第二十章 第三話 男の盲目
宮本勝利の足跡を追って、俺はさらに何日も横須賀の基地周辺や、かつて彼が会社を構えていたという横浜のオフィス街へと足を運び、当時の関係者を探し歩いた。
バブル期の宮本を知る元従業員の男から得られた証言は、金儲けの狂騒の中で彼が失っていったものの大きさを物語っていた。
「宮本社長は高度経済成長の波に乗って、バブル期には信じられないほどの富を築きました。高級外車を乗り回し、夜の街で大金を注ぎ込んで、浮かれていましたよ。内縁の妻だった芳江さんのことはすっかり蔑ろにして、家に帰ることもほとんどなくなっていました。ある日、社長が数日ぶりに部屋へ戻ると、芳江さんはすべての荷物をまとめて無言で出て行った後だったそうです。その時社長に同行していた社員によると、社長はポケットから1枚のコインを出し握りしめ『なんだよ、お前に抱えきれないほどの金貨を贈るため、オレは必死で稼いでるのに』と一言、その後社長の口に芳江さんの話題が出ることはなかったと聞いてます」
男は金儲けに忙しく、何のために金を稼いでいるのかという目的と手段が入れ替わり、本当に大切なものを失ったことにすら気づいていなかったのだ。
だが、その後の宮本の後半生は転落の一途だった。
バブルが崩壊すると、事業は一気に傾いた。十年ほど前に会社をたたんでからは、大河原さんの古アパートへ流れ着き、生活保護を受給するほどに落ちぶれていたという。
アパートの近隣住民の聞き込みからは、宮本老人の姿を窺うことができた。
「宮本さんは本当に生活が苦しそうで、自己破産の手続きを進めるような状態だったよ。でもね、なぜかあの古い外国の金貨一枚だけは、どんなに電気やガスを止められそうになっても、『これは俺の物ではないから売るわけにはいかないんだ』と言っていた。あの世には金は持っていけないぞってみんなで陰口言ったものさ」
すべてを失ってもなお、若き日の約束の破片である三十一グラムのイーグル金貨だけは、手放すことはできなかった。それが孤独死した老人の最後のプライドだったのだろう。
俺は宮本の足跡を辿る一方で、当時無言で出て行った芳江さんのその後の戸籍を追った。
彼女は横須賀の村を出た後、別の男性と結婚して姓が『佐藤』に変わっていることが分かった。その後、夫には先立たれ、現在は身寄りのない状態で、市内の介護施設に入所しているという具体的な居場所までようやく突き止めた。
手帳に『佐藤芳江(85)』の入所先を書き留めた俺は、宮本勝利が最期に遺した、たった一枚の重みを持つ茶封筒を内ポケットで確かめ、彼女の待つ施設へと向かうのだった。




