく。植物が生えそろい森が出現し、山ができる。
そして、星の一部にビルが生え始めた。都市が形成され、道が舗装され、無人の星に地球の文明の生き写しができた。
地球より遥か彼方。223億㎞の果て。人類が足を伸ばすことのできない虚空に地球が誕生した。
無人の地球。偽の天体。そう、それこそこれより行われる【浪費】の娯楽の舞台。
そしてーークイーンの本体であった。
無人の地球を中心に空間が書き換わっていく。
上塗り、更新だ。
異空間が球状に広がり、元あった基底空間の上に異空間が重なる。
銀河系とまではいわずとも、太陽系まで寸分違わずに張り替えられていった。星の存在を押しのけて、引力、重力すら再現して見せて、空気の一片すら違わず、コピー&ペースト。
人類という矮小なものの観察のためには規模がでかすぎる機材だった。
だが、それでいい。
資源も力もありったけつぎ込んでこその娯楽。死兆星。【浪費】の女王の在り方だった。




