第二十章 第二話 横須賀の記憶
大河原さんから依頼を受けた翌日、俺は二人の生まれ故郷である横須賀の寂れた村の跡地へと足を運んだ。
かつて貧しい集落だったというその場所は、今ではすっかり過疎化が進み、古い家屋が数軒点在しているだけだった。俺は初日、村に残る数少ない高齢の住民を数人訪ねて回ったが、何十年も昔の宮本勝利や芳江という名に合致する記憶を持っている人物には、そう簡単には出会えなかった。収穫のないまま、その日は帰るしかなかった。
日を改めて数日後、俺は再び横須賀へ向かい、かつて芳江さんが中学を卒業してすぐに働き始めたという、地元の食堂の跡地周辺へと範囲を広げて聞き込みを再開した。
寂れた街道沿いの古い商店で、当時から店を構えているという店主の老人が、ようやく俺のノートに書かれた名前に反応を示してくれた。
「ああ、勝利と芳江ちゃんかい。懐かしい名前だねえ。芳江ちゃんは本当に健気な子でね、中学を出てすぐにあそこの食堂で夜遅くまで必死に働いていたよ。勝利の奴は、中学を出るとすぐに米軍基地の周りをうろついて、米兵相手に怪しい商売を始めていたな。二人は基地のそばの小さな部屋で一緒に暮らしていたはずだよ」
老人は目を細めながら、当時の二人の様子を曖昧な記憶をたどって語ってくれた。
「勝利の口癖はね、いつも周囲に向かって『オレは絶対に成功して、芳江に抱えきれないほどの金貨をプレゼントするんだ』って豪語していたことさ。アメリカの豊かさに目を奪われていたんだろうね」
その老人の店を後にした頃には、すでにだいぶ遅い時間になっていた。俺は帰りの電車に乗り、手帳に記された断片的な情報を整理した。
若き日の宮本勝利が語っていた「抱えきれないほどの金貨」という大きな約束。
そして、大河原さんから預かった茶封筒の中にある、たった一枚の、だけどずっしりと重い三十一グラムのイーグル金貨。
(あの金貨は、その口癖の成れの果てだったってわけか)
二人の暮らしぶりの一端は見えてきたが、肝心の芳江さんが村を出た後の足取りや、現在の姓、居場所まではまだ繋がらない。俺は手帳を閉じると、宮本がその後、高度経済成長とバブルの熱狂の中でどのように成り上がり、そして転落していったのか、宮本勝利の足跡を追って基地周辺の繁華街へと調査を進める準備をするのだった。




