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第三章 第一話 都会派探偵(笑)の輝かしい実績

フッ……この街の闇も、俺のハッタリの前には形無しというわけさ。


気が付けば、俺(黒崎優斗・28歳・段ボール工場勤務)は二つの大事件を解決に導いていた。

・食品メーカー異物混入隠蔽事件。有力政治家を巻き込む大事件。

・和歌山令嬢失踪事件。他の探偵事務所とも連携した大規模捜索だった。

(※実際にはお父さんが勝手に自首しただけだし、もう一つは二人の母親が電話でキレ散らかしただけなのだが、探偵の脳内履歴書には『解決』と堂々記載されている)


だが、俺の実績はそれだけじゃない。

実は他にも、この街の治安維持に大きく貢献した「二大事件」があるのだ。


一つ目は、『大型スーパー連続窃盗事件』。

あれはいつもの夕暮れ時、俺がスーパーで見事な張り込み(ただの半額シールの惣菜待ち)をしていた時のことだ。

万引きがバレて店員から脱兎のごとく逃走しようとした凶悪犯――ばあさん(73歳)がいた。

俺はコートの襟を立てて立ちはだかろうとした。が、ばあさんは俺の手前で勝手に足がもつれて派手に転んだ。俺はその隙を逃さず、地面に転がったばあさんを「華麗に確保」したのだ。

(※実際は驚いて一歩も動けず、転んだばあさんの前に突っ立っていたら、追いついた店員に『あ、押さえててくれたんですか!』と勘違いされただけである)


そして二つ目は、歴史に名高い『車両窃盗団壊滅作戦』。

ある夜、俺が愛車(年季の入ったママチャリ)でコンビニへ買い物に行った時のことだ。

店から出ると、中学生と思われる男子二名が、なんと俺の愛車を盗もうと鍵をガチャガチャやっていた。


その時の俺の恐怖といったらなかった。なにせ喧嘩の経験ゼロである。心臓はバクバクだ。

だが、その時ばかりは俺も野生の獣と化した。

なんといっても俺の愛車だ。明日からの工場通勤がかかっている。ここで盗まれたら一大事だ。


(え? もしこれが他人の自転車だったらって? ……う〜ん、世の中にはもっと巨大な悪が散在している。なんにでも首を突っ込むのはハードボイルドじゃない……きっと,、たぶん)


俺は涙目で「おいコラァァァ!!」と叫びながら突撃した。

――突撃したはいいけど、そのあとどうすればいいか分からず、相手の腰にしがみついてもみ合っていたら、たまたま巡回していた警官が駆け寄ってきて取り押さえてくれた。


逃げたもう一人も、捕まった中学生が警察で仲間をゲロったことで後日一網打尽に。結果、地元の不良中学生による自転車泥棒ネットワーク、もとい『車両窃盗団』は完全に壊滅したというわけさ。


「フッ……この街で悪事を働こうなんて、百年早いんだよ」


休日の午後。

俺はいつものように、サイズの合わない黒スーツを着て純喫茶『ノア』のボックス席にいた。

百円ショップのショットグラスではなく、ここではマスターが淹れてくれた本物のブレンドコーヒーを嗜んでいる。


「……何が百年早いんだい、黒崎ちゃん」


胡麻塩頭に黒いボウタイ、赤いタータンチェックのベストを粋に着こなしたマスターが、呆れたように声をかけてきた。

どうやら、自分の輝かしい実績を思い返すあまり、またしても小声でブツブツと独り言を漏らしていたらしい。


「いや、マスター。探偵ってやつは、常に過去の事件をプロファイリングしているものさ」


ハッタリをかます俺に、マスターは「はいはい」と苦笑いしながら、店の入り口の方をチラリと見た。


「それより黒崎ちゃん。実は、ちょっと頼みたいことがあってね……」


マスターの目が、いつになく真剣に細められる。

ついに来た。町内会のおばさんネットワークで仕入れていた、あの『極秘情報』の出番だ。


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