第十四章 第三話 符合の暗号と、夜の作戦会議
俺は手に入れた古本のすべての書き込みをコピーし、夕方の『蜘蛛の巣』の開店前の店内で、土屋さんと再び顔を合わせた。
ママにお願いして、奥のテーブル席を臨時の作戦会議の場として借り受けていた。
テーブルの上に広げられた、小説の余白に残る無数の数字とアルファベット。
土屋さんはその文字をじっと見つめながら、5年前の記憶の糸をたぐり寄せるようにして呟いた。
「この『〇ST』の横にある『0812』という数字……。これは、小林が現場で亡くなった、あの事故の日の日付です」
「やはりそうでしたか。この短編集の他のページに書かれている数字も、すべて過去の裏金が動いた日付と金額に間違いなさそうです」
俺は役所の公開データと照らし合わせたメモを提示した。
落札価格と実際の現場費用の矛盾、そして裏金が作られた時期。
すべてのパズルが、この本に書き残された日付と一致していた。
専務が自身の保身と市議会議員との取引の証拠として、誰にも分からない形で残した、これ以上ない一級の不正の備忘録。
だが、最後に残された一番不自然な書き込みの謎が、まだ解けずにいた。
裏金作りの全貌が書かれた最後のページの隅に、ただ一行、不自然な文字列が残されていたのだ。
【3FSS・No24】
「土屋さん。この書き込みに、何か心当たりはありますか?」
俺の問いかけに、土屋さんはハッと目を見開いた。
「……3階の資料室。3Fは3階、SSは私が今、配置換えされて管理している本社の資料室のことだ。確かに自社ビルの3階にあります」
「そこに『No24』という番号に該当する場所はありますか?」
「資料室の最奥にある、古いスチール製の保管棚です。重要書類を収める棚が並んでおり、そのなかの24番の棚は、5年前の『〇〇区新庁舎』の建築図面や現場の収支報告書の原本が保管されている場所です」
すべての線が、一本に繋がった。
専務は、議員を脅すための決定的な証拠となる過去のデータを、自分が横暴を働いて閑職へ追いやった土屋さんのすぐ目の前にある、本社ビルの資料室の保管棚の奥深くにひそかに隠匿していたのだ。
灯台下暗しとはことことだった。
「土屋さん。その24番の棚を今夜、悪党どもに気づかれないようにひそかに確認することはできますか?」
「ええ。今の私なら、夜間の資料室の鍵を持っています。誰にも見られずに中を調べることは可能です」
土屋さんの目に、5年間の無念と、亡き部下への落とし前をつけるための強い光が宿った。
深夜の会社に忍び込み、証拠の現物を確保するための、静かな夜の作戦が今まさに決まろうとしていた。




